薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究 中間報告書

 厚労省は3日、この3月に「薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班」がまとめた中間報告書をウェブサイトで公表しました。(全487ページ)

 「薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班」報告書について(厚労省)
   http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0327-12.html

 この中間報告書は、薬害肝炎事件において原告と国が和解・合意後に設置された「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の下に、第三者の立場で薬害肝炎事件の経過を詳細に明らかにし、さまざまなその上で薬害肝炎の起こった真相を究明して、行政、製薬企業、医療現場それぞれの諸問題と責任を明らかにして、検討会に資料を提供することを目的に設置された、「薬害肝炎事件の検証研究班」によってまとめられたものです。

 報告書は、「薬害肝炎拡大の被害の実態」「薬害肝炎の発生・拡大に関する薬務行政の責任」「薬害肝炎に関する血液製剤製造会社の責任」「当該医薬品による肝炎発症の危険性及び肝炎の重篤性に関する知見の進展と医療現場への伝達状況」「再発防止のための対策案」の各章で構成され、検証のまとめでは次のような「再発防止のための対策案」を示しています。

薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究 中間報告書より引用
(薬害肝炎の検証および再発防止に関する研究班 2009年3月27日)
  (PDF:10,011KB)

1.「安全第一」の思想と施策の普及

 薬事行政の基本精神、基本方針、基本構造に、薬害を繰り返す要因が一部存在する可能性がある。その薬事行政に携わる者は、命の尊さを心に刻み、高い倫理観を持って、医薬品の安全性と有効性の確保に全力を尽くすことが必要である。

2.評価手法の見直しと薬事行政における安全性体制の強化:ICH-E2E との調和と「医薬品リスクマネジメント」の導入

 これまで起きた薬害の多くは、すでに企業や行政が把握していたリスク情報の伝達が十分に行われてこなかった、あるいはリスク情報の不当な軽視により、医療現場での適切な対応・対策がとられていなかったことによって発生していると考えられる。そのためには欧米で主流となっているリスクマネジメントをわが国へも導入することが肝要である。

3.医薬品情報の円滑な伝達・提供

 医薬品に関する「情報の収集、管理、分析・評価、伝達・提供のあり方」を見直す必要がある。医薬品に関する情報のコミュニケーションは、行政、製薬企業、医療現場(医師/薬剤師などの医療従事者・学会など)、マスメディア、患者・国民、の5者間において成り立つ。それぞれの立場から、情報を上手に取りさばくことは極めて重要である。

4.医薬品評価教育―薬剤疫学と薬害教育の強化―

 大学の医学部・薬学部教育において、医薬品評価に関して学ぶ場を増やし、またカリキュラムが強化されるべきである。また卒後教育・生涯教育もなされるべきである。

 教育の対象として、日本の薬剤師の薬剤疫学に対する潜在的能力が開発されるべきである。医薬品を使用した後に発生した有害事象の研究に疫学を適用し、薬物と有害事象の関連を究明することから発展してきた薬剤疫学こそ、新しい薬学教育で養成される薬剤師にとって、医療現場で遭遇する問題をエビデンスに基づいて解決し、患者によりよい医療を提供していく上で必要不可欠な学問分野であると考えられる。

 医学、歯学、薬学、看護学等の教育の中で、薬害の自然科学的要因、社会的要因、薬害被害者の体験や心情などの教育プログラム(薬害教育)がなされるべきである。また、製薬企業や厚生労働省、PMDA においても、職員に対して薬害教育がなされるべきである。

5.添付文書をより公的な文書に位置づける

 現在の添付文書は、米国のように監督官庁(FDA) が一字一句まで手をいれている「公文書」ではなく、承認申請した企業で原案をつくり、新薬の承認審査の段階でPMDAならびに厚労省審査管理課で内容をチェックし、さらに、薬事食品審議会医薬品分科会の新薬を審査する部会で審議を経てつくられている「準公文書」扱いであり、 添付文書の変更及び表現などの責任の所在はあくまで企業にある。

 今後、分子標的薬や生物学的製剤が多数承認されることが予想され、それらの特性から感染や発がん、あるいは重篤な副作用が発生する危険は増加すると予想せざるをえず、それらによる薬害の防止は緊急の課題である。添付文書を公的な文書として明確に位置づけて、変更等の手続きも明確にし、厚労省と企業がともに責任を持つことを明確にすることが必要である。

6.医薬品安全管理者の積極的活用による医薬品の適正使用の推進

 すべての病院におくことが義務づけられている「医薬品安全管理責任者」に権限を付与することにより、医療機関における医薬品安全の責任者として明確に位置づけ、医薬品の安全性確保を推進する。

7.医学的知見の学際的監視・伝達機構の構築

 産官学の連携の下、専門分野を横断する学際的な諮問会議を設置して薬害も含む医療上予見される問題につい集中的な検討を進めることが肝要である。

 また、行政のみならず、学会などの医療者自らが積極的に監視機構を設立し、社会への還元を柱とした情報公開、伝達システムの構築に主体的に取り込むことが求められる。

 「医薬品情報の円滑な伝達・提供」「薬剤疫学の知識習得」「医療機関における医薬品安全の責任者」など、私たちに求められることも少なくありませんね。

 この研究斑では今年度については、患者(被害者)の実態把握、また被害者が身体的、精神的、経済的、社会的にどのような被害を受けていたか、被害者救済等についての実態調査を行って検証をしていくとのことです。

関連情報:TOPICS 2009.05.07 薬害防止のための医薬品行政のあり方第一次提言

第12回薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会
        (2009年3月25日開催)
議事録:http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/txt/s0330-5.txt
  資料:http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0330-12.html


2009年06月03日 17:14 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    紹介が遅れてしまいましたが、最終報告者は厚労省ウェブサイトですでに公表されています。(全596ページ)

    「薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究班」最終報告書について(厚労省)
      http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/s0300-1.html

    報告書は、「薬害肝炎拡大の被害の実態」「薬害肝炎の発生・拡大に関する薬務行政の責任」「薬害肝炎に関する血液製剤製造会社の責任」「当該医薬品による肝炎発症の危険性及び肝炎の重篤性に関する知見の進展と医療現場への伝達状況」の各章で構成されていて、「薬害肝炎の発生・拡大に関する薬務行政の責任」の章で、私たちに求められるさまざまな提言や知っておきたい事項についての記述があります。