4月27日のTOPICS(地元に薬剤師の首長が誕生。でも・・・)で、地元足利市に誕生した薬剤師の市長が、2年後に全面移転が予定されている広域病院(足利赤十字病院)の隣接地に、調剤薬局の誘致を検討しているということを紹介しましたが、市長は相当本気のようです。
29日に開催された足利市議会の臨時議会で、大豆生田市長は足利赤十字病院の近くに薬局を整備したい考えを明らかにし、自身のブログでもその方針を明らかにしています。
議会所信表明(特に調剤薬局の件と鹿島橋通りの件):2009年6月1日街頭演説
(大豆生田実ブログ 2009年6月1日)
http://www.j-beans.jp/archives/2009/06/01/103914.php
広域病院の近くに薬局があることは、一部の患者さんには必要なこととは思いますが、面分業を推進する立場である行政のトップが、患者さんの利便性と市の収入源という視点だけですすめることには大いに疑問が残ります。しかも、地元薬剤師会には、正式な話は一切ありません。
選挙前にこの件について、本人に直接見解を求めましたが、「病院の前に薬局があるのがあたりまえでしょう。面分業は理想です。」と述べ、私はかかりつけ薬局や医療連携ということをどれだけ考えているのかと思い、思わずその場の席を立ってしまいした。正直がっかりしています。
実はこの市競馬場跡地は、補助金を受けて整備が行われています。市長は、「土地の分譲かリースで薬局に使用してもらえれば市の収入になる」としていますが、市会議員からは「補助金をもらった土地を民間に分譲することが許されるのか」といった反発の声も上がっています。一市民の立場としても、せっかくまとまった土地であるのに薬局だけのために分譲するのは果たして有効活用なのかとも考えます。
これで、チェーンの薬局などが進出に出店へ名乗りを上げるところが出てくる(周辺の住民の中では、具体的な名前まで出ているようです)と思いますが、市長自らが薬剤師ということで、かえって市民から「裏でお金が動いているのではないか」との誤解を生む懸念もあります。市長はそういった点のリスクを考えているのでしょうか。また、進出した薬局が地元薬剤師会に加入しないという懸念もあります。
焦点は、こういった経緯で開設される薬局が保険薬局として許可されるかです。この点について私は、医療モールと手法は同じですので、おそらく許可はされるのではないかと思います。
薬局過疎地であればやむを得ないのかもしれませんが、やはり面分業を推進するべき立場である行政が、自ら調剤薬局を誘致することの是非が問われることとなるでしょう。
業界紙の方でこのページを見ている方がいましたら、是非関係者に取材をして頂ければありがたいです。
関連情報:TOPICS 2009.04.27 地元に薬剤師の首長が誕生。でも・・・
参考:下野新聞5月29日
2009年06月01日 15:06 投稿
6月11日、12日、15日の3日間にわたり、市議会定例会の一般質問が行われ、この問題について複数の議員が取り上げています。
平成21年第3回市議会定例会 質疑及び一般質問通告一覧表(足利市HP)
http://www.city.ashikaga.tochigi.jp/005gikai/osirase/ix2106.htm
定例会の模様は地元ケーブルTVで生中継されている(3ヶ月たてば議事録も出ます)ので、発言の詳細については後日詳細したいと思いますが、16日更新された市長自身のブログでもこの問題を取り上げられています。
平成21年6月市議会一般質問(大豆生田実のブログ6月16日)
http://www.j-beans.jp/archives/2009/06/16/100954.php
>競馬場跡地内に調剤薬局を開設するスペースを設ける方針について。
>ある市議からは、医薬分業における「かかりつけ薬局」があるべき
>薬局の流れではないか、それと逆行しないかという鋭い質問あり。
>まさしくそれは理想だが、実際はそれとはほど遠い状況。
>従って現実的な判断として、競馬場跡地内に調剤薬局を設けつつ、
>FAXにてかかりつけ薬局に処方箋を送るサービスが行えるように
>日赤に働きかけたい。
医薬分業についてきちんと理解し、問題点を指摘している議員さんがいることに、私は安心しました。やはり日頃の私たちの活動というのが少しずつ浸透しているのだと感じました。
今後の注目点は、調剤薬局を開設するスペースをどこに設けるかです。
さまざまな情報が流れているのですが、土地の有効活用を考えると、足利赤十字病院に無償貸与した土地の一角を削ってという案もあるようです。
そうなると事実上の敷地内の薬局であり、保険薬局の許可が下りるのかどうかは微妙なところです。無理矢理公道をつくるというウルトラCもありますが、厚生局が果たしてこれを認めるのでしょうか?
