看護師による薬剤の処方は有用(日本学術会議提言)

 9月17日のTOPICSで、日本学術会議(http://www.scj.go.jp/)の薬学委員会専門薬剤師分科会が、提言「専門薬剤師の必要性と今後の発展−医療の質の向上を支えるために−」をまとめたことを紹介しましたが、同じような提言を同会議の健康・生活科学委員会看護学分科会もまとめています。

提言「看護職の役割拡大が安全と安心の医療を支える」
  (日本学術会議ウェブサイト、9月19日掲載)
   http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t62-14.pdf

 この提言では、看護師の現状や問題点を示した上で、看護師等の役割拡大が社会のニーズにどのように貢献できるかや、その具体的内容、制度の変更を含む対策についてまとめてられています。

 現在日本看護協会では、大学院修士課程にてより高い専門性の教育が行われている専門看護師(2008年現在240名が認定)と、特定の看護分野(17の領域)において、熟練した看護技術と知識を用いて、水準の高い看護実践する認定看護師(臨床看護経験5年以上を持つ看護師で特定の領域において6か月以上の教育・訓練が必要。2008年現在3,383名が認定)などの認定制度があります。

 提言では、専門看護師について、「臨床の専門分野において看護学の視点でキュアとケアと統合させて治療過程を推進する系統的な教育を受けており、症状緩和のための薬剤の処方に関する判断基準を医師と共同で開発し、医師不在であってもある一定の裁量の幅をもって対応できる能力を持っている。」として、裁量の幅の拡大を求めた他、役割を拡大すれば、次のような有用性があるとしています。

がん看護領域
での役割
症状緩和のために処方する薬剤の提案を行うだけでなく、患者自らが症状マネジメントできるようにその人にあった知識、技術を提供することができる。
高齢者施設
での役割
包括的なアセスメント、薬剤の調整を含む適切な医療処置、認知症の行動障害を緩和する対応などは、実際に患者のそばにいて観察をしている看護師等がもっとも迅速に対応できるものと思われる。
人の誕生に関わる
助産師
正常分娩において、助産師が会陰切開、縫合、分娩後の子宮収縮剤の投与を実施できることが認められれば、産婦への即時的対応が可能となる。イギリスとニュージーランドでは、通常助産業務として認められている他、子宮収縮剤の筋注はアメリカやデンマークを除く欧州のほとんどの国で助産師独自の判断で行われている。
精神科領域
での役割
身体拘束中の患者のモニタリングを行っており、患者の微妙な行動の変化を観察して、病態や薬剤治療の効果等を予測することができる。
医療過疎地域
での役割拡大
医療過疎地域では、身近に医療施設や医師がいないこともあり、自治体が責任を持って、ある程度の医療活動を行う体制を検討するべきであり、看護師等には、包括指示に基づく一定の薬剤の処方調整、病状急変の際の検査の代行、インターネットによる遠隔地からの医師の診察後にその指示を遂行すること、一定の条件下で死亡診断書を発行するなどの裁量が法的に認められる必要がある。

 看護師は、患者の状況を常に把握できる立場であることを考えると、なるほどと思う部分もありますが、薬にかかわる事項については、当然薬剤師との連携が必要であるのにもかかわらず、そういったことはまったく触れていません。(驚いたことに、この提言では“薬剤師”という語句すら出てきません) また、薬学委員会専門薬剤師分科会が提言した「専門薬剤師」と重複する部分もあり、何か縄張り争いをやっている感も否めません。

 薬剤師・看護師それぞれが職能の拡大を訴えるのも結構ですが、チーム医療の一員として薬剤師・看護師それぞれが、患者さんのためにどのような職能が求められているかやお互いにどのような役割分担が可能かを考え、お互い尊重し、理解しあうことも必要ではないでしょうか?

関連情報:TOPICS
   2008.09.17 専門薬剤師の必要性と今後の発展(日本学術会議提言)
   2008.09.08 処方権の獲得より、薬剤師の職能を全うすることが重要
   2008.01.15 医療従事者の役割分担で薬剤師は何ができるか?


2008年09月22日 15:05 投稿

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