患者さんに渡す「薬の説明書」はどうあるべきか(米国)

 調剤時に患者さんに渡される薬の説明書(薬情)というと、日本では薬局ごとに仕様が異なり、内容についても差があるのが現状ですが、米国ではこのほど、この問題について、FDA諮問委員会での検討と公聴会が行われています。

Meeting of the Risk Communication Advisory Committee(2009.2.26-27)
 http://www.fda.gov/AdvisoryCommittees/Calendar/ucm117060.htm

 米国では、患者向けの薬の説明書としては次の3種類があるのですが、患者が処方薬を受け取る際に渡されるCMIについて、最近の調査で最低限の必要事項の記載が十分でなかったり、患者に理解されていないことが明らかとなり、FDAではパブリックコメントを行った上で、この諮問委員会と公聴会でCMIの改善策についての検討を行いました。

Consumer Medication Information(CMI) 初めての調剤時に、薬袋といっしょに患者に渡されるくすりの説明書。薬局は通常、外部の企業から買ったものを提供している。FDAはノータッチ。
Medication Guide(MG) 重大で重要な公衆衛生懸念がある医薬品について作成。製薬企業が作成し、FDAがチェックする。作成するかどうかはFDAが指定。
Patient Package Insert(PPI) 製薬企業が作成しFDAがチェック、医薬品のパッケ−ジに挿入されていて、調剤時に薬剤師から手渡される。経口避妊薬などで作成されている。

Consumer Medication Information (CMI) Questions and Answers
 http://www.fda.gov/cder/news/CMI/QA.htm(リンク切れ)

薬局で患者に渡される処方せん薬の説明書の内容改善、米国の取り組み
 (薬害オンブズパースン会議 注目情報2009年2月9日)
 http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=235

米国の患者向け医薬品情報、25%が不十分な内容〜FDAが改善策検討、交付率は94%
 (World Report-世界の薬剤師と薬局 Credential Vol.2 No.2 P37)

(調査報告書)
Expert and Consumer Evaluation of Consumer Medication Information‐2008 [PDF:2410KB]
(模擬患者にメトホルミンあるいはリシノプリルの処方せんを薬局に持参し、CMIを入手しそれを分析評価したというもの。後ろの方に実物の写真あり)

(一般向け上記調査調査報告書の解説)
Prescription Drug Leaflets Need Improvement
  (Consumer Update 2008.12.16)
 http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm106950.htm

 実は、今回の諮問委員会の内容については、各紙ともほとんど報道していなかったため、本サイトでの紹介はあきらめかけていたところですが、5日、この公聴会で発表されたスライドが公開されたことから、おおよそその概要がわかりました。

Food and Drug Administration Risk Communication Advisory Committee February 26-27, 2009 SLIDES→リンク

 全国地域薬剤師協会(National Community Pharmacists Association)(pdf)や米国医療薬剤師会(American Society of Health-System Pharmacists)(pdf)によるプレゼンテーションの他、欧州での取り組みなどが紹介(公聴会スライド(pdf) )され、最後に諮問委員会としての勧告草案(Draft Possible Recommendations(pdf))が示されています。(翻訳して抜粋)

  • FDAは適切な手続きを経て、CMI、MG、PPIに代わる医薬品について伝えるべき基本文書(standard document for communicating essential information)を作成すべきである
  • 基本文書は、使用上の注意に関する情報と共に、リスクとベネフィットについては数値で示すことも考慮すべきである
  • これらの基本文書を作成するにあたっては情報は、“the Drug Facts Box format” を採用すべきである

 この“the Drug Facts Box”は何かということですが、もともと、なにかと批判の多いDTC(消費者直接広告)について、臨床成績や他剤との比較、副作用の頻度などを具体的な数値でわかりやすく示して、医療消費者が正しく認識されるようにと考案されたもののようです。

 WEBで“The drug facts box”をキーワードに検索したところ、 IOMが2006年5月に行ったフォーラム「Forum on Drug Discovery, Development, and Translation: Workshop–Understanding the Benefits and Risks of Pharmaceuticals」(スライドページにリンク)で発表された、Zometaに関する事例がヒットし、これをみるとおおよそその作成過程がわかります。

The Prescription Drug Facts Box:An example using Zometa(PDF5.15MB)
(Presentation. Lisa Schwartz. Drug Forum Workshop 2, May 30-31, 2006.)
  http://www.iom.edu/Object.File/Master/34/923/Schwartz.pdf

 諮問委員会では、2007年に発表されたタモキシフェンに関する論文を紹介しています。

The drug facts box: providing consumers with simple tabular data on drug benefit and harm.
(Med Decis Making. 2007 Sep-Oct;27(5):655-62. Epub 2007 Sep 14)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17873258
http://mdm.sagepub.com/cgi/reprint/27/5/655

 最近では、今年の2月にAnn Intern Med 誌にランダム化比較試験による論文が掲載され、“the Drug Facts Box”は、処方薬のベネフィットと副作用についての認識を向上させるとした報告がされています。

Communicating Drug Benefits and Harms With a Drug Facts Box: Two Randomized Trials
(Ann Intern Med 2009; 150(8). Early Release 2009.2.17)
 http://www.annals.org/cgi/content/abstract/0000605-200904210-00106v1
 http://www.annals.org/cgi/content/full/0000605-200904210-00106v1

 副作用の頻度を数字で具体的に示すということは、わかりやすくてよいのですが、他剤との比較までも数字で示し、他剤と比べた優位性を示すというのは考えさせられるところです。(DTCで使われるというのも背景にもあるのですが)

 一方、欧州はどうかというと、公聴会スライド(pdf) にもありますように、標準化するだけではなく、内容や理解度などについて医療消費者によるチェックするなどの取り組み(こちらは、個装ごとに封入されるPPIに近い物ですが)も行われています。ただ、情報量が多すぎるという反省から、冒頭にさらに重要点を絞った“Headline Section”も設けられているようです。

Always Read The Leaflet Getting the best information with every medicine
(MHRA 2005年)
 http://www.mhra.gov.uk/home/groups/pl-a/documents/publication/con2018041.pdf

 日本では、患者向医薬品ガイドやくすりのしおりなど添付文書に準拠したものが作られていますが、これらを全て患者さんに調剤ごとに渡すことは現実的ではありません。かといって、薬情ではスペースが限られることから、患者さんの中には、不満に感じる人も当然いることでしょう。

 現在、日本では患者さんにくすりの情報(書面によるもの)をどのように、どこまで伝えるのかは、現場の裁量に委ねられていましたが、そろそろ医療専門職や医療消費者を交えて、再検討する時がきているのかもしれません。

3月7日 11:10更新 5月31日 リンク更新


2009年03月06日 23:25 投稿

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