米国では、抗コリン作用吸入薬と心臓血管病(cardiovascular risks)との関連を調べた論文が相次いで発表され、話題になっています。
JAMA 誌発表された研究は、抗コリン作用吸入薬(イプラロピウム=アトロベント、チオトロピウム=スピリーバ)と心臓血管病との関連を調べた17研究14783人のデータを解析したもので、抗コリン作用薬を使用した群の方が使用しなかった群と比べ、重大な心臓血管病イベントが1.58倍(心臓血管病関連死1.80倍・有意差有、心筋梗塞1.53倍・有意差有、脳卒中発作(stroke)1.46倍有意差無し)に達することがわかったそうです。(総死亡率については有意差なし)
さらに、6ヶ月以上の長期の研究データに限ると、重大な心臓血管病イベントのリスクは、1.73倍にも達したそうです。
Inhaled Anticholinergics and Risk of Major Adverse Cardiovascular Events in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease
(JAMA. 2008;300(12):1439-1450)
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/300/12/1439
またAnn Intern Med 誌には、イプラトロピウムを始めとするCOPD治療薬と心臓血管病の関連についての研究が発表されています。
Risk for Death Associated with Medications for Recently Diagnosed Chronic Obstructive Pulmonary Disease
(Ann Intern Med 2008; 149: 380-390)
http://www.annals.org/cgi/content/full/149/6/380
この研究は、退役軍人を対象にしたNested case-control studyで、ステロイド吸入薬・イプラトロピウム・長時間型β刺激吸入薬・テオフィリンと総死亡率・呼吸器関連死・心臓血管病関連死を分析しています。
結果によれば、イプラトロピウム使用群では、未使用または短時間型β刺激剤のみ使用した群と比べ、総死亡率が1.34倍に達したそうです。
いずれの研究者らも抗コリン作用吸入薬と心臓血管病イベントのリスクを高める可能性があるとしたものの、COPDへのこれらの薬剤の有用性もあることから、使用の継続を訴えるとともに、患者をモニターするよう呼びかける一方、さらなる研究も必要としています。
一方、チオトロピウム製剤のスピリーバを発売している米Boehringer Ingelheim社は23日、37カ国5993人を対象とした研究UPLIFT (Understanding Potential Long-term Impacts on Function with Tiotropium)を含む30の二重盲検ランダム化比較試験19545人のデータを分析した結果を発表し、JAMA 誌で指摘された心臓血管病関連の死亡増加は見られなかったとしています。(近く、学会で発表予定。まだ論文にはなっていないようです。)
Established Safety Profile of Spiriva Confirmed by 30 Rigorously Controlled Clinical Trials and the Landmark Trial UPLIFT
(米Boehringer Ingelheim社プレスリリース2008.9.23)
http://us.boehringer-ingelheim.com/newsroom/2008/09-23-08_spiriva_safety.html
なお、米FDAの動きですが、チオトロピウムと脳卒中発作増加との関連性を調査中であるとした“Early Coumunication”を今年3月18日に既に発表しています。(FDAウェブサイトには10月7日のUpdateのみ掲載)おそらく年内にもFDAとしての見解が示されると思われます。
医薬品安全性情報Vol.6 No.9(Update前の記事の和訳)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly6/09080502.pdf
Early Communication about an Ongoing Safety Review of Tiotropium (marketed as Spiriva HandiHaler)(FDA 2008.10.7)
上記の日本語訳概要は、医薬品安全性情報Vol.6 No.22に掲載されています
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly6/22081030.pdf
私たちも抗コリン作用吸入薬を使用している患者さんについては、循環器系の副作用がないかチェックする必要がありそうです。
参考:COPD Medicines: Risky or Safe?(WebMD 2008.9.23)
http://www.webmd.com/news/20080923/copd-medicines-risky-safe
Leading COPD Drugs Tied to Stroke, Heart Attack
(Healthday 2008.9.24)
http://www.healthday.com/Article.asp?AID=619626
2010年1月15日 リンク再設定
2008年09月24日 21:32 投稿
FDAは2010年1月14日、スピリーバと心臓血管病のリスクとの関連性はないと発表してます。
FDA Updates Earlier Guidance on Respiratory Treatment Spiriva HandiHaler
Current data do not support increased risks for stroke, heart attack, or death
(FDA 2010.1.14)
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm197649.htm
Follow-Up to the October 2008 Updated Early Communication about an Ongoing Safety Review of Tiotropium (marketed as Spiriva HandiHaler) (FDA 2010.1.14)
関連ブログです。
スピリーバ心血管疾患安全性FDA確認(内科開業医のお勉強日記1月15日)
http://intmed.exblog.jp/9667301/
見落としていたのですが、去年11月19日に開催された“Pulmonary-Allergy Drugs Advisory Committee Meeting”で安全性の論議がされていたのですね。
November 19, 2009: Pulmonary-Allergy Drugs Advisory Committee Meeting Announcement
(FDA)
http://www.fda.gov/AdvisoryCommittees/Calendar/ucm183398.htm
資料は→こちら