10日の各紙は、OTC鼻炎用薬に含まれるプソイドエフェドリン(PSE)を原料とした覚せい剤密造が摘発されたと一斉に報じています。本サイトでは以前より日本での密造の可能性に警鐘を鳴らしていましたが、ついに現実のものとなってしまいました。
鼻炎薬から覚せい剤密造 イラン人2人逮捕
(日テレNEWS24 6月10日)
http://news24.jp/articles/2010/06/10/07160792.html
覚せい剤取締法違反:自宅で密造、容疑のイラン人逮捕--警視庁
(毎日新聞 6月10日)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100610ddm041040152000c.html
屋根裏部屋で覚醒剤密造 イラン人2人逮捕 製造マニュアルも
(産経新聞 6月10日)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100610/crm1006101034005-n1.htm
原料の成分について、毎日新聞の記事ではエフェドリン(咳止め薬との報道もある)としていますが、時事通信や日本経済新聞の電子版では塩酸プソイドエフェドリンと記しており、鼻炎用薬との報道が多いので、後者の方であることは間違いないでしょう。
逮捕されたイラン人は、自宅の屋根裏部屋で鼻炎薬や他の化学薬品を調合するなどして、覚せい剤を密造、毎日新聞の記事によると、家宅捜索で数百箱の風邪薬(おそらく鼻炎用薬)が押収されたとのことです。
この市販薬が日本製のものかどうかが注目されるところですが、NHKの取材によればイラン製の鼻炎薬のほかに、日本で市販されている日本製の鼻炎薬も押収されていたと伝えているので、懸念がついに現実のものになってしまったようです。
海外では、PSEは厳しい管理の下で販売(TOPICS 2009.07.30、現在はさらに強化されている国や州も)されており、手の届く場所で簡単に買うことができる(指定第2類)のはおそらく日本だけです。
OTC薬メーカーや警察は配合剤からPSEは抽出できないだろうとたかをくくっていたのでしょうが、韓国では3年前に同様の事案が摘発されており、海外から対策を行っていなかったのかという批判が出されても反論はできないでしょう。(海外では配合製品も規制の対象)
現時点では、日本のOTC鼻炎薬が覚せい剤密造の原料と確定されているわけではありませんが、もし密造の広がりや密輸出などが判明されるようであれば、OTCメーカーや警察の責任も免れないでしょう。場合によっては、国際的に大きな問題となりかねないでしょう。
関連情報:TOPICS
2009.07.30 プソイドエフェドリンのさらなる販売規制は行わず(英国)
2007.06.06 市販鼻炎薬の販売は1回につき3日分までに制限(韓国)(旧サイト)
2007.03.08 英国、プソイドエフェドリンの販売規制を検討
2005.12.12 プソイドエフェドリン配合剤、全米で販売規制へ
2005.11.03 カナダ州政府がプソイドエフェドエリンの販売を規制
13:10 更新 13:35 最初の投稿記事に戻して追記 14:10追記
2010年06月10日 12:44 投稿
押収された市販薬が、日本製のものかどうか確認とれていないうちに記事をアップしたのに気付き、いったん13:10に更新させて頂きました。
その後、NHKが「(押収品として)この中にイラン製の鼻炎薬のほかに日本で市販されている日本製の鼻炎薬も含まれていたことが、警視庁への取材でわかりました。」と報じていたので、最初にアップした記事に戻させて頂きました。
日本製の市販鼻炎薬も押収(NHKニュース6月10日12時4分掲載)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20100610/t10015021001000.html
日テレNEWS24が記事を更新しています。米国の様子を紹介しています。
鼻炎薬から覚せい剤密造 イラン人2人逮捕
(日テレNEWS24 6月10日13時54分)
http://news24.jp/articles/2010/06/10/07160800.html
WEB上には市販の鼻炎薬などを使った覚せい剤の密造方法があり(つまりPSEによる密造の可能性は警察は把握しているということ)、警察庁では悪質な書き込みについては取り締まることも検討するとのことですが、PSE配合の鼻炎薬の販売規制も行わないとだめだと思うのですが。
朝日新聞が続報です
覚せい剤原料、医療関係者から調達か 密造に使用の一部
(朝日新聞 6月10日)
http://www.asahi.com/national/update/0610/TKY201006100226.html
記事によれば、密造に使われた薬品の一部は、男らが国内の医療関係者から譲り受けていたとしています。
こうなると気になるのがPSEは薬局製剤の原料としても使われている点です。
この医療関係者が薬剤師ということがなければいいのですが。
