糖尿病患者への低用量アスピリンの投与は必ずしも有用ではない

 10月17日のTOPICSで、英国の研究者らが、アスピリンが心臓病の一次予防には有用ではないとした論文を発表したことを紹介しましたが、9日、今度はJAMA 誌のオンライン版に、糖尿病患者への低容量アスピリンの投与は、心臓血管病のリスクを低くするのに有用ではないとした、日本で行われた大規模試験の結果が発表されています。

Low-Dose Aspirin for Primary Prevention of Atherosclerotic Events in Patients With Type 2 Diabetes: A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2008;300(18):2134-2141
  http://jama.ama-assn.org/cgi/content/short/300/18/2134

JPADトライアル結果:低用量アスピリン:2型糖尿病患者の動脈硬化予防効果否定?
   (内科開業医のお勉強の時間 2008年11月10日)
    http://intmed.exblog.jp/7646599/

 この研究は、冠血管あるいは脳血管系の合併症がない30〜85歳(平均60歳)の)2型糖尿病患者2,539人を対象に、日本国内の163の施設で行われたJPDA(The Japanese Primary Prevention of Atherosclerosis With Aspirin for Diabetes:厚労省が支援)というランダム化試験で、毎日「アスピリンを81mgまたは100mgを服用」した群と「何も服用しない」群の2群に分けて、虚血性心疾患や心臓発作や脳卒中などのアテローム動脈硬化性イベントの発現の有無などについて調べています。

 4.37年間の追跡調査の結果、154人のアテローム動脈硬化性イベントがあり、内訳はアスピリン投与群68人(発生率5.4%)、非投与群86人(発生率6.7%)と、アスピリン投与群で少ないとの結果がでましたが、統計学的には有意差が認められかったそうです。

 ただ、致命的な発作や脳卒中については、アスピリン非投与群で10人の発生に対し、アスピリン投与群で発生したのはわずか1人で、90%リスクを減少させたそうです。

 一方、これを65歳以上の高齢者(1363人)に限って解析したところ、アテローム動脈硬化性イベントの発生は、アスピリン投与群で719人中45人(発生率6.3%)であったのに対し、非投与群では644人中59人(発生率9.2%)で32%リスクが減少したことがわかったそうです。

 研究者らは、2型糖尿病患者に対して1次予防として低用量アスピリンを投与しても、心血管イベントは減少させないと結論づけ、心臓病や脳血管疾患の既往歴がない患者に対しては、アスピリン投与が必ずしも有用ではないとしています。

 同時に発表された論説では今回のJPDAの結果について、イベント発生数が予想より少なかったことや、出血を伴う発作や重大な出血といったデータの不足があるとして、研究への精度不足を指摘する一方、過去の論文と同様の結果が示されたことから、アスピリンはリスクとベネフィットを考慮して処方すべきだとしています。

 Aspirin for Primary Prevention of Cardiovascular Events in Diabetes
   (JAMA. 2008;300(18):2180-2181
   http://jama.ama-assn.org/cgi/content/short/300/18/2180

 近い将来、リスクのない若い人にはアスピリンの予防投与をしない、またはクロピドグレルに代えるなどといったことが行われることになるのでしょうか?

関連情報:TOPICS
 2008.10.12 アスピリンや抗酸化薬は心臓病の一次予防には有用ではない(英国研究)


2008年11月12日 16:45 投稿

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