薬剤の選択・使用ができる「特定看護師」創設へ

 18日、チーム医療の推進に関する検討会の第10回会合が行われ、これまでの議論やヒアリングを踏まえた「チーム医療の推進に関する基本的な考え方」や特定看護師(仮称)を含めた、看護師の役割の拡大についての素案が示されています。

第10回チーム医療の推進に関する検討会(2010年2月18日)
  資料:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/s0218-9.html
 議事録:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/txt/s0218-18.txt

論点(1) チーム医療の推進に関する基本的な考え方について(素案)(→資料1

  • チーム医療とは、「医療に従事する多種多様なスタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と一般的に理解されている。
  • 質が高く、安心・安全な医療を求める患者・家族の声が高まる一方で、医療の高度化・複雑化に伴う業務の増大により医療現場の疲弊が指摘されるなど、医療の在り方が根本的に問われる今日、「チーム医療」は、我が国の医療の在り方を変え得るキーワードとして注目を集めている。
  • また、各医療スタッフの知識・技術の高度化への取組や、ガイドライン・プロトコール等を活用した治療の標準化の浸透などが、チーム医療を進める上での基盤となり、様々な医療現場でチーム医療の実践が始まっている。
  • 患者を中心としたより質の高い医療を実現するためには、1人1人の医療スタッフの専門性を高め、その専門性に委ねつつも、これをチーム医療を通して再統合していく、といった発想の転換が必要である。
  • チーム医療がもたらす具体的な効果としては、(1)疾病の早期発見・回復促進・重症化予防など医療・生活の質の向上、(2)医療の効率性の向上による医療従事者の負担の軽減、(3)医療の標準化・組織化を通じた医療安全の向上、等が期待される。
  • 今後、チーム医療を推進するためには、(1)各医療スタッフの専門性の向上、(2)各医療スタッフの役割の拡大、(3)医療スタッフ間の連携・補完の推進、といった方向を基本として、関係者がそれぞれの立場で様々な取組を進めていく必要がある。
  • なお、チーム医療を進めた結果、一部の医療スタッフに負担が集中したり、安全性が損なわれたりすることのないよう注意が必要である。また、我が国の医療の在り方を変えていくためには、医療現場におけるチーム医療の推進のほか、医療機関間の役割分担・連携の推進、必要な医療スタッフの確保、総合医を含む専門医制度の確立、さらには医療と介護の連携等といった方向での努力をあわせて重ねていくことが不可欠である。

 このうち看護師については医師不足の解消や医療の質の向上を目的に、患者の状態に応じた薬剤の選択や使用が使用などを含む、従来より幅広く高度な医療行為ができる新資格「特定看護師(仮称)」を導入するとした素案がまとめられています。

論点(2) 「看護師の役割の拡大について(素案)」(→資料2

 素案では、現行法の医師の「包括的指示」の下、標準的プロトコール(具体的な処置・検査・薬剤の使用等及びその判断に関する規準を整理した文書)や、クリティカルパス(処置・検査・薬剤の使用等を含めた詳細な診療計画)等の文書で示されているものについては、専門的な知識や判断力、技術を有した看護師であれば、「診療の補助」としての医行為を可能にすべきだとしています。

 そして、こういった医行為ができる看護師を、特定看護師(仮称)として認め、動脈血の採血や超音波検査、人工呼吸器の酸素量の調節、薬の変更、簡単な傷の縫合などが可能となるようです。

 薬関連では、次のような記載があります。

患者の状態に応じた薬剤の選択・使用

  • 疼痛、発熱、脱水、便通異常、不眠等への対症療法
  • 副作用出現時や症状改善時の薬剤変更・中止

→これにより、在宅療養中の患者に対して、必要に応じ検査を実施しながら全身状態を把握した上で必要な薬剤を使用することにより、摂食不良、便通異常、脱水等に対応することが可能となり、在宅療養の維持に資することとなる。

 また、術後管理が必要な患者に対して、患者の状態に合わせて必要な時期に必要な薬剤(種類、量)を使用することが可能となり、状態悪化の防止、術後の早期回復等、患者のQOLの向上につながることとなる。

