国立保健医療科学院(http://www.niph.go.jp/)の今井博久疫学部長らの研究グループは、高齢者が避けたほうがよい医薬品をリスト化した「Beers Criteria 日本版」をまとめ、同科学院ウェブサイトで公表しました。朝日新聞によれば、患者の年代に着目して「不適切な薬」がリスト化されるのは国内初とのことです。
Beers Criteria 日本版(国立保健医療科学院ウェブサイト・疫学部)
http://www.niph.go.jp/soshiki/ekigaku/BeersCriteriaJapan.pdf
Beers criteriaの日本版の開発
(財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団 第13回ヘルスリサーチフォーラム講義録)
http://www.health-research.or.jp//library/pdf/forum13/fo13_4_01.pdf
Beers Criteria(Beersリスト)は、米国のベアーズらが、65歳以上の高齢者にとって、ある薬剤処方が望ましくない結果をもたらすという観点から、1990年代に、3段階に分けてリストアップしたものが始まりで、欧米各国では、「高齢者に不適切な医薬品リスト」として広く使われています。
このBeers Criteria 日本版 では、「高齢者において疾患・病態によらず一般に使用を避けることが望ましい薬剤」として、ベンゾジアゼピン系薬剤、NSAIDS、心臓病治療薬、降圧薬など約70種類がリスト化されている他、糖尿病や肥満、認知症、潰瘍など25の病気別に、「高齢者における特定の疾患・病態において使用を避けることが望ましい薬剤」がリスト化されています。
朝日新聞によれば日本版は、「服薬によってふらついて転倒する、幻覚が出る、尿の出が悪くなるなどのリスクがあり、薬効による利益を上回る恐れがある」「代替できる薬がほかにある」の2項目をリスト選定の基準とし、ベアーズらのリストを基に、国内外の副作用事例に関する論文を検討して原案を作成、さらに内科学や臨床老年医学、老年精神神経学、薬剤疫学などの専門家の意見を聴いてまとめられたものだそうです。
日本版でも外国版と同様、注意すべきとした理由や起こりうる副作用などが記載されていて、たいへん役に立ちそうです。後期高齢者医療制度での私たちの役割を考えたとき、こういったリストを把握し、これを基に医師に情報提供をしていくことも必要ではないかと思います。
関連情報:TOPICS
2007.09.15 高齢者に対して特に慎重な投与が求められる薬
不適切な薬剤処方と関連する医師特性
(財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団 第9回ヘルスリサーチフォーラム講義録)
http://www.health-research.or.jp//library/pdf/forum9/fo09_ima.pdf
介護保険施設における不適切な薬剤使用のprevalenceとrisk factorに関する研究
(財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団 第13回ヘルスリサーチフォーラム講義録)
http://www.health-research.or.jp//library/pdf/forum13/fo13_9_03.pdf
参考:朝日新聞4月1日
http://www.asahi.com/life/update/0331/TKY200803310352.html
4月2日 1:00掲載 3日リンク追加 2015年4月3日リンク更新
2008年04月02日 01:00 投稿
くすりの適正使用協議会が発行する“RAD-AR News”の最新号RAD-AR News Vol.19,No3に、同協議会の運営委員会で今井氏が行った特別講演「ビアーズ基準の日本語版の開発と活用方法 その反響と今後の展望について」の概要と、「ビアーズ基準」などの用語解説が掲載されています。
くすりの情報ステーションライブラリ(電子ブック版)http://www.rad-ar.or.jp/03/03_news/03_news_index.html
RAD-AR News Vol.19,No3
http://www.rad-ar.or.jp/news/pdf/rad-ar-news19-3-2008oct.pdf#page=8
あるMLからの情報です。(一部再掲お許し下さい)
今井氏は上記RAD-AR Newsや、病薬アワー(2008.8.18放送:
PDF)で、このリストは科学的・論理的な方法で開発されたと主張していますが、現場からは診療の現場のニーズや実態を反映していない、代替薬がなぜ具体的に示されないのか、本当にその代替薬が適切なのかなど、このリストへの疑問や批判などが少しずつ出てきているようです。下記サイトには各種リンクがあります。“高齢者に不適切な薬のリスト”は不適切である!
ビアーズ基準の日本版”をめぐって」
(井原医師会(岡山県)、これが正論だ第25話)
http://www.ibaraisikai.or.jp/information/iitaihoudai/houdai24.html
RAD-AR-Newsで、今井氏が示しているとおり、このリストは専門家による“コンセンサス”であり、“エビデンス”ではありません。まず、現場の専門家によってさらなる検討が必要であったのです。
にもかかわらず、メディアによって一般の目にさらされることになり、かえって患者に不安をあおるという結果となってしまいました。このことは、私も大いに問題だったと思います。
尚、日病薬誌の2009年1月号にも、慶応大学薬学部社会薬学の福島紀子教授による総説が掲載されています。