OTC風邪薬による有害事象は、偶発的過量服用だけが原因ではない

 あまりメディアでは取り上げてはいませんが、19日のAnnals of Emergency Medicine 誌のオンライン版にOTC風邪薬・咳止め薬による死亡例について、原因の分析をまとめた調査結果が発表され、これらOTC薬が子どもへの虐待の手段として使われている可能性もあるとしたショッキングな指摘が行われています。

Pediatric Fatalities Associated With Over the Counter (Nonprescription) Cough and Cold Medications
Annals of Emergency Medicine Featured Articles 2008.12.19)
 http://www.annemergmed.com/webfiles/images/journals/ymem/dartrc.pdf

  http://www.annemergmed.com/article/S0196-0644(08)01779-4/fulltext

 この研究は、抗ヒスタミン剤のbrompheniramine、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、oxylamine、鎮咳薬のデキストロメトルファン、去痰薬のグアイフェネシン、充血緩和薬のプソイドエフェドリン、フェニルフリン、12歳未満、死亡などのキーワードに該当する文献104例、企業に報告された有害事象155例、米国中毒情報センターのデータベースに登録された49例、FDAの諮問委員会で示された9例、FDAに出された請願書に記された4例の合計189例(おそらく重複等があったのでしょう)を、小児科、小児救急医、臨床中毒学、法医学などの8人の専門家によって分析したもので、成分との関連性や発生原因などをまとめています。

 分析の結果、このうちの118例がこれら成分と死亡が関連づけられると結論し、うちOTC使用によるものが103例(うち21例は処方せん薬も併用)だったそうです。

 また、この103例について成分との関連を調べたところ、プソイドエフェドリンが45例、ジフェンヒドラミンが38例、デキストロメトルファンが36例などで、過量服用が原因と思われるものが103例中88例を占めたそうです。なお、グアイフェネシンとの関連は1例もなかったそうです。

 一方、この研究で注目されるのは、どのような過程や理由で死亡ということがおこったかを詳しく分析している点です。103例のうち、子どもが誤って服用したケースはわずか18例で、大部分は大人が与えたケース(79例)なのですが、このうちのなんと26例で治療量ではない意図的な過量服用が認められたとしています。

 つまり、日本では考えられないが、米国ではごくごく一部ではあるが、「OTCを飲ませれば、子どもはおとなしくなってくれるかもしれない」との考えで、守られるべき小さな子どもが、親やベビーシッターなどの大人たちに無理矢理OTC風邪薬を飲ませられて(ロイター紙によれば、瓶から直接飲ませられたケースもあったとのことです)、死んでいるケースがある(この論文でも10例が該当すると結論)ということのようです。

 私は、各国が最近取り組んでいるOTC風邪薬の安全性への懸念について、単純に「間違って多めに飲ませてしまった」ことによる有害事象ばかりだと思っていましたが、今回の報告を見て、抵抗のできない小さな子どもに大人たちの都合でOTC薬がいわば「虐待の手段」として使われている現実もあることを知り、衝撃を受けました。

 米国では医療保険の問題、貧富の格差など、OTCが広く使われている背景が日本と異なっていますが、子どもに薬を与える大人たちが、薬の正しい使い方の知識を持ち、「OTCといえども、決して安全ではない」との認識をもっていないと、無抵抗の子どもたちにとっては大きな脅威になりうるということを痛感させられました。

 Annals of Emergency Medicine 誌を発行している American College of Emergency Physiciansも、18日プレスリリースを発表し、死亡例には、「うっかり多めに飲ませてしまったケース」と「子どもを傷つけたり、おとなしくさせる(control their behavior)ために、故意に過量を服用させたケース」の2つがあると指摘し、事例については慎重に検討を行うべきだとしています。

Pediatric Fatalities From Over-the-Counter Cough And Cold Medications Rare But May Indicate Child Abuse 
  (the American College of Emergency Physicians News Release 2008.12.18)
 http://www.acep.org/pressroom.aspx?id=43510

 小さな子どもの福祉という視点で考えると、OTC風邪薬・咳止め薬の使用規制は必要な政策ではないかと思うのと当時に、薬剤師などの専門家がOTC風邪薬・咳止め薬を与える大人たちに対して、「用法・用量を守らないと、子どもは危険にさらされる」などといったアドバイスをしなければいけないということを考えさせられました。

 カナダの6歳未満使用禁止、豪州の処方せん薬への分類変更などはこうしてみると正しい判断なのかもしれません。

関連情報:TOPICS
  2008.12.19 カナダ当局、6歳未満にはOTC風邪薬・咳止めを使用しないよう勧告
  2008.10.08 小児用OTC風邪薬は4歳未満に与えてはいけない(米国)
  2008.04.09 抗ヒスタミン剤、2歳未満は処方せんが必要(豪州)

参考:
Some Toddler Deaths From Cold Drugs Linked to Abuse
  (Bloomberg 2008.12.18)
 http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601124&sid=aV8VVYNf8gSs&refer=home
Some child cough medicine overdoses linked to abuse
  (CBC news.ca 2008.12.18)
 http://www.cbc.ca/health/story/2008/12/19/cough-medicine-children.html
Some cough medicine overdoses deliberate: report
  (Reuter 2008.12.18)
 http://www.reuters.com/article/healthNews/idUSTRE4BI04C20081219

12月22日 14:40更新


2008年12月21日 18:38 投稿

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