適正使用情報は現場に十分周知されているか(国内調査)

 私たちの所には、添付文書の改訂などの適正使用に関する情報がさまざまな形で送られてたり、また私たちも入手することがあります。こういった情報が、どのように現場の医師らに周知されているかなどを調べた調査結果がまとまり、報告書が厚労省ウェブサイトに19日掲載されています。

適正使用情報提供状況確認等事業(厚労省2010年5月19日掲載)
http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/100519.html

 この調査は、国内の医療機関から9000施設(病院4500、診療所4500)を抽出し3回に分けて行われたWEB調査(回収率14.6%)で、適正使用情報が製造販売業者から医療機関に対して適切に情報提供されているか、また提供された情報が医療機関においてどのように院内周知されたかなどの調査が行われています。

 調査報告によれば、添付文書改訂情報の入手方法として最も多かったのが、「製薬企業のMR」(75.5%)で、次いで「製薬企業のダイレクトメール」(53.4%)、「Drug Safety Update(DSU:医薬品安全対策情報)」(53.1%)と続いた他、製薬企業や医薬品医療機器総合機構のホームページにアクセスするなど積極的に情報収集している医療機関も見られたそうです。

 また、これらの添付文書改訂情報の院内への周知方法について尋ねたところ、「情報を印刷して配布」(38.6%)が最も多く、「薬事委員会等で説明」(23.2%)などが続いた一方、「周知していない」と答えた施設も11.7%であったそうです。

 これを運営形態別の周知方法をみたところ、診療所では「医師等へ口頭で指示」「情報を印刷して回覧」の割合が高く、また「周知していない」と答えた割合も病院より高くなったそうです。

 一方、添付文書改訂等の適正使用情報を周知する上での弊害や、情報入手の際の問題点に関して自由回答で答えてもらったところ、「製薬企業によって情報伝達能力(MR教育)に差がある」、「情報の重要度・緊急性が不明」であるといった意見が多かった他、「情報量が多すぎる・改訂頻度が高すぎる」、「情報提供の頻度、提供時期、内容に統一性がない」、「情報を確実に入手できているか不明」といった意見も寄せられています。

 またこの調査とは別に、5施設(病院3、診療所2)に対し、医薬品安全管理責任者へのヒアリング調査も行われています。

適正使用情報提供状況確認等事業ヒアリング結果報告書
 http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/dl/100519h.pdf

 その中で示された意見としては、次のようなものがあります。(報告書より抜粋)

  • MRから薬理的な情報を得ることができるが、その情報には信用できないものがある。
  • 医療機関としては窓口の強化・充実を図り、情報を確実に入手・伝達するルートを確立していくべきだろう。診療科別に担当の薬剤師を配置するなどして責任の所在を明確にすべきである。
  • 診療所では医師が医薬品安全管理責任者を行うが、実際は難しい。地域の薬剤師会が医薬品安全管理を行う方式が良いのではないかと考えている。例えば国がブロック(北海道、東北、関東等)ごとに情報発信基地を整備し、これを地域の薬剤師会が受診し、関連する地域の医師へ伝達することができるのではないか。
  • 本来なら関係薬局の薬剤師とも連絡を取り合う必要がある。うまく連絡ができていない背景として、薬剤師の棲み分けがあるのではないかと考えている。具体的には、薬剤師は、病院薬剤師、調剤薬剤師、OTC等を扱う薬剤師に棲み分けがある。病院薬剤師会、日本薬剤師会など団体も異なり、交流が少ない。
  • 大きな副作用情報については書面にしてから公表するのではなく、電話やメールなどでより迅速に伝えてほしい(メーカーへの希望)。副作用が出た際のメーカー側の対応が遅れる場合があるが、こういったことから今でもメーカーが悪い情報を隠したがっているのではないかという印象を受ける。
  • 厚労省には情報の重要度がわかるような伝達手段を検討してもらいたい。緊急を要する情報は即時伝達し、比較的軽微な副作用についてはDSUのようにある程度まとまった形で伝達してはどうか。
  • 紙ベースの資料の利点はそのまますぐに回覧できる点である。

 報告書をざっと読んだ印象としては、情報を重要度ごとにわけて一元化してまとめて欲しい、診療所においては適正使用情報が十分周知されていないことがうかがわれます。薬剤師会など職能団体からの積極的な情報発信と共有の必要性が感じられました。

 ちなみに、英国では病院薬剤師のネットワーク組織が運営するサイトで、「国内外の規制機関の適正使用に関するUpdate情報」「薬物治療や薬剤師活動に関する論文」などの情報が発信されています。(私は毎日アクセスしています)

National electronic Library for Medicines
 http://www.nelm.nhs.uk/en/

 日本でも、将来的にはこういった取り組みも必要でしょう。


2010年05月19日 13:51 投稿

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