 一方、薬剤師については、「各医療スタッフ等の役割の拡大について」の項目で、薬剤師の活用例が示されています。

論点(3) 各医療スタッフ等の役割の拡大について(素案)(→資料3

(1)薬剤師

  • 医療技術の進展とともに薬物療法が高度化しており、チーム医療において、薬剤の専門家である薬剤師が主体的に薬物療法に参加することが、医療安全の確保の観点から非常に有益である。
  • また、近年は後発医薬品の種類が増加するなど、薬剤の幅広い知識が必要とされているが、病棟において薬剤師が十分に活用されておらず、医師や看護師が注射剤の調製(ミキシング)、副作用のチェックその他薬剤の管理業務を担っている場面も少なくない。
  • さらに、在宅医療を始めとする地域医療においても、薬剤師が十分に活用されておらず、看護師等が居宅患者の薬剤管理を担っている場面も少なくない。
  • 一方で、日本医療薬学会が認定する「がん専門薬剤師」、日本病院薬剤師会が認定する「専門薬剤師」「認定薬剤師」等、高度な知識・技能を有する薬剤師が増加している。
  • こうした状況を踏まえ、現行制度の下、薬剤師が実施できるにもかかわらず、薬剤師が十分に活用されていない業務を改めて明確化し、薬剤師の活用を促すべきである。
    【業務例】
    ・ 医師・薬剤師等で事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、医師・看護師と協働して薬剤の種類、投不量、投不方法、投不期間の変更や検査のオーダを実施
    ・ 薬剤選択、投不量、投不方法、投不期間等について積極的な処方の提案
    ・ 薬物療法を受けている患者(在宅患者を含む。)に対する薬学的管理(患者の副作用の状況の把握、服薬指導等)
    ・ 薬物の血中濃度や副作用のモニタリング等に基づき、副作用の発現状況や有効性の確認を行うとともに、薬剤の変更等を医師に提案
    ・ 薬物療法の経過等を確認した上で、前回処方と同一内容の処方を医師に提案
    ・ 外来化学療法を受けている患者に対するインフォームドコンセントへの参画及び薬学的管理
    ・ 入院患者の持参薬の確認・管理(服薬計画の医師への提案等)
    ・ 定期的に副作用の発現の確認等を行うため、処方内容を分割して調剤
    ・ 抗がん剤等の適切な無菌調製
  • 今後は、平成24年度から新制度(薬学教育6年制)下で教育を受けた薬剤師が輩出されることを念頭に、医療現場(医師・薬剤師・患者等)における薬剤師の評価を確立する必要がある。その上で、将来的には、医療現場におけるニーズも踏まえながら、例えば
    ・ 薬剤師の責任下における剤形の選択や薬剤の一包化等の実施
    ・ 繰り返し使用可能な処方せん(いわゆるリフィル処方せん)の導入
    ・ 薬物療法への主体的な参加(薬物の血中濃度測定のための採血、検査オーダ等の実施)
    ・ 一定の条件の下、処方せんに記載された指示内容を変更した調剤、投薬及び服薬指導等の実施
  • 等、さらなる役割の拡大について、検討することが望まれる。

 そして、医療スタッフ間の連携のあり方については、論点(4)で具体例が示されています。

論点(4) 医療スタッフ間の連携の推進について(素案)(→資料4

 検討会を取材したCBニュースによれば、この素案は大筋で了承されたとのことで、来年度からまず、モデル事業を実施(専門の大学院を設置している大分県立看護科学大?)するようです。

 やはり、今回の検討会は「看護師の役割の拡大」の話がメインとなってしまいましたが、この背景には看護師がさまざまな現場で他職種と連携を取りながら、医療チームの中で職能を発揮し続けてきたという実績があるからです。

 薬剤師は蚊帳の外と思ってしまいそうですが、「さらなる役割の拡大について、検討が望まれる」と記されているように、今回の検討会では他職種の方に、薬剤師職能の可能性について一定の理解が得られたものと思われます。

 医療の現場ではやはり看護師がメインとなるでしょうが、地域における「疾病の早期発見・回復促進・重症化予防」は、地域の薬剤師にも活躍の場があるはずです。青森県の「まちかどセルフチェック」(TOPICS 2009.02.17)や、連携パス(TOPICS 2009.07.15)の取り組みが広がるといいと思うのですが。

 現在、日薬では薬剤師の将来像を検討していますが、是非国内外の取り組みこういった事例を集めて、実際にどこまで可能かまでも含めて検討してもらいたいですね。(事例集を作ってアピールを!)

