長時間作用型β2刺激吸入薬の安全性に懸念(米FDA)

 米FDAでは、12月10-11日に肺アレルギーの薬剤諮問委員会、薬剤安全とリスクマネージメント諮問委員会、小児科の諮問委員会による合同の諮問委員会の開催が予定されています。

Joint Meeting of the Pulmonary-Allergy Drugs Advisory Committee, Drug Safety & Risk Management Advisory Committee, and the Pediatric Advisory Committee
(December 10 & 11, 2008)

 この委員会では、成人や子どもの喘息などに広く使われている長時間作用型β2刺激吸入薬(LABAs:long acting beta-2 adrenergic agonists)のリスクとベネフィットを検討するために行われるもので、FDAではこれに先立ち、資料を公表しています。
  http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/cder08.html#PulmonaryAllergy
  http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/08/briefing/2008-4398b1-00-index.htm

 FDAでは、110の論文60954人(うちサルメテロールに関するものが43824人と多くを占める)のデータを解析したメタ・アナリシスを実施し、LABAsは、喘息関連の入院、喘息関連の挿管、喘息関連死の増加と関連づけられるとした解析結果を発表しています。
(下記資料は、関連資料も含む。460ページ)

Long-Acting Beta-Agonists and Adverse Asthma Events Meta-Analysis 他
[PDF:6.53MB]

 このメタ・アナリシスは、2007年11月28日に開催された小児科諮問委員会(Pediatric Advisory Committee meeting)の勧告に応じて行われたもので、LABAを含む下記の喘息治療薬のうち、Advair、 Foradil、Serevent、Symbicort についての解析を行っています。

Brand Name 本邦発売 成分 米国・承認
Advair アドエア サルメテロール+フルチカゾン 喘息(4歳以上)
COPD
Brovana 未発売 arformoterol COPD
Foradil 未発売 フォルモメテロール 喘息(5歳以上)
COPD(5歳以上)
Perforomist 喘息(4歳以上)
COPD
Serevent セレベント サルメテロール 喘息(4歳以上)
COPD
Symbicort 未発売 フォルモメテロール+ブテゾニド 喘息(12歳以上)

Summaryによれば、次のようなことがわかったそうです。

  • リスクの増加は Foradil、Serevent、Symbicort、で認められたものの、 Advairでは認められなかった
  • LABAsとともに吸入ステロイド(ICS:inhaled corticosteroid)を併用しているグループでは、リスクの増加ははっきりとは認められなかった
  • 4歳〜11歳のグループで最も大きなリスクを示した
  • アフリカ系黒人は他の人種に比べてリスクが高かった
  • 男性より女性の方がリスクが高かった
  • 20例の喘息関連死があり、うち16例はLABAs使用(全てサルメテロール)グループ群だった

 サルメテロールについては、2006年のSMART Trial (The Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial、このメタ・アナリシスでもデータの43%を占める)で、プラセボと比較して喘息関連死が有意に多かったという結果が出たことから、「気管支喘息治療の基本は吸入ステロイド吸入薬であり、LABAsは低中用量でのステロイド吸入薬でコントロールできない場合に使用する」とした注意喚起(FDAでは黒枠警告、日本では重要な基本的注意)が既に行われていますが、10-11日に行われる諮問委員会で、LABAs単剤のものについては、子どもや若者への使用について承認の見直しが行われるように思われます。

 なお、これらの薬剤を販売しているメーカー各社も、安全性に関する資料を提出しています。

 Novartis社(pdf)、AstraZeneca社(pdf)、Glaxosmithkline社(pdf

 いずれにせよ、LABAsの単独使用をしないことを改めて留意することが必要です。

関連情報:
The Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial
  (Chest 129(1): 15-26)
 http://www.chestjournal.org/cgi/content/abstract/129/1/15
The Safety of Long-Acting β-Agonists among Patients with Asthma Using Inhaled Corticosteroids
  (American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 178: 1009-1016)
 http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/abstract/178/10/1009

参考:FDA Documents Say Drugs Increase Risk of Asthma-Related Death
     (Medpage TODAY 2008.12.5)
 http://www.medpagetoday.com/AllergyImmunology/Asthma/12045

12月11日 12:00リンク追加  


2008年12月06日 16:04 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    諮問委員会1日目の様子が報じられています。

    FDA Deadlocked on Asthma Drug Risks(ABC NEWS 2008.12.10 AP配信)
     http://www.abcnews.go.com/Health/ColdandFluNews/wireStory?id=6432289

    FDA panel hears risks with asthma drug(Reuter 2008.12.10)
     http://www.reuters.com/article/governmentFilingsNews/idUSN0926618720081211

    FDA Advisers Consider Safety of Long-Acting Beta Agonist Inhalers
       (Medpage Today 2008.12.10)
     http://www.medpagetoday.com/Pulmonary/Asthma/12117

    記事によれば、FDAは上記に示した解析結果を基に、LABAs単剤であるForadil、Sereventについては承認の取り消し、ステロイドとの合剤であるAdvair、Symbicortについても、17歳以下の子どもについては使用しないとした勧告を諮問委員会に示したようです。

    これに対し、「患者、医療提供者、社会は深刻な有害事象、そして死亡まで受け入れている」といった発言が飛び出すなど、小児科やアレルギー、肺疾患などの専門家の代表者らは、「コントロールされている喘息の危険な発作を誘発するだけだ」として、承認の見直しや投与規制には反対する多くの意見が述べられようです。

    これらの薬剤は喘息治療におけるのコントロール薬の一つとして、広く行われていることもあり、現場の医師らとしても使用規制による大きな混乱は避けたいという思いもあるのでしょう。

    評決は11日に行われ、FDAはこの結果を尊重して、承認の見直しを行うかどうかを決定します。