「地域連携パス」における地域薬局の役割

 17日、WAMNETに3月13日に開催された「平成20年度医薬分業指導者協議会」の資料が掲載されています。

平成20年度医薬分業指導者協議会資料(2009年3月13日開催)
  WAMNET資料(3月17日掲載)

 資料は全部で400ページにも達しているのですが、本サイトでもすでに紹介していることも多く、目新しい情報がないかとよく目を通してみると、別冊の中にある、「平成19年度医薬分業計画策定事業報告書」が目を引きました。(少し読みづらいです)

 これは、医薬分業の進展状況等の地域の実情に即した医薬分業推進計画モデルと、医療連携体制における薬局の役割や在宅医療における薬局の関与等に関する医療計画モデルの策定数を拡大し、都道府県に提示することを通じ医薬分業の一層の推進を図るという目的で、厚労省が東京都薬剤師会北多摩支部に委託して行われたモデル事業の報告書で、今後の薬剤師の地域活動を探るものとして、興味深いものとなっています。

 一部雑誌の紹介で既にご存じかと思いますが、この地域では「結核地域連携クリニカルパス」の試行事業(今は本施行?)が展開されており、地域連携の一環として開局薬剤師による「結核パスノート」を用いた服薬管理の試みが行われています。

クリニカルパスの導入による地域服薬支援システムの推進
 〜喀痰塗抹陽性結核患者への効果的・効率的な支援〜
  http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/hoken/oshirase/kadaibetu18/33.pdf
結核対策(東京都立川保健所)
  http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tthc/eisei/kansensho/kekkaku/index.html

 上で出てきた「地域連携クリニカルパス(地域連携パス)」という言葉(似たような言葉で、「地域連携クリティカルパス(地域連携パス)」という言葉もありますがほぼ同義ととらえてよいようです。クリティカルが「危機の、決定的な、臨界の」という意味であるのに対して、クリニカルが「臨床の、病室用の、客観的な」という意味であることから、最近では「クリニカルパス」と呼ばれることも多いと記すサイトもあります)ですが、実はこの他の疾患にも広がりを見せていることをご存じでしょうか? 

 医療連携やクリティカルパスの普及活動に努めている、国際医療福祉大学三田病院の武藤正樹氏のインタビュー記事や講演スライド(下記リンク)を見るとおおよそその意味や現状がわかります。

注目される地域連携パス〜21世紀の医療連携は”疾病単位”
 (TKC医業・会計システム研究会 最新医業経営紹介)
 http://www.clinic.tkcnf.or.jp/b/b03/b0374.html

地域連携クリティカルパスと製薬企業
(富士通ライフサイエンスフォーラム 2008 in 東京、講演スライド5.17MB)
 http://segroup.fujitsu.com/life/events/jlife/2008/lsf-tokyo/download/kns.pdf

 クリティカルパスは、上記スライドにあるようにと「疾患別に診断・治療・リハビリまでを診療ガイドラインに沿って作成する標準診療計画」のことで、この中には薬物治療についての項目も含まれることから、当然地域薬局も無縁のことではありません。

 上記インタービュー記事で武藤氏も「全国に5万件ある薬局をどうやって巻き込むかということです。使えるものは何でも使うというスタンスが重要で、そういういろんな資源を有効に活用するチーム医療が連携パスです。すると、服薬指導も徹底してコンプライアンスが上がる。」と述べ、地域薬局との連携に期待を寄せています。

 私も知らなかったのですが、最近各都道府県が策定した地域保健医療計画には、がん、脳卒中(脳硬塞、脳出血、くも膜下出血)、急性心筋梗塞、糖尿病の4疾患については医療連携推進体制の強化が盛り込まれており、今後は二次医療圏ごとにこの「地域連携パス」を作成、それを運用するという流れのようです。

 栃木県でも、今年1月から県内医師会に委託し、連携パスの普及に向けたモデル事業が始まっていますが、千葉県では、全県共用の4疾病毎の地域医療連携パスの例示モデル(案)が公表され、パブリックコメントが開始されています。(3月19日締め切りなので、下記リンクも切れてしまうかも)

全県共用の地域医療連携パスの例示モデル(案)に係る意見募集について
 (千葉県健康福祉部健康福祉政策課 2009年2月26日)
 http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/c_kenfuku/iryou_keikaku/pass/210225reizi/top.html

 また、大阪では大阪府立病院機構大阪府立成人病センターウェブサイトで、 大阪府がん診療連携協議会の地域連携クリティカルパス部会がまとめた、「がん診療にかかる地域連携パス(案)」を公表しています。

大阪がん診療地域連携パス(案)
 http://www.mc.pref.osaka.jp/ganshinryou-chiikirenkei.htm

 WEB上を検索したところ、既に緩和ケアなどの領域では地域薬局を含めた地域連携パスの運用が行われています。熊本県の「有明緩和ケアネットワーク・地域連携パス」では、在宅医用地域連携パスに麻薬処方に対応できる調剤薬局の選定などの項目とがあり、調剤薬局の連携がきちんと組み込まれています。

有明緩和ケアネットワーク・地域連携パス(荒尾市民病院ウェブサイト)
 http://www.hospital.arao.kumamoto.jp/treat/treat0808.html

 また、 東京都港区では、港区連携PEGパス研究会が、同地域でPEG(内視鏡的胃ろう術)ケアに係わる、医療関係者および患者およびその家族向けにPEG連携パスを開発しています。

港区連携PEGパスマニュアル(武藤正樹のWebサイト) http://masaki.muto.net/

 一方、緩和ケア以外のがん治療を含めたこれら4疾患疾患については、今のところ地域薬局をも含めた地域連携パスの運用事例はまだないようです。(各地の事例は、第一三共社が医療関係者向けに発行している「パス最前線」で紹介されています。登録すれば、WEB上でもみることができます。)

 確かに、全ての疾患で地域連携パスに開局薬剤師が関わる必要はないかもしれませんが、医療法改正で医療提供施設として地域薬局(調剤薬局)が含まれたのにもかかわらず、保健医療計画のもとに進められている地域連携パス作りに地域薬局の連携が含まれていない(ほとんど考慮されていない)のはなぜでしょう?

