とても気になる動きです。先月まとめられた「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」の報告書では、医薬品のネット販売について「販売時の情報提供を行うことが努力義務になっている第ニ類医薬品については、販売時の情報提供の方法について対面の原則が担保できない限り、販売することを認めることは適当ではない」と記載され、第三類医薬品のみに限定されました(関連記事:TOPICS 2008.7.5)が、これに対し、ネット販売業界などから第ニ類の販売継続を目指しての反論が開始されています。
まず6日に、NPO法人日本オンラインドラッグ協会(http://www.online-drug.jp/)が 『対面の原則を担保し、安全・安心な医薬品インターネット販売を実現する自主ガイドライン』を発表し、「これにより、Webサイトやメールなどを通じて購入者の状態を把握し、適切な情報提供を行うことが可能」だとして、医薬品のネット販売継続を認めるようことを求めると共に、「情報技術革新の発展によって、現在または将来、消費者が享受できるはずの恩恵の芽までも摘みかねない。また、突然法令によって規制されると、中小の薬局・薬店の事業継続を阻害することにもなる。」と懸念を表明しています。
NPO法人日本オンラインドラッグ協会活動報告2008年
http://www.online-drug.jp/2008/
関連情報:第5回 医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会
(2008年4月4日開催)
議事録 資料 (同協会が検討会で意見を述べています)
次いで7日には、ヤフーや楽天などインターネットショッピング運営事業者の他、(相談による)漢方薬販売などを手がける店舗など事業者100社が連名で、舛添要一厚生労働大臣あてに意見書を提出しています。数的には重みがありますが、賛同している事業所の中には楽天市場などに出店しているところも少なくないので、ネットショッピング運営事業者主導ですすめれたのでしょう。
医薬品のネット販売制限に対して100社連名で厚生労働大臣宛の意見書を提出
(楽天株式会社プレスリリース8月7日)
http://www.rakuten.co.jp/info/release/2008/0807.html
意見書によれば主張は以下の通りです
- 医薬品の適切な選択及び購入、適正な使用のための的確な状況に基づく情報提供の実施が満たされるのであれば、国民の健康維持という観点からは。適切な医薬品を購入し服用する機会を奪うべきではない
- 情報通信技術を活用する場合でも、提供方法の工夫により、店舗販売の場合と同等(同等以上のものが可能とも感じられます)の情報提供が可能
- 例えば、医薬品の公式サイトヘのリンクをはることにより、医薬品の詳細情報を提供することが可能
- 購入に関して羞恥心を伴う種類の商品に関する情報提供は、メールや電話を用いることで相談しやすい
- 乳幼児や要介護者を抱える、外出が困難で店舗の出向くことができない高齢者・障害者などに対してニーズがある
- 米国・英国・ドイツなどではネット販売が認められている
- 対面による相談ができないことを原因とするトラブル事例は今まで特段ない
改正薬事法による医薬品のネット販売意見書(楽天Hpに掲載)
http://www.rakuten.co.jp/pr/2008/0807/release_0807_01.pdf
Internet watch japan によれば、ヤフー広報部の話として、「意見書の提出により消費者の利便性を確保した上で、Yahoo!ショッピングでも販売を継続していきたい」と伝え、どうやら世論を見方につけて、検討会の結論を無視して正面突破するようです。
改正薬事法施行前だからかまわないというのでしょうが、楽天市場サーチ(http://www.rakuten.co.jp/esearch/)で、「シガノン」「ニコチンパッチ」「ヘルペシア」「フレディCC」などの第一類医薬品名をキーワードにいれると販売店がたくさん表示されます。中には、薬局向けパンフをスキャナして堂々と載せている店舗もありました。(これにはあきれました) 楽天にとっては、出店料さえもらえばあとは感知しないということなのでしょう。
また、海外ではネット販売が自由ではないかとのことですが、世界的には処方薬を中心に「ネットでの医薬品の購入は、偽物などがあるのでやめましょう」という流れもあります。OTCなら大丈夫だろうと思うかもしれませんが、技術進歩の今日、価格が高いヒット商品が出れば、偽物がでないとは限りません。海外では偽物を買わされることも少なくないため、安全なサイトであるかどうかの認証制度を導入する国も少なくないようです。
例えば米国では、 99年に連邦薬事委員会連合(the American National Association of Boards of Pharmacy, NABP )が自主的に「公認インターネット薬事営業サイト(Verified Internet Pharmacy Practice Sites, VIPPS)」を立ち上げ、連邦法および州法の遵守に同意した適切な免許を持ったインターネット薬局であるかがわかるようにしています。
Buying Prescription Medicine Online:A Consumer Safety Guide(米FDA)
http://www.fda.gov/buyonlineguide/
Verified Internet Pharmacy Practice Sites
http://www.vipps.info/
一方英国では、英国王立薬剤師会が倫理規範などを盛り込んだ”Professional standards and guidance for internet pharmacy services”を作成して、OTCも含めて「購入者が本当に必要なのかどうか確認する」「濫用の可能性があることを留意し、大量購入や頻繁購入がある場合には販売を拒否する」などを行うよう求める他、インターネット販売が適切に行われているかどうかの認証制度も導入しています。
