信頼性の問題や過度の報告を懸念してか、日本ではまだ実施されていない副作用患者直接報告(Direct patient reporting of suspected adverse drug reactions by patients、本来は有害事象と訳すべきですが、この記事では副作用で統一します)ですが、国際学会では、医療専門職には話しにくい症状などの把握ができるなどの利点が報告されています。
Involving patients in reporting adverse drug reactions should be welcomed
(The Pharmaceutical Journal 2009;282:16)(一定期間を過ぎるとログイン必要)
http://www.pjonline.com/news/
involving_patients_in_reporting_adverse_drug_reactions_should_be_welcomed
上記PJ 誌に掲載された記事によれば、去年アルゼンチンのブエノスアイレスで行われた、ファオーマコビジランス国際学会の年会では、デンマーク、スウェーデン、豪州、米国から、副作用患者直接報告の内容や傾向などについてのさまざまな報告が行われています。
当局がまとめたデンマークからの報告では、最近約4年半の副作用報告の19%が患者からによるもので、精神神経系の薬に関する報告が医療専門職による報告と比べ数が多かったそうです。
スウェーデン(消費者団体)では、向精神薬や鎮痛剤に報告が集中する一方で、医療専門職から報告されないような、禁断症状、依存、自殺の考え、電気ショックなどといった症状が報告されているそうです。
Clinical Pharmacist が仲介する(TOPICS 2007.04.07)仕組みがある豪州でも、中枢神経系の薬剤が30%を占め、このうちゾルピデムが最も多く、この報告が国による注意喚起(世界的に広がりましたが)につながったとしています。
また、米国FDAの報告によれば、患者直接報告の副作用報告全体に占める割合は1998年の22%から2008年には46%までに達していて、ここでも精神神経系の副作用が多く報告されているとのことです。
多くの国では、副作用患者直接報告は医療専門職からの副作用報告を補完するというエビデンスができつつあり、日本でもそろそろ何らかの形(厚労省が行わなければ、豪州のように薬科大学などの第三者が代行してもよい)で考える必要があると思います。
また、患者直接報告には精神神経系の副作用、精神神経系・中枢神経系の薬剤に関するものが多いという傾向のようです。また、インポテンツや性欲低下など医療専門職に言いづらい症状もあると思います。これらの症状は私たちも把握しずらい一方で、患者さんにとっては耐え難い、気になるというもの少なくないと思います。
また、中には自殺企図や異常行動、ギャンブル依存症といった、本人だけではなく周りも巻き込むような例も少なからずあります。患者の家族などが薬剤との関連を疑ったときに相談や報告がしやすい仕組みも必要ではないでしょうか。
そういえば、メンタルヘルス関連の掲示板をのぞくと、薬剤ごとに使用体験談などの書き込みがみられます。こういった情報をきちんと吸い上げる仕組みを作ると、今まで知られなかったような副作用が把握できるかもしれません。
海外の当局では具体的に医薬品名をあげて、広く報告を呼びかける取り組みも行われています。日本でもタミフルだけではなく、国内外で疑わしい副作用事例が集積した段階で、集中的に他にもそういった事例がないかを集める仕組みも必要ではないでしょうか。
なお、こういった患者副作用報告の仕組みはこの他に、英国の他、オランダ、カナダにもあるようです。
関連論文:
Patient reporting of suspected adverse drug reactions: a review of published literature and international experience
(Br J Clin Pharmacol. 2007 February; 63(2): 148–156)
http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=2000570
One year with ADR consumer reports
(Danish Medicines Agency 2004)
http://www.dkma.dk/1024/visUKLSArtikel.asp?artikelID=4710
Adverse drug reaction reporting by patients in the Netherlands: three years of experience
(Drug Saf. 2008;31(6):515-24.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18484785
関連情報:TOPICS
2008.02.19 イエローカードオンライン副作用報告システムが本稼動(英国)
2007.04.07 Adverse Medicine Events Line(豪州)
2007.03.17 眠剤服用後の異常行動に注意喚起(米FDA)
2006.11.10 ドパミン作用薬と病的賭博・性欲亢進(英国レポート)
2009年01月10日 14:56 投稿