厚労省、規制改革会議の公開質問状に答える

 政府の規制改革会議は16日、厚労省に「インターネットを含む通信販売による一般用医薬品の販売規制」に関する公開質問状を送付し、厚労省は19日に回答を行っています。

 この公開質問状では、11月11日に同会議が示した「インターネットを含む通信販売による一般用医薬品の販売規制に関する規制改革会議の見解」(TOPICS11月13日)についての見解を示すよう求めています。

概要は以下の通りです。

規制改革会議の質問 厚労省の回答
民主党前原議員の質問主意書に対する答弁書において、「インターネットにより一般用医薬品を購入したとの記載がある事例において入院を要する被害が生じた旨の副作用被害報告があることが確認された。」とする事例について 具体的な状況は? 服用者は30 歳代の女性、生薬成分であるカシュウを含む滋養強壮剤を購入し、2007?年6月22日から8月6日まで服用している。その後、肝障害の副作用を発症。20 日間程度の入院の後、転帰が軽快と診断された。
現在の副作用報告書の様式では、医薬品をどこから購入したかについて様式として設けていないため通常は明らかではないが、今回の事例については、報告様式中「副作用・感染症の発現状況、症状及び処置等の経過」欄に記載されていたため、インターネットによる購入と確認された。
この副作用被害が発生した原因について、インターネットを通じた販売方法に起因するものか否か インターネット等による販売では、購入に当たって製品を示しながらコミュニケーションを取ることができないこと、購入者側のその時点における状態を把握することが困難であること、購入者側が情報提供を求めた場合に、その対応に時間を要し、また、専門家によって行われているかどうかを確認することが難しい点において、対面による販売と比べて問題があると考えている。
医薬品は、一般に使用することにより人体に作用を及ぼして効能効果を発現させるものであるが、同時に、程度の差こそあれリスクを併せ持つものであり、このような医薬品の本質を考えれば、想定しうる健康被害のおそれに対して、未然防止の観点から制度設計を行うべきであり、上述の点において対面による販売と相違するインターネット等による販売では、国民に安全と安心を提供することは困難と考えている。
医薬品による副作用は、対面販売により、被害発生を防ぐことが可能か否か 医薬品は、一般に使用することにより人体に作用を及ぼして効能効果を発現させるものであるが、同時に、程度の差こそあれリスクを併せ持つものである。このような医薬品の本質を踏まえれば、定められた用法用量に基づいて適正に使用した場合であっても副作用被害が発生する可能性はあるが、対面による販売と比べて、インターネット等による販売は、購入に当たって製品を示しながらコミュニケーションを取ることができないこと、購入者側のその時点における状態を把握することが困難であること、購入者側が情報提供を求めた場合に、その対応に時間を要し、また、専門家によって行われているかどうかを確認することが難しい点において、問題があると考えている。
販売方法を規制することによる消費者への影響はないか 今般の法改正全体を見れば、登録販売者等を確保することにより、コンビニエンスストア等における販売等が容易となり、コミュニケーションや製品入手にタイムラグが発生するインターネット等による販売に比べ、消費者はより身近なところで、的確な情報を得ながら、一般用医薬品を購入できるようになる。
また、「郵便その他の方法に頼らざるを得ない消費者」が、仮に高齢者、障害者、妊婦、育児中の方であるならば、誤った医薬品の使用により重大な副作用被害の発生につながるおそれがあるため、より一層適切に情報提供を行い、一般用医薬品の適切な選択、購入及び適正な使用を担保することが必要と考えている。なお、これらの方に対しては、医療機関への受診や福祉サービスの利用のために外出した際に医薬品を購入することや、これらの方から依頼を受けた家族などが薬局・店舗を訪れて医薬品を購入すること、配置販売による医薬品の配置等によって、一般用医薬品を購入すること等が可能であり、このようなルートを通じて、適正な情報提供を行うことが大事であると考えている。
『インターネットを含む通信販売による一般用医薬品の販売規制に関する規制改革会議の見解』について (全般的に) インターネットを含む一般用医薬品の通信販売については、これまでも通知により、かぜ薬や漢方製剤等を除く一定範囲の医薬品に限って取り扱うよう指導してきたところである。したがって、今回の制度改正により初めて販売対象範囲が限定されるものではない。
