薬剤師というと、患者さんの日常生活の変化や身体に関する訴えなどから、薬剤による影響を紐解く思考回路を持ちがちですが、栃木県がこのほど作成したこのマニュアルを見ると、薬による影響だけではなく、虐待の可能性も念頭に置くことを痛感させられます。
栃木県高齢者虐待対応マニュアル(栃木県2010年4月21日掲載)
http://www.pref.tochigi.lg.jp/welfare/koureisha/fukushi/1271757363316.html
栃木県では2006年3月に、虐待の未然防止に主眼を置いた「栃木県高齢者虐待防止マニュアル」を作成していますが、その後も高齢者への虐待の事例が後を絶たないこと、また虐待への対応も多様であることから、今回このマニュアルを作成したそうです。
このマニュアルは、高齢者虐待の早期発見、早期対応を推進するため、虐待が発生した場合の具体的な対応、留意点などで構成され、第2章第7項では「介護保険サービス事業者の役割」として、次のような記載があります
- 日常業務の中で、虐待のサインを見逃さぬよう、本人や家族の状況に注意深く観察し、虐待が疑われるケースを発見した場合、速やかにケアマネージャーに通報する
- 生命に危険があるような場合は、速やかに市町村や地域包括支援センターの窓口に通報する
- サービス提供を通して、高齢者や養護者の生活状況等を観察し、虐待の早期発見に努めること(訪問介護員の役割)
- サービス定休を通して、高齢者や養護者医療情報の確認や体調の変化、健康の観察を行い、虐待の早期発見に努める(訪問看護職員の役割)
- 入浴サービス等を通じて、あざや傷、やせの状態や皮膚の変化を観察する(通所介護の役割)
また、第3章では、高齢者虐待早期発見チェックシートがあり、虐待の疑いがある「サイン」例が紹介されています
- 説明のつかないテントや小さな傷が頻繁に見られる(身体的虐待の可能性)
- ちょっとしたことにおびえ、恐ろしがる(身体的虐待の可能性)
- 不規則な睡眠(悪夢、眠る事への恐怖、過度の睡眠など)の訴えがある(心理的な虐待の可能性)
つまり、薬の配達や薬剤管理指導、さらには傷薬や湿布薬の販売や服薬指導などを通じて、薬剤師が高齢者の虐待の第一発見者になることも十分考えられます。
日薬が最近作成した「生活(暮らし)と薬からみる体調チェック・フローチャート」に、介護状態が適正でない可能性についての事例は示されていますが、現場の私たちはこういった視点でのチェックと、虐待を発見した場合の行政との連携について理解を深める必要がありそうです。
ちなみに英国王立薬剤師会では、社会的に弱い立場にある成人に対するabuseという視点で、ガイダンスを作成し、薬剤師・テクニシャンにこの問題に留意することを求めています。
Guidance on the Protection of Vulnerable Adults
(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain 2007.8)
http://www.rpsgb.org/pdfs/vulnadultsprotectguid.pdf
高齢者の虐待について、 既に十分理解をされているとは思いますが、在宅業務に携わっている方は、是非一読をお勧めします。
なお栃木県では、関連で下記のようなマニュアルも作成しています。
高齢者見守りネットワークづくりの手引
(栃木県2010年4月20日掲載)
http://www.pref.tochigi.lg.jp/welfare/koureisha/fukushi/1271754136738.html
関連情報:TOPICS 2005.09.14 薬剤師は児童虐待の発見と関係機関との協力を(英国)
2010年04月22日 13:46 投稿