9月15日のTOPICSなど、本サイトでも度々紹介している、内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会ですが、日経DIなどをみると現場の薬剤師から「過渡期に混乱が生じる」「システム変更に費用がかかる」などの理由をあげ、記載方法は現行のまま1日量とし、1回量を併記すればよいとの意見が多いようです。今回このことについて、少しコメントをしてみたいと思います。
検討会の議論の中で、「国際基準は1日量ではなく、1回量なのでそれにあわせるべきだ」とされている(経緯については、第1回検討会議事録で話されています→議事録)とのことでしたので、まずWEB上で処方せん記載にあたってのガイドラインがあるのか探してみました。
すると、WHOが1994年に発行した “Guide to Good Prescribing – A Practical Manual” の Chapter 9. STEP 4: Write a prescription で書き方が示されおり、この章の冒頭では、“There is no global standard for prescriptions and every country has its own regulations” と記されていて、この時点ではまだ国際的な基準はなかったようです。。
Guide to Good Prescribing – A Practical Manual
http://apps.who.int/medicinedocs/en/d/Jwhozip23e/
http://apps.who.int/medicinedocs/pdf/whozip23e/whozip23e.pdf
Write a prescription
http://apps.who.int/medicinedocs/en/d/Jwhozip23e/5.4.html
また、この Write a prescription の章をみると、処方欄に書くべき内容としては、
- Name, address, telephone of prescriber
- Date
- Generic name of the drug, strength
- Dosage form, total amount
- Label: instructions, warnings
- Name, address, age of patient
- Signature or initials of prescriber
と記されて、1日量なのか1回量なのかは示されていません。
一方、WEB上に掲載されている処方せんの書き方に関する記事やスライド、ガイドラインなどをみると、Drug name, dose(Number of dosage units per dose:1回の服用数)、 dosage form(点鼻などの剤型)、amount (投与総量=投与日数・投与回数)となっており、検討会での指摘のように、記載事項は「品名+1回量+用法+投与日数等」でよいようです。
また一部のガイドラインには、Directions for use(といっても、内服・坐薬などの投与経路のみ)、リフィルに関する事項の他(可能回数など)、for pain, for asthma, for headache などの処方の目的も明示すべきとする場合もあるようです。(日本でも、これをやれば服薬指導でトラブルはありませんね)
How to Write A Prescription (Slides in PDF)
http://www.db.uth.tmc.edu/faculty/vlewis/medphar/04-Blue_Parts_of_RXd.pdf
PRESCRIPTION WRITING GUIDELINES
http://www.ms-information.org/formulary/pdf/Formulary2006005PrescriptionWriting.pdf
Writing format
http://www2.kumc.edu/instruction/prescriptStuff/format.htm
注目したいのは、用法に関してで、服用頻度(1日●回)または、服用間隔(▲時間おき)とするだけで、日本のように食後とか食前という記載は特別の場合を除き記載することはない点です。WEB上で処方せんサンプルの多くの画像を見ましたが、食後・食前などと書いてあるのは見あたりませんでした。(a.c.: before food、p.c.: after food などの略号で明示される場合もあるようです。All Wales Prescription Writing Standards → Goggle テキスト変換)
筑波大学附属病院医療情報部長の大原委員も第1回検討会で次のように発言しています。(→議事録)
そのときにもう1つあるのは、食前、食後という用法を通常使っているのは日本だけなのです。ですから、間違わないということを考えるのであれば、この際国際標準を視野に入れてやるべきではないかと、個人的には思います。
