子宮頸がんの予防として各国で接種が勧奨されている子宮頸がん予防ワクチンですが,JAMA 誌の最新号に米国内で700万人以上が接種を受けたとされているガーダシル(Gardasil)の有害事象報告に関するレポートが掲載されています。
Postlicensure Safety Surveillance for Quadrivalent Human Papillomavirus Recombinant Vaccine
(JAMA. 2009;302(7):750-757.)
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/302/7/750
FULLTEXTは,現在フリーアクセスの下記論説からのリンクでみることができます。
The Risks and Benefits of HPV Vaccination
(JAMA. 2009;302(7):795-796.)
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/302/7/795
FDAウェブサイトにもこのレポートの概要が紹介されています。
Gardasil Vaccine Safety Information from FDA And CDC on the Safety of Gardasil Vaccine(FDA 2009.8.20)
http://www.fda.gov/BiologicsBloodVaccines/SafetyAvailability/VaccineSafety/ucm179549.htm
このレポートは,米国のワクチンに関する有害事象報告制度(VAERS:Vaccine Adverse Event Reporting System)を通じて2006年6月から2008年12月に寄せられた12,424件(100,000回あたり53.9件に相当)のデータを解析したものです。
この12,424件のうち93.8%が軽度の症状の訴えでしたが,6.2%に当たる772件は重篤なものでしした。これには32件の死亡例も含まれます。(内訳は,製薬会社(66%),患者/親(11%),医師(10%),州立健康クリニック(1%),その他(12%)で,下記に症状別発生頻度)
100,000回 あたりの 発生頻度 |
重篤な有害事象 |
---|---|
8.2 | 失神(syncope) |
7.5 | 局所症状(local site reactions) |
6.8 | めまい(dizziness) |
5.0 | 吐き気(nausea) |
4.1 | 頭痛(Headache) |
3.1 | 過敏性反応(hypersensitivity reactions) |
2.6 | じんましん(urticaria) |
0.2 | 静脈血栓塞栓症イベント(VTEs:venous thromboembolic events),自己免疫不全( autoimmune disorders),ギランバレー症候群(Guillain-Barre syndrome) |
0.1 | アナフィラキシー(anaphylaxis),死亡(death) |
0.04 | 横断性脊髄炎(transverse myelitis),膵炎(pancreatitis) |
研究者らは,他のワクチンと比べて有害事象の傾向は同じであり,ワクチン接種によるベネフィットが上回るとして,接種勧奨についての変更がないとしながらも,失神とVTEs(経口避妊薬使用者でリスクが高い)については留意が必要だとしています。
一方,これまでに580万回の接種が行われた豪州でも,TGAが有害事象報告のまとめを公表しています。
Human papillomavirus vaccine (GARDASIL)(豪州TGA)
http://www.tga.health.gov.au/alerts/medicines/gardasil.htm
TGAには2009年8月10日までに1394件の関連性の疑いがある有害事象が報告されており,症状としては局所症状・めまい・頭痛などが報告されています。
日本では現在,このガーダシル(万有)とCervarix(GSK)が承認に向け審査が続けられていますが,関係団体などからの強い働きかけもあり年内にもいずれかが承認されるのではないかとされています。
関連サイト:オレンジクローバーキャンペーン 子宮頸がんに私はならない!
http://www.orangeclover.org/
関連情報:TOPICS
2007.02.04 子宮頸がん予防ワクチン接種のコストとベネフィット
2009年08月22日 15:21 投稿
関連記事を見ていましたら,米国国立ワクチン情報センター(NVIC:National Vaccine Information Center)(http://www.nvic.org/)のウェブサイトに,関連記事が動画付きで掲載されています。
Preventing Gardasil Vaccine Injuries & Deaths
(NVIC Vaccine News 2009.07.14)
http://www.nvic.org/NVIC-Vaccine-News/July-2009/Preventing-Gardasil-Vaccine-Injuries-Deaths.aspx
深刻な事例は,実際には今回の数字よりも多いのかもしれません。
米国では,CDC(米国疾病対策センター)が11〜12歳の女子にガーダシルの接種を勧奨していますが,親の中には娘への接種に慎重な人も少なくないようです。
Should your daughter get Gardasil, the vaccine against HPV?
(CNN 2009.8.13 動画あり)
http://www.cnn.com/2009/HEALTH/08/13/hpv.vaccine.gardasil/
接種勧奨については現場の医師でも一部に疑問の意見を持つ人も少なくなく,2008年9月にテキサス州の医師(家庭医,小児科医,産婦人科医,内科医)に行われた調査(1112人から回答)では,11〜12歳の女子に接種を勧奨すると答えたのは48.5%にすぎなかったそうです。
Human Papillomavirus Vaccine Recommendations and Agreement with Mandated Human Papillomavirus Vaccination for 11-to-12-Year-Old Girls: a Statewide Survey of Texas Physicians
(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2009;18(8):2325–32)
http://cebp.aacrjournals.org/cgi/content/abstract/18/8/2325
CNN記事によれば,CDCの接種勧奨にも関わらず,2007年の接種率は13-17歳で25%程度,また記事でインタビューを受けた医師の所でも11-12歳で15%程度に留まるそうです。
将来子宮頸がんになるかならないかは重大の問題ですが,感染経路の多くは性交渉であることが知られています。11-12歳の女子が接種を勧奨されるのは,性活動が活発になる前にというのが理由のようですが,宗教上の理由や信条(結婚前は性交渉を行わない)で必ずしも必要でないケースもあると思います。また,コンドームの使用などで感染が防げるかもしれません。
こういったこともあり,年頃の子どもを持つ親たちの中には,たとえ他のワクチンと有害事象の発生頻度が同じ程度であっても,本当に今接種が必要なのか,本当に重篤な副作用に遭遇しないのかという不安を持ち,ネットなどで情報を収集することも少なくないようです。
日本でも認可がされたら,子宮頸がんの予防というベネフィットだけではなく,こういった情報の積極的な提供(もちろん私たちも把握しておくこと)が必要でしょう。