足利市の「究極の門前薬局」構想は実現するか

 地元薬剤師市長による門前薬局誘致の構想(TOPICS 2009.06.01)についての記事が,今日届けられた日経DIの8月号の11ページに「足利市が打ち出した“究極の門前薬局”構想」というタイトルで掲載されています。

 TOPICS 2009.06.01 の記事で業界紙が取材してくれればと書きましたが,今回の取材は個人的には一切お願いをしていませんし,私のところにも取材は来ていないことを申し添えます。もしかしたら,病院周辺に出店を考えていた方が,真相を探るために取材をお願いしたのかもしれません。

 記事の内容についてですが,おおよそ耳にしていたことなので驚きはありませんが,いくら市民の利便性を考えてのことだとしても,20年間の無償貸与の契約を一方的に変更して土地の一部を取り戻し,さらに私道を公道(市道)に認定してまで薬局を誘致する必要があるのかは正直いって疑問です。テナントに入居したい薬局との関係を変に勘ぐられたり,行政訴訟などといった泥試合にならなければいいのですが。

 現時点では正式な構想は議会にも地元薬剤師会にも示されていない(この手法も大いに問題)ので憶測になってしまいますが,市長は,5〜6薬局分のテナント(選挙前の公開討論会でも訴えていました)の募集も本気で考えているようです。はたからみれば,医薬分業を食いものにしているとも思われてしまうのではないでしょうか。

 市長は6月議会の答弁で、議員の質問に押されてFAXによる面分業も同時にすすめるとしていますが,5つも6つも薬局ができてきしまったら,FAXによる面分業はおそらく形だけのものとなるでしょう。そしてテナントとなった薬局から「FAXは廃止すべきだ」との声も出てくる可能性があります。そして何よりも,「医薬分業=病院の近くでくすりをもらう」という認識が広がることが大いに懸念されます。

 薬剤師会にも取材の求めがあったのですが,現時点では判断できる正式な情報が全くなく,記事の通り,さまざまな意見があるため,現時点ではコメントはできる段階ではないとしていたはずなのに,「何らかの要望書は出す方針」という文言が入ってしまいました。今後波紋を呼ばないか,とても心配です。

 市長は「病院を出てすぐ薬局があれば便利で,テナント料も入るので一石二鳥だ」として何が何でもすすめるようですが,病院のすぐ前に市が用意したテナントに薬局が建ち並ぶという光景は個人的には見たくはありません。日薬はこの問題どう考えているのでしょうか? 地元だけではさまざまな利害関係も予想され,とても対応できないと思います。

 もしかすると私の意見は正論ではなく,少数派なのかもしれません。皆さんはどう思います?

関連情報:TOPICS
  2009.06.01 患者さんの利便性のために、行政が調剤薬局を誘致することは必要か?
  2009.04.27 地元に地元に薬剤師の首長が誕生。でも・・


2009年08月07日 21:39 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    日経DIの記事をブログで取り上げた方がいらっしゃいます。

    大型門前薬局は必要?(薬局で働く薬剤師の戯れ言 8月12日)
     http://pharmacie.blog77.fc2.com/blog-entry-159.html

    >患者さんの身近なところにいて、いつでも気軽に適切なアドバイスを
    >与えられるというのが、院外薬局の大きな役割のように思えます。

    この意見には同意します。ただ,現実には薬局の専門化による消費者による
    使い分けが進んでいて,個々の薬局が「くすりのことなら何でも相談でき,
    セルフメディケーションの助言(OTCの販売も含める)をする」への理解
    がすすむかどうかは,おおきな課題です。

    >地域に根差したクリニックの門前ならともかく、広域病院の門前薬局は薬局
    >業界に良い影響を与えるのか、少し疑問に思います。

    地域連携パスなど,地域での医療連携を考えると,広域病院の門前薬局の存在
    意義は,自宅周辺に薬局がない方,体の不自由な方などに限定されるのでは
    ないかと思います。

    そして,

    >行政が門前薬局を進めるようになっては、最終的には院外薬局は要りません
    >となってしまうように思えます。

    今回のいちばんの懸念はやはりこの点につきると思います。

    しかも,しっかり家賃として行政が上前をはねるというのは,道義的に考えても
    疑問に感じざるを得ません。