また、国内で暴力団が密造工場をつくる動きもあると伝えています。
覚せい剤密造、暴力団も触手 密輸のコストとリスク避け
(朝日新聞 6月10日)
http://www.asahi.com/national/update/0610/TKY201006100302.html
共同通信が続報です。
外国製と国産の風邪薬押収 イラン人覚せい剤密造事件
(47NEWS 6月10日)
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010061001000880.html
>覚せい剤原料のエフェドリンを含むイラン製と日本製の風邪薬を発見。
>メモの通りに製造すれば、風邪薬が日本製、イラン製のどちらでも覚
>い剤の製造が可能だったことが確認された。見つかった覚せい剤は純
>度が高かったという。
記事の通りだとすれば、日本でもいよいよ厳しい販売規制をする必要があるかもしれません。
上記記事よりさらに踏み込んだ表現です
覚せい剤密造、国内調達で製造可能
(TBS Newsi 6月11日)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4450260.html
>警視庁科学捜査研究所が10日、押収されたペルシャ語で書かれたマニュアル
>通りに実験した結果、日本国内で調達出来る鼻炎薬や薬品だけで純度の高い
>覚せい剤が製造できたことが新たに分かりました。
また、外国製・日本製の風邪薬などを100箱以上購入したとのことです。
イラン人覚せい剤密造事件 逮捕の2人、密造のために風邪薬など100箱以上を購入
(FNNニュース 6月11日)
http://www.fnn-news.com/news/newsvideo/newsvideo00.html
これで、日本製のOTC鼻炎薬が覚せい剤密造の原料として使用されたことは確定的ですね。
産経新聞に特集記事が掲載されています。
【衝撃事件の核心】隣の家は「覚醒剤工場」だった! 鼻炎薬から精製したイラン人の驚愕手口
(産経新聞6月19日)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100619/crm1006191201012-n1.htm
記事によれば、関係者は「末端価格の上昇により、『これなら採算が取れる』と判断したのではないか」「取りあえず作ってみて、品質が高いものを量産できるかどうかなどを試していた可能性がある」などと話し、現時点では大量製造が目的ではないとの見方をしているようです。
その一方で、「ネット上では至るところで覚醒剤の作り方が公開されており、素人でも手を出せるほどの詳細な説明が書かれた書籍も市販されている。製造や使用をあおったりそそのかしたりしない限り、製造方法を示すのみでは犯罪にはならないという法の抜け穴も指摘されている。」と指摘し、興味半分で製造される可能性も示唆しています。
米国ではどうかというと、ちょうど Drug Topics に関連記事が出ていました。
Methamphetamine: Prescription-only or e-tracking systems?
(Drug Topics 2010.06.15)
記事によれば、米国ではオレゴン州に続き今年2月にはミシシッピ州でも処方せん医薬品への分類変更が行なわれている他、アラバマ、アーカンソー、イリノイ、アイオワ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、オクラハマ、ミズーリ、ワシントンの10州で、オンラインによる購入追跡システムが導入され、大量のプソイドエフェドリン製品が買えないようなシステムが構築されています。
一方、カリフォルニア州では毎年1億4000万ドルをかけて上記のシステムを導入するか、それとも処方せん医薬品にするかで議論となっているそうです。
しかし、鼻炎薬を買うためにいちいち医者に行くのか(もちろんお金もかかる)という意見もあり、単に処方せん医薬品にすれば解決するという話ではないようです。
この問題について、OTCメーカーの人に尋ねたところ、やはり店舗向けに何らかの注意喚起が検討されているそうです。
もしかすると、大量に納入しているところのチェックに乗り出しているかもしれませんね。
関連記事:プソイドエフェドリンと覚せい剤密造
(赤城高原ホスピタルHP 2010.6.10 Update)
http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/DRamph_and_PSE.htm
22日、メタノールや硫酸、水酸化ナトリウムなどを無償で渡した疑いで獣医師が逮捕されたそうです。
薬品提供容疑で獣医師逮捕 イラン人覚せい剤密造事件
(47NEWS 6月22日 共同通信配信)
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010062201000443.html