英国では、2005年に発表された”Choosing health through pharmacy〜A programme for pharmaceutical public health 2005-2015“）と題するレポートを基に、地域薬局では公衆衛生（public health）分野でのさまざまな取り組みが行われています（TOPICS 2007.03.14、2008.04.15）が、このほど、これらの取り組みについての認知度や地域薬局への期待度について住民に調査した結果が発表されています。
Views of the general public on the role of pharmacy in public health
（Journal of Pharmaceutical Health Services Research 1(1), 33-38）
http://www3.interscience.wiley.com/journal/123422944/abstract
この調査は、18歳～65歳のリバプール市の住民300名（医療専門職は除外）を対象に行われた面接調査で、保健省の期待と薬剤師会のさまざまな取り組みにもかかわらず、まだまだ公衆衛生分野での地域薬局の役割が地域住民にまだ理解されていないことがうかがえます。
調査結果によれば以下の様なことがわかったそうです。
- 公衆衛生に関するアドバイスを行う医療資源として最も重視するのは、GPが49％、薬剤師は23％、インターネット9.3％、医療専門職でない人の情報6.8％、NHSの電話相談6.0％、看護師3.7％ などだった
- 薬局の役割で重要だと感じていることは、「医薬品の使用方法についてのアドバイス」「医薬品の相互作用や副作用についてのアドバイス」「禁煙サポート」「緊急避妊薬の供給」など医薬品に関する事項が上位を占めた一方、健康増進に関する事項への期待はあまり高くなかった
- 一方で今後の地域薬局のサービスで期待するもの（potential Pharmacy services）としては、Smoking clinics（82.3％）、まだ一般的でないライフスタイルについてのアドバイス（Unsolicited advice on lifestyle、80.3％）、避妊（78.9％）、Weight-management clinics（77.6％）などが高く、これらの割合は日頃薬局を利用している人で高かった
また、地域薬局が公衆衛生に関するアドバイスを行う上で、障壁になっている点を聞いたところ
- アドバイスを行うだけの知識と十分な時間があるのか
- 薬剤師が忙しそうなのでかえって邪魔になるのでは
- 地域薬局がさまざまな業務を行うと（本来行うべき）業務への集中が失われるのではないか
- プライバシーが確保されたスペースがない
など、地域薬剤師はまず医薬品の供給者としての責任を果たすことを望んでいるようです。
今回の研究は、一地域の調査であり、また職業や学歴なども考慮されていないので、英国国民全体の意見ではありませんが、この調査でわかることは、現時点では公衆衛生分野での地域薬局の活動の認知はまだ十分広がっていないことがうかがえる一方、薬局を普段から利用する人たちからはこういった分野での活躍も期待されているということです。
ふりかえるに日本では、 こういった業務は行政からの期待やサポートも行われていないこともあり、一部の地域でのみの実施に留まっているのが現状ですが、広まっていかない最大の原因は調剤業務への偏重（特に、薬歴至上主義ともいえる現状に疑問を投げかける人も周りに少なくない）ではないかと考えます。
昨日届いた日経DI 5月号のコラム「Inside Outside」でも指摘（大いに同感）されていますが、特に近年、保険薬局業務のルールがあまりにも増え、かつ厳格に運用することが求めていること（薬局の経営上、遵守するしかありませんが）も、私にはこういった分野での薬剤師活動が広がっていかないことやOTC医薬品販売の軽視につながっているように思えてなりません。
日本でも社会薬学領域の研究者が、こういった視点での調査を行ってくれればと思っています。
関連情報：TOPICS
2007.03.14 薬局における健康教育のためのツール（英国）
2008.04.15 薬剤師はさらなる役割を担うべき（英国）
参考：Role of community pharmacy poorly understood by public
（PJ Online 2010.5.7）
http://www.pjonline.com/news/role_of_community_pharmacy_poorly_understood_by_public
2010年05月08日 12:15 投稿