こんにちは、
いつも拝見しています。
薬局を経営していますが、このたびの市長の発言である日赤病院立地内での薬局誘致はがっかり致しました。面分業の必要性と、在宅医療に参画している薬局があることを市長はわかっているのでしょうか?
薬剤師担当療養規則は、薬局設置に関して機能的、構造的、経済的な繋がりがあってはならないと規則されています。
日赤病院内の通路を公道化する予定で考えているようですが、これが許可されれば、何処の病院でも薬局が開設されます。もはや無原則となります。
むしろ利便性を考えるなら、院内投薬にすべきです。
欧米と比べて日本の分業での薬剤師評価は国民から得られていない。残念なことに二度手間や費用負担増は、分業メリットを超えるまでには無い。
あらためて、薬局経営者や薬剤師は今回の出来事を謙虚考え、医療機関とのフェンスを通路にしている違法なケースは閉じて襟を正すことも必要です。
良識ある薬剤師のために、記事として取り上げて頂くことをお願いしました。
日経BI副編集長の小田修司 氏が取材に訪れるかもしれません。
田中
田中様,情報ありがとうございます。
紹介が遅れましたが,市長は6月議会の答弁の中で,議員の質問に対し次のように答弁しています。
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調剤薬局の立地を実現するためには,競馬場跡地が市街化調整区域に指定されていることに伴う開発許可の問題,店舗の敷地を病院敷地から明確に分離し,さらに公の道路に接する形状にしなければならないといった,法律的・技術的な問題・課題がある。
また,国から不等積等価交換により用地を取得した経緯や補助金等にかかわる予算の執行の適正化に関する法律の趣旨から,用地の分譲や貸借により過度に収益をあげることの課題,さらに周辺地域で民間主導により調剤薬局立地の動きがあることなど,乗り越えなければならないさまざまなハードルがあることは承知している。
薬剤師のはしくれとして,かかりつけ薬局のあり方は理解している。しかし現実には,医療機関の近在に薬局を用意して,患者さんの利にかなうような形でのサービスというのが全国的な展開として,どこの例外もなく,行われている。
ですから,その建前というか理想というのは,よく理解はしながらも,現実としては医療機関の近くに薬局があった方が患者さんのためであり,競馬場(跡地)の敷地内に,調剤薬局がある方が,患者さんのためになるという判断を私なりにさせて頂いた。また先に挙げたハードルも超えられないハードルではないと考えている。
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市長は半ば公約として掲げた以上,議会から疑問の声があがってもそう簡単には撤回することはできないでしょう。
ただ,もし家賃や土地の売却益,賃貸料(入札で一番高いところにすると考えるのが自然でしょう)を市の収入とするなどの方法で医薬分業を事実上経済的に利用することを,医薬分業をすすめる立場であるはずの行政に認めてしまったら,財政難や公立病院の経営難に苦しむ全国の自治体が同じことに乗り出すことは間違いないでしょう。
個人的にはいろいろな思いもありますが,薬局を誘致するかどうかは,最終的には議会が決めることであり,また保険薬局の許可がどうかは厚生局が決めることであり,現在のその推移を見守っている状況です。
地域医療における薬局の役割を十分考えた,関係者の良識を信じるしかありません。