吹雪、桜、音楽、邂逅…その一 | |
この3月から
4月にかけて久し振りに桜の季節に日本で仕事となりましたのでご報告がてら思う事を書きます。一つ一つの出来事についてちょっと長くなりそうなので、シリーズにします。題名の順を「桜、吹雪〜」とすると何となくモロ肌脱いでお白州でのお裁き拝聴の時代劇(!)みたくなってしまうので吹雪を先にしました(^O^)。 | |
まずは3月18日 には栃木県足利市で何と!「講演会」(受講生約50人)でお話すると言う☆生れて初めての☆お仕事をいただきました。自分のコンサートを解説やお話をしながら進めるのはもう10年以上していますから何てこと無いですが、「話だけ」つまり「演奏無し」と言うものは初経験です。主催者からは演題を「It's アメリカ」と定めシリーズで何人かの講師の方がそれぞれの分野でのお話をするとの事。「高齢者の方が多いので判り易いお話をしていただければ…」とも伺いましたのであまり深く考えず(普段の生活から感じる事などを中心にお話すれば良いかな…)とかなり漠然とした心積りだったのですが、公民館について講座のパンフレットを見てビックリ!「○○大学博士過程卒現在○○大学教授」の先生方、「ゴジラ」を制作された著名な映画監督さん、ちょうどイラク戦争が始まる直前だったためかテレビによく登場していた女性の中東専門家の方とか、もう経歴だけで「ヘヘー!」と土下座しそうな素晴らしい方達ばかりじゃないですか!その講座のトリをとった私の経歴はと言えば…「ニューヨーク在住フルート演奏家」…(こんなの聞いてないヨ〜!)と開講一時間前ほどに頭の中はパニック状態、冷や汗が流れてきたのでした。どうりで確認のお手紙をいただいた時に「資料はどのくらいコピーしましょうか」とか「スライドの用意もあります」とか何となく大袈裟な感じ?がしたのですが、実は大袈裟でも何でも無く、ちゃんとそう言う事をした人達がいた!と言うのが判明した訳で、そんなにきちんとした「講座」をずっと聞いてきた人達に原稿も資料も持ち込まずに言葉だけで約1時間半を過ごす…冷や汗がジワーっと2倍になりました。 | |
(ええい!ママよ!) と腹をくくりましたが、アレレ?いつもと勝手が違います。…机と椅子があり…目の前には譜面台の代わりにデンとマイクが置かれ…傍らにお絞りとペットボトルのお水とコップ…これって完璧に「講演会モード」です。また、普段のコンサート・ステージでは客席との間に段差があり距離が通常4〜5メートルありますが、今回平間で近い人は僅か2〜3メートル、聴いている方の表情まで良く見えるものです。何人かの方はメモの用意をして真剣な目つきでこちらを見ています。「高齢者の方が多いので…」という主催者のお話だったのですが、パッと見た限りでは「お年寄り」と言う感じの方は殆どおらず、男性の方が多いのも何となく不思議な感じがしました。自分の本業であるコンサートは女性が聴衆を占める割合が比較的多いのでこの辺で違和感があったのでしょう。(あの…男の人が多かったからやりにくかったと言う訳ではありませんので念のため) ともかくも「講演」が始まりました。先ほど冷や汗と書きましたが、いざ座ってみれば気持ちは平静となり、自分でも驚くくらいスムースに言葉が出てきました。ニューヨークに渡った経緯、初めて歩いたマンハッタンの朝の様子、英語が出来なくて四苦八苦した事、自身が受けたカルチャー・ショックの内容を後から分析し辿り着いた「日本人とアメリカ人の思考方法の相違点について」等など…。時間が経つにつれて自分でも不思議なくらい話が途切れないのにかえって驚きました。そして自分が言葉を発している時の聞き手の表情も手に取るように見え、まるで自分の口からオートマチックに言葉が出てそれをまた別の自分が観察している風な錯覚さえ覚えました。1時間を過ぎた頃から聞き手に疲労が現われたので、それを緩和するためにジョークを交えたり話題を軽いものにシフトする、なんて事も自然に運べた気がします。 | |
後日談 ですが、スピーチをスムースに運び尚且つ飽きさせないためには作曲家がその才能を駆使した音楽作品(曲)作りと共通点がある事に気がつきました。序奏があり、主題の提示があり、展開部がありクライマックスを作る、主題の再現がありコーダを経て終結部に移る…。そんなスタンダードな「型」がスピーチにも当てはまります。また作品(スピーチ)をより魅力的にするためにプラス・アルファとして自分の言いたい事の本筋から外れず、時折はジョークなど混ぜてお客さんの気持ちをリラックスさせる等の「装飾」が必須なのは言うまでもありません。 | |
今回の講演会 はその題名「It's アメリカ」に沿い、私が初めてニューヨークに足を踏み入れた1980年から今までの時間軸を中心として、時折の事件や出来事から自分が感じた事、考えさせられた事、加えて私のアメリカを愛する気持ちをフルートで音楽を紡ぎ出す様に率直にお話させていただく事が出来たと思います。後日主催者の方から講座に出席されていた方々からの評判が上々であった旨を聞き、生れて初めての「講演会」は成功裏に、また無難に終ったと確信できて本当にホッとしました。(実はこの秋に再度の「講演」依頼をいただきました) | |
思い出せば 私のジュリアード音楽院時代の恩師、故サミュエル・バロン先生はソロや室内楽のコンサートで良く「お話」をされていました。曲目解説の中に混ぜる当意即妙のジョーク、人の気をそらさない落ち着いた口調、決して気取らず、自慢話もせず、言葉の端々からご自身の本当に音楽が好きな気持ちが聞き手にありありと伝わる、本当に素晴らしい先生でした。私は先生のそんなステージに接する度に(先生の様になりたい!)と心から思っていました。この講演会を終えてみて私は、恩師の姿を知らず知らずの中に追っている事を感じました。そして、もし皆さんに喜んでいただけたのなら、バロン先生から自分が学んだものは私自身が考えるよりも遥かに大きく深いものなのだろうと、思いを新たにした次第です。 2003年5月2日 相 場 皓 一 ▲FROM NEW YORKのページに戻る ホームに戻る |