2006年4月より、軽度者の重症化を防ぐ目的で介護保険に「介護予防事業」が導入されていますが、この事業の対象となる「特定高齢者」(要介護認定を受けてはいないが生活機能が低下、介護が必要となる恐れの高い高齢者)の把握をどのように行うかが多くの自治体で課題になっています。青森県ではこの特定高齢者の把握に薬局が取り組んでいることを各紙が伝えています。
既に日薬では、日頃接している高齢者の中から、対象者である人を早期に見つけ出し、地域包括支援センター(予防給付のケアプラン策定や介護に関する総合的な相談やマネジメントを担当するところで、市区町村または、市区町村から実施委託を受けた在宅介護支援センターなどが設置)へ連絡する役割が期待されているという方針を打ち出していますが、具体的取り組みが伝えられたのはおそらく今回が初めてだと思います。
今回の取り組みは、青森県と青森県薬剤師会が始めた「まちかどセルフチェック」というもので、医療機関を受診後、薬をもらうために調剤薬局を訪れたお年寄りに、本人の同意を得て薬剤師が基本チェックリストについて質問し、結果次第で本人の同意を得て市町村の地域包括支援センターにFAXで情報提供を行うというもので、健康診断を受けていない人についても受診を勧めていくという。
一方、情報提供を受けた地域支援センターでも薬局に対しては、その対応結果についてフィードバックを行っているそうです。青森県では、その目的について次のような意義があるとしています。
- 特定高齢者の候補者となる恐れのある高齢者を早期に発見すること
- 地域包括支援センターや介護予防についての普及啓発の機会とすること
- 基本健康診査の受診勧奨の機会とすること
- 地域包括支援センターと薬局のネットワークづくりの機会とすること
- 結果連絡については対応結果が大きな問題ではなく、これを一つの機会としてネットワークづくり連携の強化を図る
また、青森県薬ではこの事業を実施するにあたっては、下記の内容の4時間の研修を実施するとともに、レポートの提出も義務付けています。
- 健康まちかど相談薬局事業、地域支援事業の概要、ケアマネジメントの理解と薬剤師の関わりについて
- 介護保険制度・介護保険サービスの基礎理解、特定高齢者把握事業について
- 地域包括支援センターの役割と薬局との連携
- 演習問題
現在のところ、行政と薬局との間で情報交換の体制が整っている、青森市やつがる市など青森県内の12市町村260ヶ所の「健康介護まちかど相談薬局」で1月よりスタートしていますが、青森県ではこれを機に、高齢者が立ち寄る店舗や施設など、あらゆる場所にチェックリストを備えてもらい、セルフチェックできる体制整備が全県に広がることを期待しています。
ただ、今回の対象者として把握された人は、あくまで「特定高齢者の候補」であり、市町村が医師の問診や血液検査の結果などを総合的に判断して初めて、介護予防事業の対象となる「特定高齢者」となります。こういった要件の厳しさからか、「特定高齢者数」を昨年9月の状況を全国の1838市町村で調べたところ、わずか0.21%に留まり、厚労省が想定していた5%程度という数字を大きく下回っています。
このため、自治体からは基準が厳しいためにサービスを受けられる高齢者が少ないとして、基準の緩和など制度の見直しを厚生労働省に要望が続出、1月21日の朝日新聞によれば、厚労省も制度の運用を大幅に見直す方針を固めたと伝えています。
高齢者の中には自宅に閉じこもったり、検診を受けない人ために、健康状態の把握すらできない人も少なくないと思います。そういった意味で、高齢者と日常的に接する機会の多い薬局では、今回青森県が行っている取り組みを積極的に行う必要が出てくるのではないかと思います。
資料:地域包括支援センター・介護予防事業担当者会議(2007年3月14日開催)
資料(資料11をご覧下さい)(WAM NET 3月26日掲載)
三重県HPに掲載された資料(上と同じものです)の方がきれいです。
関連情報:TOPICS 2006.04.13 特定高齢者と介護予防手帳
介護予防関連(厚労省)http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/hoken/yobou.html
医療者が認識すべき格差の影響-経済格差が引き起こす健康格差
(医学界新聞 2007.2.5)
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2007dir/n2718dir/n2718_01.htm
参考:陸奥新報2月9日
http://www.mutusinpou.co.jp/news/07020905.html
朝日新聞1月21日、2月9日
2007年5月2日 12:40更新
2007年02月10日 23:00 投稿