米FDAは16日、亜鉛を含む鼻腔内に使用するOTC3製品について、嗅覚脱出(anosmia)や嗅覚消失(loss of sense of smell)を引き起こす可能性があるとして、消費者に使用しないよう呼びかけました。
FDA Advises Consumers Not To Use Certain Zicam Cold Remedies Intranasal Zinc Product Linked to Loss of Sense of Smell
(FDA NEWS 2009.6.16)
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm167065.htm
Warnings on Three Zicam Intranasal Zinc Products
(FDA Consumer Updates 2009.6.16)
http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm166931.htm
使用しないよう呼びかけられたのは、グルコン酸亜鉛を含む“Zicam Cold Remedy Nasal Gel”“Zicam Cold Remedy Nasal Swabs”“Zicam Cold Remedy Swabs, Kids Size”(製造中止品)の3製品で、これらの商品は風邪の治りを3倍速くするという触れ込みで、昨年一年間でも4000万ドルを売り上げる大型商品です。
Zicam Cold Remedy Nasal Gel
http://www.zicam.com/products/coldremedy_nasalgel
Zicam Frequently Asked Questions
http://www.zicam.com/products/faqs
FDAによれば、99年にこれら製品が発売後、亜鉛含有の鼻腔用製品の使用と関連づけられるanosmiaの報告が130以上(これらは、医師・患者などから直接報告をうけたもの)も寄せられている他、メーカーでは800以上の事例も把握しているそうです(FDAには報告せず)。
事例の中には、中止後も症状が長期にわたったり、元に戻らない例など深刻な例も少なくないそうです。
亜鉛というと、味覚障害(嗅覚障害にもよいとする意見もある)の人が摂取(内服については、今回の注意喚起の対象外)すると効果があることで知られていますが、一方で亜鉛は皮膚、眼、鼻、喉に対する刺激性があることも知られています。また動物実験では、鼻腔内投与により嗅神経の変性や不可逆的な嗅覚消失の報告もあります。
亜鉛(「健康食品」の安全性情報)
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail36.html
化学物質安全性(ハザード)評価シート(更新日が古いですが)
http://www.safe.nite.go.jp/pdf/2001-29.pdf
このため、鼻腔内投与のこれらの製品ついては以前より安全性への懸念が指摘されており、米国内では嗅覚障害との関連性をめぐって訴訟にも発展しているようです。
Anosmia after intranasal zinc gluconate use
(Am J Rhinol.2004 May-Jun;18(3):137-41.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15283486
Zinc gluconate(Wikipedia)
http://en.wikipedia.org/wiki/Zinc_gluconate
日本では、このグルコン酸亜鉛を配合する鼻腔内に使用する製品はありませんが、酸化亜鉛を含む傷薬(鼻粘膜に塗布する可能性)、塩化亜鉛を含むうがい薬(鼻粘膜にも薬が回る可能性)、硫酸亜鉛を含む点眼薬などの亜鉛製品(いずれもOTCあり)があり、これらの影響はないのかどうか、ちょっと心配になってきました。調べてみたいと思います。
関連ブログ:FDA警告文:亜鉛含量鼻腔内風邪薬による嗅覚脱出
(内科開業医のお勉強の時間6月17日)
http://intmed.exblog.jp/8423194/
参考:
FDA Issues Warning for Over-the-Counter Cold Remedy
(HealthDay 2009.6.16)
http://www.healthday.com/Article.asp?AID=628118
FDA: Nasal Spray Can Cause Loss Of Smell
(CBS NEWS 2009.6.16 AP共同)
http://www.cbsnews.com/stories/2009/06/16/health/main5091568.shtml
F.D.A. Warns Against Use of Popular Cold Remedy
(New York Times 2009.06.17)
http://www.nytimes.com/2009/06/17/health/policy/17nasal.html?_r=1&ref=us
6月18日 11:20更新
2009年06月17日 18:55 投稿
関連のブログを見つけました。わかりやすく書いてあるので訪問してみて下さい。
風邪の治療で嗅覚をなくす、とは。(くすり作り職人のブログ 6月17日)
http://kentapb.blog27.fc2.com/blog-entry-1670.html
厚労省も6月16日付けで注意喚起を行っています。
個人輸入において注意すべき医薬品等について
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kojinyunyu/050609-1.html
アブストラクトだけなので、詳しい内容はわかりませんが、風邪の患者25人に関する臨床試験、生物学試験などのデータを分析した論文が掲載されたそうです。
The Bradford Hill criteria and zinc-induced anosmia
(Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2010; 136(7): 673-676.)
http://archotol.ama-assn.org/cgi/content/abstract/136/7/673
Zinc Nasal Sprays Culprit in Loss of Smell
(Medpage TODAY 2010.7.19)
http://www.medpagetoday.com/PrimaryCare/AlternativeMedicine/21249
上記記事によれば、1930年代に子どもに小児麻痺の予防で亜鉛含有の点鼻薬を使ったところ、1%で嗅覚消失の発症があったとの報告があったそうです。(関連性が疑われる最初の報告だそうです)
亜鉛含有の風邪薬に嗅覚障害の恐れ、米研究
(AFP BB NEWS 2010年7月20日)
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2741962/5989036
グルコン酸亜鉛を含有する OTC 経鼻投与による嗅覚消失・・・因果関係を示す報告
(内科開業医のお勉強日記 2010年7月20日)
http://intmed.exblog.jp/11003110/
もう、市場にはないとは思いますが。