省令でインターネット販売等の規制を行うことは法の授権範囲を超えていると考えるが 今回の法改正により、リスクの比較的高い医薬品(第1類医薬品、第2類医薬品)については、専門家(薬剤師、登録販売者)が情報提供を行うこと及びその詳細は厚生労働省令で定めることが法律に明記された。
これに伴い、今回の省令案では、インターネット等の通信販売については、販売時に予め情報提供が不要な第3類医薬品を販売可能な範囲とすることを規定することとしたものである。
こうした考え方については、平成16年5月から厚生科学審議会の部会で公開により審議され、その報告書に明記された後、改正法案を作成し、国会での法案審議が行われている。したがって、今回の省令案の内容は法律による委任の範囲内であると考えている。
ネット販売の制限は消費者の利便性を阻害すると考えるが 医薬品は効能効果とともに、程度の差こそあれ、リスクを併せ持つ。
こうした医薬品の本質を考えれば、想定しうる健康被害のおそれに対して、未然防止の観点から制度設計を行うことが購入者に安全と安心を提供していくために必要であり、このことが消費者の真の利便につながるものである。
「遠隔地に居住など地理的な制約」のある者及び「病気や怪我により外出困難」な者に対しても、一般用医薬品による副作用を防ぐ観点から、その適切な選択及び購入、適正な使用を担保することが重要であり、特に、「病気や怪我により外出困難」な者については、使用すべきではない一般用医薬品がある等重大な副作用につながるおそれがあることから、その他の者以上に医薬品の適切な選択及び購入、適正な使用において適切な情報提供が必要であると考えている。これらは、医療機関への受診や福祉サービスの利用のために外出した際に医薬品を購入することや、使用する者から依頼を受けた家族などが薬局・店舗を訪れて医薬品を購入すること、配置販売による医薬品の配置等によって、一般用医薬品を購入すること等が可能であり、このようなルートを通じて、適正な情報提供を行うことが大事であると考えている。
民間調査の母集団はインターネット販売を利用しない者がそのほとんどを占めており、規制の必要性の根拠とすることは不適切ではないか 「規制の必要性の根拠とすることは不適切である」とした民間調査については、本年8月29日の日経産業新聞によると、20 歳以上のインターネット利用者を対象に実施し、1,000 人から回答を得たものであり、設問の一つに対する回答として「大衆薬の購入方法(複数回答)にネットと答えた人はわずか2.7%」という結果が得られていると承知している。
通信販売の在り方については、平成16年以降、審議会や国会で議論が積み重ねられてきており、本調査に今回の制度改正の必要性、正当性を求めた訳ではない。
進取の精神を持って事業に取り組む地方の中小薬局のビジネスチャンスを奪い、地方の切捨てや格差を助長するのではないか 御指摘の「中小薬局」が、どのような者を対象として、どのような形態でインターネット販売に取り組んでいるか不明である。また、医薬品のインターネット販売は、地方の中小薬局に限られる訳ではなく、都市部を含めた全国の薬局等も行うことができるものであり、なぜ地方の中小薬局にとってビジネスチャンスと云えるのか明らかではない。
インターネット販売等が店頭での販売に比して安全性に劣ることが実証されておらず、店頭での販売方法とのイコールフッティング、公平性を確保した新たなルール整備に早急に着手すべきではないか 医薬品は、効能効果とともに、程度の差こそあれ、リスクを併せ持つものである。
平成16年に厚生科学審議会の下に設置した検討部会において、公開による審議を行った結果として、報告書に記されているとおり、インターネット販売は、対面による販売と比較して、?専門家において購入者側の状態を的確に把握することが困難という点と、?購入者と専門家の間で円滑な意思疎通を図ることが困難であるという点において、国民に安全と安心を提供するという面で問題がある。
医薬品に係る制度設計は、医薬品の本質を踏まえて、副作用被害の発生件数の大小にかかわらず、想定しうる事態に対して予防原則に従って行う必要がある。また、薬事法に基づく副作用等報告の中に、インターネットにより購入した一般用医薬品による旨の記載があるものも存在する。
「情報通信技術は日進月歩であり、消費者の安心安全を担保することは技術的に充分可能である」とされるが、どのような基準や仕組みによって消費者の安全安心を担保するのか、現時点においてその具体案は示されていない。
医薬品の販売に当たっては、利便性もさることながら、国民の安全確保を第一に考える必要があると考えており、改正薬事法を施行するための改正省令については、パブリックコメントで提示している案をベースに速やかに公布したい。
ただし、今後、インターネット販売の団体等から、安全確保のための具体的な提案が示された場合には、幅広い関係者で議論することを検討したい。