考えてみれば、通院患者さんは日常生活の中で薬を飲むわけですから、食事を1日2回しかとらなかったり、食事時間が不規則な人、夜勤の人などもいるわけです。そうした中で、食後・食間などを処方せん上ではっきり規定しても、結局はその人の生活パターンにして服用するよう指導するのではないでしょうか? 処方医の中にも、服用時間にこだわらない人も少なくないというのが実感です。(エパデールを寝る前でもいいと言われた患者さんがいましたがこれはまずいですね) また、臨時で薬が追加されたとき(カマ服用患者にニューキノロンが処方)、同じ服用時点であっても、服用時間をずらす必要もあります。(場合によっては疑義照会が必要)
第2回検討会で、日歯の江里口委員が次の様な発言をしているのが印象的です。(→議事録)
機械に薬をあげているみたいな議論になっていると思います。 機関車に朝昼晩注油するのに、きちんとやればこの機械は10年保ちますよという感じなのですが、実際に我々が臨床現場では、特に臨床研修医がいちばん困るのは、「私は朝ご飯を食べないんだよね」と。我々がよく出すのは抗菌剤が多いのですが、血中濃度を保ちたいたに、本来から言うと8時間ごとにきちんと飲んでほしいのですが、先ほど齊藤委員がおっしゃったように、人間の機能から言うとなかなか難しい。1日量だけを出すと、患者さんはうまく分散してくれるという期待みたいなものがあるのですが、1回量だけを書くと、朝抜いたら、この薬は余ったらどうするのかという疑問も出るので、先ほどの屯服を最高どのぐらい出すかということと同じように、この薬に関しては1日3回必ず時間をあけて内服という表示規定みたいなものも、1回量の場合は何かいまとは逆のことで書かなければならない部分があるから、なかなか1回量、1日量というのは人間のサイクルから言うと難しいのだなと。私も研究班ではそれはあまり考えなかったのですが、今日の議論を聞いていると非常に難しくなってきてしまったなと思います。
よく、「用法がはっきり示されていない、部位がない、などの記載が不備な処方せんを受け付けたときは疑義照会が必要」との指導を受けますが、海外で留学している医師などは、海外の処方せんの書き方を見ているわけですから、おそらく感覚としては「薬品名+1回量+1日の服用回数+投与日数等」だけを書けばいいのだろうと思っているのかもしれません。また、海外から看護師さんが入ってくるという現状にも考慮する必要もあります。
つまり、私が言いたいのは、国際基準にそろえるのであれば、1回量にすることは当然であるとして、少なくとも院外処方せんについては、用法についても医師が特に指示する場合を除き、1日●回か、1日▲時間おきのの記載でもよいということも考えてもよいのではないかということです。(入院患者は、食事の時間が決まっているだから、服用時間を指定するシステムをつくればよい)
例えば、プリンペランは保険上は食前指示だから、食後指示の処方がでたら問い合わせしなければならないですが、この記載方法であれば、薬局で患者さんにあわせた対応で十分です。(疑義照会もしなくてもよいとするルールも必要)
また、眠剤や鎮痛剤など必ずしも定期的に服用しない薬についても、米国などのように“1日●回まで”という形で統一し、現在の頓服という概念も再検討する必要があるかもしれません。
ただ、こうすると調剤報酬上の“剤の概念”や“処方日数の概念”がなくなりますから、おそらく日薬などはいやがるでしょう。それならば、処方せんの記載方法の変更に合わせて、調剤(処方)総数を基準とした調剤報酬の算定方法をつくればよいと思います。そうすれば、調剤報酬の算定方法に悩んだり、方法の解釈によって薬の値段(自己負担)が異なるということもなくなります。
今回、現場の薬剤師が少なからず反対の意見があるのは、現状でさえも、必ずしも有意義とはいえない疑義照会ばかりが求められているところに、さらに1回量処方となっていないことへの疑義照会、調剤報酬算定に関わる不安があるのではないかと思います。
第2回の検討会で、江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授の隈本委員が『疑義照会は本来「この患者さんにこの薬が必要なのですか」とか、「薬の飲み合わせがありますけど」という高度な質問をするためのもの』と指摘するように、本来行われるべき疑義照会に専念できるようなルールに統一してくれることを望むものです。
医療安全上、食後・食前・食直後などの服用時点の明記は必要との意見もあるかもしれませんが、私は、国際基準にあわせて、 「薬品名+1回量+1日の服用回数(または服用間隔、服用限度回数)+投与日数等」のみを必須事項(外用も投与方法のみで可、部位や使用回数は必要に応じて記載)とすればよいのではないかと考えます。そして、処方医に対しこれだけを徹底するようにすれば、大きな混乱が起こらないと思います。
これにより、薬剤師にとっても、本来行われるべき疑義照会に集中でき、そして何よりも患者さんに合った服薬指導が可能となると思います。こんなことを言ったら、「保険薬剤師として失格」と言われてしまいそうですが、みなさんいかがでしょうか?(近く行われる、パブリックコメントに出す予定です)
関連ブログ:
[日経DI]患者がわかる処方せん様式?