 そして、今度は「薬剤師の役割の拡大について」が話し合われる検討会が立ち上げられることを待ち望みます。

関連情報:
 2010.01.22 チーム医療における薬剤師の役割
 2009.02.17 特定高齢者施策で地域薬局が果たす役割
 2008.09.08 薬剤師は、多職種との協働を模索すべきである
 2009.07.15 薬局の役割が明記された糖尿病地域連携パス(石川県)
 2009.03.18 「地域連携パス」における地域薬局の役割
 2009.01.07 専門薬剤師 vs 専門看護師

参考:
CBニュース2月18日(一定期間を過ぎるとログイン必要)
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/26421.html
医療行為できる看護師資格新設へ 厚労省が素案
 (朝日新聞2月18日)
http://www.asahi.com/national/update/0218/TKY201002170511.html

3月18日 リンク追加


2010年02月18日 22:32 投稿

コメントが5つあります

  1. アポネット 小嶋

    18日、日本看護協会が、保健師による健診項目範囲内の血液検査の指示と実施が可能になることを求める意見書を提出しています。(リンクすみません)

    【日本版ナースプラクティショナー(仮称)創設と法制化を要望】
    ─「チーム医療の推進に関する検討会」に意見書を提出─
     http://www.nurse.or.jp/home/opinion/newsrelease/2010pdf/20100218.pdf

    要望書では「保健師の役割拡大」と題し、

    チーム医療では、予防を担う保健師の役割も重要です。保健
    指導を行う際、対象者の動機づけや指導の評価として血液デ
    ータを活用することが有用です。しかし、現行で血液検査を
    実施するには医師の指示が必要で、スムーズな検査ができな
    い状況にあります。

    保健指導の一環として、保健師による健診項目範囲内の血液
    検査の指示と実施が可能になるよう求めます。

    と記されています。

    主張は当然のことと思いますが、予防という視点を考えれば、健康相談や医者にかかるかどうかを尋ねられることが少なくない、薬局でも同様のことが行えてもいいのではないでしょうか。

    このことに限りませんが、日薬は改めて、日本看護協会のように何らかの「要望書」のようなものを出すことは考えていないのでしょうか。

    関連情報:TOPICS 2008.12.1 ケアプロ

    関連記事:医療介護CBニュース 2月19日
      http://www.cabrain.net/news/article/newsId/26430.html

  2. いつも拝見しています。

    静脈血の採血は本格的な議論が必要でしょうが、微量採血・検査の実施については解禁を主張すべきだと考えます。
    現行法でもワンコイン健診で最近話題の「ケアプロ」のような解釈が出来るわけですから、医師会への配慮を優先するか国民の利益を優先するかだけの違いです。

    医師会の顔色を窺い、後ろに隠れてばかりいることで国民の不利益を産んでいる事を薬剤師会は自覚すべきです。

  3. アポネット 小嶋

    6年制の薬剤師の職能が発揮されるためにも、私も主張すべきだと思いますね。

  4. アポネット 小嶋

    3月18日に議事録が掲載されました。(元記事でリンク)

    山本委員がいくつか発言を行っています。

    次回は明日19日に行われます。

  5. アポネット 小嶋

    3月19日に開催された第11回の検討会で、報告書(案)が示されています。

    第11回チーム医療の推進に関する検討会(2010年3月19日開催)
     http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/s0319-8.html

    チーム医療の推進について(案)
     http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/dl/s0319-8b.pdf

    薬剤師に関する事項は、第10回検討会で示された素案に沿っています。