「インターネットを含む通信販売による一般用医薬品の販売規制」に関する 質問事項(平成20年12月16日付け 規制改革会議)に対する回答[PDF]より引用

上記の問答や、22日に行われた規制改革会議でのやりとり(CBニュース参考)を見て、次のようなことを感じました。

  • 一般用医薬品の副作用報告の様式や仕組みが不十分
    (ネットで簡単に報告をできる仕組みを導入するとともに、購入ルートや誤用などの使用者の過失の有無などを把握するために、服用の動機や服用時の症状といった項目も設けるべき)
  • 厚労省は、「インターネットを含む一般用医薬品の通信販売については、これまでも通知により、かぜ薬や漢方製剤等を除く一定範囲の医薬品に限って取り扱うよう指導してきたところ」としているが、現在、これほどまでに医薬品のネット販売があたりまえのようになってしまったのはなぜ?
    (厚労省は、医薬品のネット販売の現状を十分把握していない。指導の現状についても、具体例を広く公表すべき)
  • 医薬品の販売にあたって、厚労省は「コミュニケーションの必要性」を訴えているが、配置販売の存在、セルフ販売やネット販売を黙認してきた経緯があり、これだけでは説得力に乏しい
  • 副作用の事例には、購入時に直接適切なアドバイスをすることで防ぎ得る事例もある
    (グリセリン浣腸薬による直腸穿孔→TOPICS 2007.02.27
    (副作用報告としては挙がっていないが、抗ヒスタミン剤による排尿困難→TOPICS 2008.10.11
  • 「医薬品に係る制度設計は、医薬品の本質を踏まえて、副作用被害の発生件数の大小にかかわらず、想定しうる事態に対して予防原則に従って行う必要がある」のであれば、不正使用や濫用など、通常使用がされない場合もありうるということを、なぜリスク分類の際にもっと重視しなかったのか
    (通常使用を前提とした、医療用医薬品の添付文書検討だけでは不十分でだった。海外では、パッケージの制限、パッケージの大きさごとに分類を変えている国もある)

 CBニュースによれば、22日に行われた規制改革会議で、委員からこの回答についての不満が相次ぎ、「厚労省の省令はまだ出ていないが、省令は行政命令にすぎず、法律の範囲内でなければならない。法の範囲を超えて人の権利・義務を制限することはできない。」として、ネット販売の規制が省令で定められたとしても、これを無視して販売を続行することを匂わせています。

資料:規制改革会議・公表資料
   http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/index.html

関連情報:TOPICS
  2008.11.13 規制改革会議、医薬品のネット販売についての見解を公表
  2008.11.27 医薬品のネット販売についての国会の動き
  2007.02.27 浣腸を立った姿勢・前かがみで行うことは危険
  2008.10.11 風邪薬販売時に薬剤師からの情報提供は必要とされていない?

参考:医療介護CBニュース12月22日(一定期間を過ぎるとログインが必要です)
      http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19786.html


2008年12月23日 11:36 投稿

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