OTC販売時の業務指針・チェックリスト(英国)

 スイッチOTCがますます増えている今日ですが、OTC販売時の薬剤師向けの情報というと、「調剤と情報」などの薬剤師向けの雑誌記事や、「OTC薬ガイドブック」(じほう)などの書籍があるくらいで、本当に少ないということを実感させられます。

 一方、次々と処方せん医薬品がスイッチされる英国では、薬局用医薬品などが適切に販売に販売されるよう、コンパクトにまとめられた薬剤師向けの業務指針(Practice Guidance)やチェックリストが、英国王立薬剤師会のWEBサイト、同会雑誌のPJ誌に掲載され、どこの薬局でも同じような販売業務が行えるようにしています。

 以下、その一部を紹介したいと思います。(残念ながら、英国王立薬剤師会ウェブサイトのリニューアルに伴いリンク先は現在全て削除されています)

●Pracitce Guidace

 英国王立薬剤師会ウェブサイトのGuidance documentsのページに掲載されている、地域薬局における業務について記した指針です。

 このPractice Guidaceは、Child protection (revised August 2007) など、医薬品供給業務とは直接関係のない分野や、当局の規制に伴って会員が実施すべき事項など、現場の薬剤師が知っておくべき事柄について整理されています。

 時々、内容の更新が行われます。()内の日付は、今回アクセスしたときのバージョンです。

原題 概要・注目点
Amorolfine nail lacquer (May 2006) 0.5%アムロフィン・ネイルラッカー液(適応:爪白癬)の販売指針を記したもので、定期的に1年間の使用が必要なこと。3ヶ月程度は変化がみられないこと、使用した記録をつけること、糖尿病や免疫低下など真菌感染の素因がある人は、医師の受診勧告が必要なこと、医師への受診勧告が必要な爪の状態、使用方法などの留意事項が記されています。
Chloramphenicol eye drops (June 2005) クロラムフェニコール0.5%点眼液の販売指針を記したもので、医師への受診を勧める場合の他、48時間以内に症状が改善しない場合は受診が費用な必要なこと、5日間で使い切り残薬は捨てること、妊婦・授乳婦が使用することは勧められないことなどが記されています。
Emergency hormonal contraception (EHC) as a pharmacy medicine (updated September 2004) 次の項目で紹介するPractice Checklist “Over-the-counter emergency contraception” より詳細な内容となっており、販売のトレーニングを求めています。
Good practice in the treatment of coughs and colds in children (March 2008) MHRAによるOTC咳止めの2歳未満への使用制限発表に伴って公表された販売指針です。(日本でも、同様の発表がされていますが、日薬は、こういった対応をすぐに行ったでしょうか?)
Omeprazole (revised May 2004) オメプラゾール10mg錠の販売指針を記したもので、医師への受診をすすめる事例を示した他、フェニトイン・ワルファリンの血中濃度に影響を受ける可能性があるとしてモニタリングが必要なこと、シロスタゾールとの併用は血中濃度を上昇させるとして併用を避けることなどが記されています。
Pseudoephedrine and Ephedrine (April 2008) メタンフェタミンの密造防止のために今春より導入された、プソイドエフェドリン含有製剤の販売制限に伴って発表された販売上の注意で、購入者に不審な挙動がないか、症状がないのに商品を求めたり、特定の商品を購入しないか、薬剤師会への報告義務などが記載されています。
Simvastatin (concise version, July 2004) スタチンとして世界で初めてスイッチされたシンバスタチンの販売指針で、70歳以上は飲んではいけないこと、コレステロール値・血圧などのモニタリングが望ましいこと(必要条件ではない)、医師との連携をとること、潜在的な相互作用について常に留意することなどが記載されています。
Sumatriptan (June 2006) トリプタン製剤として世界で初めてスイッチされたスマトリプタンの販売指針で、sumatriptan treatment cardを渡すこと、心臓血管病リスクである「40歳以上の男性」「閉経後の婦人」「高コレステロール血症のの人」「毎日10本以上のたばこを吸う人」「BMI30以上の人」「糖尿病の人」「心疾患の家族歴がある人」のうち3つ以上該当する人には不向きであることなどが記載されています。
●PJ Practice checklists

 PJOnline(旧サイト)のPJ Practice checklistsのページに掲載されているもので、PJ誌と薬剤師卒後教育センター (CPPE:Centre for Pharmacy Postgraduate Education)との共同で作成されたものです。(OTC以外のものも含まれています)

 薬剤ごとの有効性や使い分けの他、販売時のポイント(PRACTICE POINTS)、どのような場合に医師に紹介すべきか(WHEN TO REFER)、またはCOUNTERPRESCRIBING POINTSなどを解説しています。

 但し()内にアクセス時のバージョンを示しました通り、このリストは古く、一部は既に一般販売品(GSL)になっていることを考えると、現在では薬局の現場ではおそらく利用されていないと考えられます。