Professional standards and guidance for internet pharmacy services
http://www.rpsgb.org/pdfs/coepsgintpharm.pdf
Internetpharmacylogo
http://www.rpsgb.org/registrationandsupport/registration/internetpharmacylogo.html
どうも、大きな声を出した方が勝ちというふうになるような気もしてきました。もし今、業界に押されて検討会の報告書に対するパブコメをやったら、おそらくひっくり返されてしまうでしょう。過去にも例がありますから。万が一検討会の報告書通りにならなかった場合には、薬剤師会などによる認証制度導入の必要性があるかもしれません。
ネット販売に活路を見出した中小の薬局や、漢方を専門にする薬局などにとっては死活問題であることは理解できます。しかし一般用医薬品は過度の期待や、誤用や悪用、濫用が行われる可能性も留意しなければなりません。ネット販売がこれらを未然に防ぐ手立てを有しているとは必ずしも思えません。
習慣性のあるものや濫用の危険性があるもの(コデイン・デキストロメトルファン)は別分類にする、英国や豪州などのように、医薬品分類を成分だけではなく、包装単位ごと(アセトアミノフェンの自由販売は○錠入りまでなど)に規制を設けるべきではなかったのではないかと改めて思います。
時を同じくして、コンビニ業界も一般用医薬品販売に大きな関心を寄せ始めました。その一方で、消費者の選択(実際には売り手側の効率主義)の名の下にすすめられてきたOTCのセルフ販売の流れは、調剤薬局や小規模薬局の一般用医薬品販売への関心を低めてしまっています。(日経DI8月号の記事では、小規模薬局一般用医薬品販売から手をひくことも選択肢の一つだとまで勧めています)
薬剤師によるOTCの積極販売という話は今後どうなっていくのでしょうか? お盆前のタイミングで発表し、日薬や消費者団体がすぐに反論できないというのもねらったのでしょうか? どうする、日薬。
参考:患者の安全を守る看護師:偽造および規格外医薬品対策(日本看護協会ウェブサイト)
http://www.nurse.or.jp/nursing/international/icn/day/data/ind2005.pdf
医薬品ネット販売継続を、改正薬事法に向けた自主ガイドライン
(Internt Watch Japan 8月6日)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/08/06/20502.html
ヤフーや楽天が厚労省に意見書、医薬品ネット販売制限の見直しで
(Internt Watch Japan 8月7日)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/08/07/20520.html
8月8日 9:40更新 11:30更新 9日 22:40更新
2008年08月07日 23:34 投稿
海外のOTCをオンラインで販売してるサイトをいくつか訪問してみました。
英国で唯一スイッチされているシンバスタチンのスイッチ品”Zacor Heart-pro”も購入できます。まとめ買いも可能なようです。
http://www.lifepharmacy.co.uk/product.aspx?productid=814
但し、上記ページをよく見ると、Pharmacy Medicineは購入者が必要な薬であるかどうかを確認するために、「年齢」「性別」「以前使用したことがあるかどうか」「どのような症状が。どのくらい続いているか」を具体的に記入し、オンラインで伝えることが必須のようです。”Zocor Heart-pro”で症状を具体的に記入するというのは難しいとはおもいますが。
右上の方に、英国王立薬剤師会と全国薬局協会の認証がありますね。購入者の記録なども、正しく販売されているかどうかチェックするのでしょうか?
一方、豪州でも薬剤師用薬(Pharmacist-only-medicine)の購入が可能のようです。以下は、あるサイトのジフェンヒドラミン配合のOTCです。
http://www.epharmacy.com.au/product.asp?id=1092&pname=Benadryl+Original+Cough+Medicine+500mL
上のほうを見ると、これは薬剤師用薬なので、オーダーした場合には指定の電話番号まで48時間以内に電話し、薬剤師のアドバイスを受けることを求めています。電話をしない場合には注文自体が無効になるそうです。
両国のサイトをみる限り、きちんとした情報提供を行うと共に、購入者の状況を把握すること、販売事業所は認証をうけるなどをクリアすれば、インターネットによる販売は自由のようですね。(習慣性のあるものについては、さらに確認してみます)
みなさんは、どう思います?
やはり、厚労省はインターネットによる通信販売を認める大衆薬の範囲について、パブリックコメントを行うようです。これで、ネット販売業者の声に押されて、検討会の報告書案から大きく後退する可能性が出てきました。
大衆薬のネット通販、範囲明確化へ(医療介護CBニュース9月12日)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/18186.html
範囲を検討するのも結構ですが、外箱表示、添付文書以外の情報を認めないなど、サイトにおける情報掲載のガイドラインについても示すことが必要ではないのでしょうか?
パブリックコメントが開始されたら、紹介します。
10月7日、政府の規制改革会議が厚労省との公開討論を開いたそうです。
医療介護CBニュース10月8日(一定期間が過ぎるとログインが必要です)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/18580.html
同会議の委員からは、「ネット通販やカタログ通販など対面でない形で売られた結果、副作用や事故が把握していないのに全面禁止するのはおかしい」などの意見が出されたようです。