厚労省の新型インフルエンザ対策推進本部は2日、地方自治体の衛生主管部(局)長宛に、「医療機関における新型インフルエンザ感染対策について」という通知を出しました。
医療機関における新型インフルエンザ感染対策について
(厚生労働省 新型インフルエンザ対策推進本部 2009年6月2日)
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/06/info0602-01.html
この通知は、国立感染症研究所が新型インフルエンザに係る知見を集積し、現時点での全国の全ての医療機関に求められる院内感染対策についてまとめたもので、同研究所がまとめた下記の二つの手引きを添付しています。
医療機関における新型インフルエンザ感染対策(PDF:173KB)
推奨する感染対策
- すべての医療機関において、すべての外来患者を含む来訪者に対する発熱や咳、くしゃみなどのインフルエンザ様症状を指標としたスクリーニングを行う。医療機関の入り口に近いところでその有無をチェックする
- インフルエンザ様症状を呈している患者と、そうでない患者を別の領域に誘導する
- これらの業務に従事するスタッフは、常時サージカルマスクを着用していることが望ましい
- インフルエンザ様症状を呈している患者に対して迅速診断キットやウイルス分離・PCR 検査のための検体を採取する場合は、それに加えて眼の防護(ゴーグルまたはフェイスシールド)と手袋を着用する。この手技は、他の患者からなるべく離れた場所で行うようにする
- インフルエンザ様疾患の患者に対して入院加療が必要な場合、用いる病室は個室が望ましいが、他の患者と十分な距離を置くことのできる状況では、インフルエンザ様疾患の患者を同室に収容することも考慮する
- インフルエンザ様疾患の患者の部屋に入室するスタッフは、サージカルマスクを着用する。手指衛生の励行に努める
- インフルエンザ様疾患の患者に対する気管支鏡、気管内挿管などのエアロゾルを産生するリスクのある手技は、個室で行い、スタッフはサージカルマスクに代えてN95 マスクまたはそれ以上の性能の呼吸器防護具、眼の防護(ゴーグルまたはフェイスシールド)、手袋を着用することが望ましい
- 常に、標準予防策や手指衛生も忘れずに行う
医療機関におけるハイリスク者に関する感染防止策の手引き(PDF:171KB)
外来部門において推奨される対策
- 全ての医療従事者が標準予防策に加えて飛沫予防策を実施する
(全ての医療従事者が標準予防策を徹底する。加えて、新型インフルエンザに感染しているかどうかに関わらず、全ての患者のケアに際してサージカルマスクを着用する等、飛沫予防策を実施することを考慮する。) - 発熱患者とその他の患者の動線を分ける
- ハイリスク者へは長期処方をすることによりその受診を回避する
(患者発生が少数である時期より、すでにコントロールがついているハイリスク者については可能な限り長期処方を行って、急速に患者数の増加がみられる時期に医療機関を受診する機会を極力減らすように調整する。) - ファクシミリ等による処方せんの送付について検討する
事前にかかりつけの医師が了承しておくことで、発熱等の症状を認めた際に、電話等による診療により新型インフルエンザへの感染の有無について診断できた場合には、診察した医師はファクシミリ等により抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんを患者が希望する薬局に送付することができる。
また、とくにハイリスク者については感染源と接する機会を少なくするため、一般的に長期投与によって、なるべく受診間隔を空けるように努めることが原則であるが、電話等による診療により診断ができた場合、診察した医師はファクシミリ等による慢性疾患等に係る処方せんを患者が希望する薬局に送付することができる。
入院部門において推奨される対策
- 発熱患者とその他の患者の病床エリアを分ける
- ハイリスク者の診療を担当する医療従事者はサージカルマスクを着用する
全ての医療従事者が標準予防策を徹底することが大切であるが、ハイリスク者の
診療を担当する医療従事者は、常にサージカルマスクを着用しておくことが望まし
い。 - ハイリスク者の待機的入院を控える
(急速に患者数が増加している時期において、医療機関は、ハイリスク者の教育や検査目的の待機的入院や延期することが可能な手術を控えることが望ましい。ただし、これらの延期については患者自身の同意のもとに決定する。) - ハイリスク者が入院する病棟への不要不急の見舞いを制限する
ハイリスク者に勧める感染対策
- 感染防止策についての正しい知識を身につける
- 医療機関を受診する場合には事前に電話をかける
(急速に患者数が増加している地域で受診を希望する場合には、緊急時を除き、なるべく事前に電話をかけてかかりつけの医師から受診すべきかの判断を求めるように勧める。また、受診の予約をすることで、医療側は長時間にわたり院内で待つことがないようにする。) - 院内ではサージカルマスク着用と手洗いを心がける
(発熱外来に限らず、すべての医療機関において新型インフルエンザに感染している患者が受診している可能性があるものと考え、医療機関を受診する場合には必ずサージカルマスクを着用することを勧める。さらに、こまめに手洗いもしくはエタノール等による手指消毒を心がけてもらう。) - 待合室では他の患者から離れた場所に座る
医療機関において指定されたエリアがない場合には、なるべく他の患者からは離れた場所で診察の順番を待ってもらうよう誘導する。
厚労省では、各都道府県等に対して、各医療施設に対して本資料を周知し、院内感染対策の徹底に向けて参考とするよう求めていますが、これらの手引きを果たして現時点でも徹底させる必要があるのか、感染拡大時のみに徹底するのであればどういった段階で行うべきなのか、もう少し具体的に示さないとまた混乱が起こるのではないかと思います。自治体は国の方針通りに従うのでしょうから。
感染症の専門家が最善の感染拡大防止策として今回の手引きを示したのでしょうが、これだど「医療従事者はほぼ日常的にサージカルマスクを着用せよ」ともとれなくはありません。新型インフルエンザ対策でマスクの備蓄を怠っていたことは反省しなければなりませんが、全ての医療従事者が着用できるだけの供給体制があるのでしょうか? さらに付け加えるのなら多くの人がサージカルマスクを消費することにより、資源の無駄にならないのかということです。
また、ハイリスク患者の定義をきちんとして欲しいと思います。免疫が低下している患者さんは当然だとは思いますが、ぜんそく、COPD、慢性心疾患、糖尿病などは、病状の程度は患者さんによって大きく異なります。こういった病気を持っている人は全て、医療機関(調剤薬局)には危ないので当分は来ないで下さいということなのでしょうか? そんなことをしたら、調剤薬局は多くの患者さんに薬を配達しなければならなくなるでしょう。
さらに、ここまで感染対策を徹底するのであれば、発熱時にOTCを購入する可能性がある店舗(薬局・店舗販売業)も全て同様の対応が必要ということになってきます。
これを読むと「発熱をしている人を見たら、新型インフルエンザと思え」ともとれなくもありません。新型インフルエンザは確かに我々人類にとっては脅威であり、感染予防対策も重要ではありますが、国などが示すこういった手引きを見ると、新型インフルエンザにかかること自体が「悪」のように思えてなりません。海外から戻ってきた高校生らが周辺住民などから差別的とも言える多くの非難を受けたという報道を見ると、現時点で私たち(特に薬局の現場)はどこまでこの手引きに従うべきか、非常に迷うところです。
今秋からのインフルエンザシーズンは、薬剤師にとってもさまざまな混乱と試練が持ち受けているでしょう。
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2009年06月03日 01:04 投稿