OTCについての文献を検索していたところ、薬学雑誌(→J-Stage リンク)の9月号に昭和大学 薬学部 臨床薬学教室のグループがまとめた興味ある研究が掲載されていました。(全文英語です。誤りがありましたらご指摘下さい。)
Descriptive Study on the Circumstances concerning Confirmation of Contraindications and Careful Administration upon Purchasing Over-the-Counter Cold Medication and Manifestation of After-use Urinary Disorders
(YAKUGAKU ZASSHI Vol. 128 (2008) , No. 9 1301-1309)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/128/9/128_9_1301/_article/-char/ja/
http://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/128_9/pdf/1301.pdf
この研究は、2006年2月に50歳〜69歳の首都圏在住の男女500人(50歳代、60歳代男女125人ずつ)を対象に行われたインターネット調査の結果をまとめたもので、過去3年間に風邪を引いてOTC風邪薬を購入した際に薬剤師がどのような対応を行ったか、どのような基準で風邪薬を選んだか、購入する際に困ったこと、服用の際に使用上の注意事項を確認したかなどについて尋ねた他、男性については風邪薬が起こしうる副作用(抗ヒスタミン剤による前立腺肥大症の悪化)についての認識度などについて調べています。
論文によれば、風邪薬を購入時に薬剤師から質問を受けたり、アドバイスをもらったことがあると答えた人は62%(うち28.4%は薬剤師がきちんとく答えてもらえなかった)で、薬剤師から質問された内容としては、どのような症状か(84.2%)、薬を飲んでアレルギーや副作用の経験があるか(50.3%)などが上位を占めたのに対し、他の病気にかかっていないかなど、使用上の注意や禁忌についての確認を受けたのは1〜2割に留まったそうです。
また、「風邪薬を購入する際に、薬剤師に相談したりアドバイスを受けたいか」との質問に対しては、可能であれば相談したいという人が58.8%に達した一方、誰にも相談したいとは思わない(24.8%)、薬剤師である必要はないが、購入時には誰かに相談したいと思っている誰かに相談したいが薬剤師からのアドバイスが必要とは思わない(16.4%)など、自分で薬を選びたいという人も少なくなかったそうです。
この自分で薬を選びたいという人に「なぜ薬剤師に相談したいと思わないのか」と尋ねたところ、同じ薬を飲むのであるのなら必要ないから(39.3%)、OTCは安全なはずであるから(30.1%)などが上位を占めた他、お店の利益になる情報かもしれないから(25.7%)、薬剤師の多くは相談するには不適切であるから(13.6%)、過去にきちんと対応してもらえなかったから(11.2%)など、薬剤師のアドバイス自体を否定的にとらえる人も少なくなかったそうです。
さらに、「服用しないで下さい」「服用前に医師または薬剤師に相談すること」といった事項について、自身で確認したり、購入時に薬剤師に相談したかについて尋ねたところ、必ず確認するが39.2%であったのに対し、時々確認する(37.8%)、確認しない(23.0%)など、自己判断で服用している人が少なくないことが明らかになっています。
一方、男性(調査対象年齢は前立腺肥大症の罹患率が高い)については「風邪薬が前立腺肥大症の症状を悪化させることがある」ということを知っているかどうか、実際に排尿困難などの経験があったかどうかなどを尋ねています。
それによれば、詳しく知っていると答えたのはわずか3.2%で、聞いたことがある人でも21.2%で、75.6%の男性が全く知らないと答えています。また、アンケートに答えたうちの6%(15人)が、OTC薬(うち9人は風邪薬)を飲んだあとに実際に排尿困難などの症状を経験したことがあると答えています。
研究者らは、もし(風邪)薬の使用前に前立腺肥大の有無について確認が行われていたら、症状を悪化させることはなかっただろうとして、日本の薬剤師が専門職能を発揮していない可能性があると指摘すると共に、外箱からでは服用してよいかどうかの判断ができない(注意書きがない)OTC薬のパッケージにも問題があるとしています。
インターネット調査であり、結果の全てが現実を反映しているわけではありませんが、OTC販売時に薬剤師は必ずしも必要とされていないという現状が明らかになった一方で、使用上の注意事項が十分知らされていない、説明をうける機会がないといった問題点を明らかにしたこの研究は注目に値します。(日薬も、規制改革会議のヒアリングにこういったデータを見せれば、対面販売の必要性を理解してもらえたのに)
この20年間、消費者の選択の自由の名の下にすすめられたセルフ販売(実際は効率的な販売)が、薬剤師による注意喚起、相談やアドバイスの機会のみならず、その必要性までも奪ってしまったことを痛感させれます。
いわゆる風邪薬の成分のうち、抗ヒスタミン剤やアセトアミノフェンなどは第二類ではありますが、OTC薬のリスク分類としては、指定第二類より一ランク下の位置づけになっています。少なくとも抗ヒスタミン剤については指定第二類とし、中高年の男性が風邪薬を求めるときはきちんと情報提供ができるような体制作りが必要だと思います。
この論文、おそらく日本語のものがあるのでしょうから、是非薬剤師会やドラッグストア関係者、厚労省、そしてネット販売業者に読んでもらいたいものです。
関連情報:TOPICS
2008.10.09 ネット販売、規制改革会議の疑問にどう答えるか?
2008.09.25 3分の1の薬局がOTC販売時に適切な対応を行っていない(英国)
10月11日 14:50更新、2010年4月30日訂正
2008年10月11日 02:04 投稿
日本アプライド・セラピューティクス学会の学術大会のシンポジウムで、執筆者の佐々木先生より、論文の英訳の一部を訂正したので、記事の日本語訳も訂正して頂きたいとのお話がありましたので、修正しました。