(薬局のオモテとウラ2009年9月16日)
http://blog.kumagaip.jp/article/32168271.html
第2回内服薬処方せんの記載の在り方に関する検討会
(薬局のオモテとウラ2009年6月23日 コメント多数)
http://blog.kumagaip.jp/article/30023480.html
関連情報:TOPICS
2009.09.15 第4回内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会
2009.07.30 第3回内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会
2009.06.22 第2回内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会
2009.06.02 第1回内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会
9月24日 17:10更新
2009年09月23日 22:55 投稿
薬剤師としての力量が問われるように思っています。
薬物治療の目的を理解し 患者さんの益を最大限に判断し思考する薬剤師を目指していけるチャンスが到来したと感じているのは 私だけでしょうか?
忙しいからと逃げていたのでは なかなか社会的な評価の向上を目指せませんし、また、一度作ったルールは絶対なものではなく 運用する人々が 弱者保護のために変更するべきものだと思います。
だからこそ「世界的」にシンプルで判りやすい基本が必要です。
患者さんも理解しやすい処方せん表記は 治療に参加する気概を持っていただけるきっかけにもなると考えています。
いつも勉強させていただいてます。
本当にそうですね。くだらない疑義照会をはぶくためにも食後や食前は省略して欲しいです。
朝食後・眠前の用法を朝夕食後(その他書き出したらきりがない)にしてそんなに悪いことなのか?って思います。
以前厚生省の指導を受けたとき、適応外は副作用被害者救済制度の対象にならないと聞きました。
確かに役所的なご意見ですが、患者さんをそこまで縛る必要があるのでしょうか?
ジェネリックのおかげで、ますますわけのわからん適応症が増えるし。
小児適応しかないDSとか細粒とかを高齢者に出すのがそんなに悪いことでしょうか?医療は「予防」じゃないと昔は言ってましたが、今回適応拡大で「予防」の文字が入ったし。
横道へ行き過ぎてすみません。
しかし、処方せんの記載の問題にしても、厚労省が重箱の隅をつつくようなことばかりに目を向けて、現場の声を無視して規則を作るから、どんどん混乱させていると思います。
「1回量」どうでもいいと思ってましたが、色々勉強する中で、必要なところもあるのだと思うようになりました。
どうしても変えないといけないなら、やはり3回までの出ていた、横に線を引いて併記が一番無難だと思います。
基準を「1回量」は無理です。
お二方、コメントありがとうございます。
仲間の病院薬剤師の方とこの件について先日話しをしましたが、リスクマネジメントの観点から導入は当然といった印象でした。おそらく来年4月から段階的に導入されるのではないかと言っていました。
病院については、病院薬剤師の方がおそらくきちんと処方医に対して、1回量処方を徹底すると思いますが、問題は開業医の先生に対して、だれがどのように徹底させるかだと思います。
この問題についての日医のコメントは現時点では目にしませんが、医師会レベルで組織的に処方の書き方を徹底させないと、ぼんたさんが指摘されるように、混乱は必至でしょうね。