 これら4疾患における薬物治療でのコンプライアンスの向上は重要であり、使用中の薬を服用状況(服用できない場合はその理由も)や副作用のチェック(「がん」などではチェック事項もありますが)を地域薬剤師がチェック記入し、患者・医師らと情報を共有することは重要ではないかと思うのですが。(おくすり手帳の有効活用でもよいかもしれません。もし事例がありましたら、是非紹介お願いします)

 また、今後地域連携パスが一般化すれば、治療目標もこれに基づいたものとなります。薬局の現場で患者さんと独自に治療目標を立てて、それに向けての服薬指導や生活指導を行っている施設も少なくないと思いますが、今後はこういった業務は適さないものになるかもしれません。

 「バスに乗り遅れるな」というわけではありませんが、まずは皆さんも、地元で地域連携パスがどのようなものがあるか、また保健医療計画の中で、今後連携パスがどう作成され、普及されていくかは注視する必要があるでしょう。

関連情報:TOPICS 2008.09.08 薬剤師は、多職種との協働を模索すべきである

関連記事:
読売新聞の医療と介護(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/)の記事に、関連記事が掲載されています。

2008年4月1日
 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20080401-OYT8T00499.htm
 (脳卒中の地域連携パスの事例紹介です)
2008年4月2日
 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20080402-OYT8T00437.htm
 (がんに関する地域連携パス作成のむずかしさが紹介されています)

つい最近、薬剤師による地域連携に関する記事が掲載されています。

2009年3月17日
 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20090317-OYT8T00732.htm
 (慶応大薬学部の学生や薬剤師が地元介護施設でボランティアを行うという取り組みの紹介)   
2009年3月18日
 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20090318-OYT8T00754.htm
 (岐阜地区の薬薬連携の取り組みの紹介です)

3月21日 9:20更新 22日 21:10更新 23日 9:10更新


2009年03月18日 17:54 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    「地域連携パス」「薬局」をキーワードにGoogle検索をかけたところ、昭和大学薬学部病態生理学教室の研究グループが、頭痛診療をテーマに病院・診療所と地域保険薬局との医療連携の必要性についての調査を行っているようです。今年の薬学会や薬学雑誌で発表するようです。

    薬学会の抄録
     http://nenkai.pharm.or.jp/129/pc/ipdfview.asp?i=21

    薬学雑誌の電子版?
     https://denshi.pharm.or.jp/home/pubpharm/pubview.asp?p=y080297

    それによれば、保険薬局薬剤師300名(ワークショップ参加経験者)を対象に、「頭痛医療における地域の医療連携パスはあるか」との質問したところ、「知らない」と答えた人が72%にも達したそうです。「地域連携パス」という概念自体を知らない薬剤師がかなり多いことがうかがえます。(私もそうですが)

    研究者らは、他の医療従事者に頭痛医療における薬剤師の職能を理解してもらうことや保険薬局の薬剤師と医師がもっと医療連携を取り易い環境を整備することなどを今後の研究課題として挙げています。

    一方、上記で紹介した武藤氏はこのほど、事例集をまとめたブックレットを出版したそうです。保険薬局の方がよまれることをすすめています。

    武藤正樹Weblog 3月20日 http://mutoma.asablo.jp/blog/2009/03/20/4192029

  2. アポネット 小嶋

    日薬雑誌の4月号で、総合高津中央病院薬剤部長の宮崎美子氏が、「地域連携クリニカルパスと薬剤師」という題でセミナー記事を書いています。

    地域連携パスについてわかりやすく記しているので一読をおすすめします。

    記事では、厚労省のウェブサイトの地域連携パスについて記したページも紹介しています。

    地域連携クリティカルパスとは〜安心・信頼の医療の確保と予防の重視
    (平成18年度医療制度改革関連資料)
     http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou03.html

    セミナー記事で宮崎氏は、薬剤師がパスに関わる根幹として、

    「根拠に基づいた疾患・病態毎の最適な薬剤選択=標準処方の構築、適切なジェネリック薬の選択」
    「使用薬剤の安全確保・薬効評価から投与設計への関わり」

    を挙げ、これらの医薬費の専門家として薬物治療での患者安全の守り手として各疾患連携パスでの役割に取り込んでいくことが重要であると指摘しています。

    こうなると、各地(自治体)で薬剤師の役割抜きで地域連携パスが作成されつつある現状には疑問を感じざるを得ませんね。

    宮崎氏も現場の薬剤師の在宅診療への希薄さが見え隠れしているとの懸念を述べ、病院薬剤師が調整役となって保険薬剤師も含めた「退院時共同指導」の実施や、病院・薬局個々での連携には限界があるとして、今後は薬剤師会等地域で一体化した推進が必要であると指摘しています。
    (地元川崎市では、「薬剤師会在宅医療行動計画」の構想もあるようです)