原題 概要・注目点
Aciclovir cream for cold sores
(UPDATED JANUARY 2001)
使用は5日間(日本は7日間)まで、経口ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制剤を使用していないかどうかの確認、皮膚が敏感な人が使用すると悪化する可能性があること、プロピレングリコールにアレルギーのある人は使用を避けることなどの販売時のポイントが示されている他、口唇ヘルペスの病態について解説されています。
Over-the-counter oral analgesics
(JULY 1997)
アスピリンの禁忌疾患、イブプロフェンとリチウムとの相互作用、パラセタノール(アセトアミノフェン)の自殺目的での使用の可能性、カフェイン・コデインとの合剤についての注意喚起などが記載されています。
Over-the-counter topical analgesics
(DECEMBER, 1996)
外用タイプの鎮痛剤(サリチル酸系、ジクロフェナクなどのNSAIDS)の作用の違いなどを解説した他、アスピリン喘息またはその既報歴がある患者(喘息患者の10%)には、NSAIDSが配合された内服薬・外用薬は避けることなどが記されています。
H2 antagonists and dyspepsia
(UPDATED JANUARY 2001)
H2ブロッカーは一時的な消化不良に効果的であること、OTCとしては2週間(日本は3日間)を超えて使用しないこと、喫煙は症状を悪化させる可能性があること、過度のアルコール摂取に対しての胃保護作用はないことなどの販売に際してのポイントが示されている他、消化不良を訴えて初めて来局する中高年や高齢者、腎臓や肝臓に問題がある人、嚥下困難な人などは、医師への受診をすすめることを求めています。
さらに、3剤(シメチジン・ファモチジン・ラニチジン)の特徴を解説したほか、頭痛、めまい、下痢、発疹などはこれらによる副作用の可能性があることを留意するよう求めています。
Oral contraception
(UPDATED JANUARY 2001)
OTCではありませんが、24%の人が経口避妊剤を使用している現状を鑑み、「薬剤師は経口避妊剤の適正使用に関する情報を提供するのに理想的な立場にある」として、薬剤についての解説などが記されています。
Over-the-counter domperidone
(SEPTEMBER 1998)
メトクロプラミド、シサプリド(現在は発売中止)との作用の違い、抗ムスカリン薬と作用が拮抗すること、錐体症状のの発現やプロラクチン上昇の可能性(ブロモクリプチンの作用にも影響があるかもしれない)、胃内容排出速度が遅い人では、吸収が高まる可能性があるとする一方、消化不良を訴える患者さんで古典的な制酸剤やH2ブロッカーで効果がなかった人に有効かもしれないとしています。
Over-the-counter steroids for eczema and dermatitis
(SEPTEMBER 2001)
クロベタゾン0.05%クリームは、急性症状に限って使用される(1週間を超えない)べきで、慢性症状には医師の受診が勧められる。妊婦や12歳未満への使用は勧められないとしていいす。
Over-the-counter emergency contraception
(JANUARY, 2001)
「避妊具を使わない性交が、過去72時間以内にあったか?」「使用者本人がその場にいるか?」「使用する人は16歳以上であるか」「緊急避妊が必要な状況にあるか」「使用する人はすでに妊娠しているということはありえないか?」「使用する人は、レボノルゲストレルと相互作用のある薬剤を使用している可能性はないか」「使用する人は、レボノルゲストレルの吸収に影響を及ぼす可能性がある健康状態ではないか?「使用する人は、肝臓の問題を持っていないか」「使用する人は、過去にレボノルゲストレルに対するアレルギー歴はないか」の確認を求めることや、緊急避妊薬の作用、副作用などの患者に提供すべき情報について記しています。
Over-the-counter treatment of hay fever
(UPDATED JANUARY 2001)
H1抗ヒスタミン剤が現在のファーストチョイスであるが、妊婦や授乳婦の使用は避けるべき。ベクロメタゾンやフルニソリドなどの点鼻薬で対応する、またステロイド点鼻薬は12歳未満にはすすめられない、クロモグリク酸点眼薬は有効などの情報が記されています。
Over-the-counter treatment of mouth ulcers
(JUNE 1995)
アフタ性口内炎について記したもので、、ベーチェット病との鑑別などの留意事項が記されています。
Nicotine replacement therapy
(UPDATED JANUARY 2001)
ガム、パッチ(昼間だけの16時間タイプと24時間タイプがある)の違いの他、ガムを使用する場合には、コーヒーやフルーツジュースなどの酸性物質と使用すると、ニコチンの吸収が減少することや、パッチとガムの同時使用は推奨できないことなどが記されています。
Sale of medicines protocols
(AUGUST, 1996)
販売姿勢全般について記しています
Vaginal candidiasis
(UPDATED JANUARY 2001)
膣カンジダの病態の解説の他、医師への受診を勧告するケースを記しています。(日本のOTC製剤とほぼ同じ内容です。但し、使用不可能年齢について、高齢者では膣ガンジタはまれで、他の悪性の病気の可能性もある、低年齢者については、未成年による性交渉の可能性があるとしてカウンセリングが求められるとした理由を掲げています)

 日本では、第一類として登場するスイッチされる際には、各メーカーは上記のような解説書を作成しますが、大きな違いは、販売することが前提ではなく、どのような人に販売すべきかががきちんと記されている点です。

 また上記を見ると、OTCや薬局で取り扱う商品をめぐって問題が起こったときに英国では迅速に対応しています。一方日本ではどうでしょう? 過去においては防虫スプレーの使用制限、硫化水素問題、最近でいえば小児用OTC風邪薬の使用制限、果たして日本では迅速な情報提供が現場に伝えられていたかという疑問につきあたります。

 どうも日薬は、こういった個々のOTCなどの供給についての情報が不十分に思えます。とりわけ第1類医薬品について、英国のような販売指針は独自に作らず、今後もメーカーまかせにし続けるのでしょうか? できないのなら、大学などに依頼するとか、他の職能団体と共同でもよいと思うのですが。(OTC版インタビューフォームなど)

 この記事は、今後サイト内の関連記事にリンクする予定です。


2008年09月16日 01:32 投稿

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