ロイター通信のみが配信しているドイツの記事で、紹介しようかどうか考えたのですが、考えさせれることが少なくないので記事にしました。誤り等がございましたらご指摘下さい。
German drugs gatekeeper rejects GSK’s Avandia pill
Watchdog says no payments for glitazone, glinide drugs
(Reuter 2010.06.18)
http://www.reuters.com/article/idUSLDE65H0IJ20100618
上記を要約すると、影響力のある医薬品監視機関がグリタゾン系(チアゾリジン系・TZD)とグリニド系の糖尿病薬について、副作用の問題やエビデンスが十分でないとして、保険償還の対象からこれら薬剤の除外を勧告したというものです。
この医薬品監視機関というのは何かというと、下記のところを指すようです。
G-BA(Der Gemeinsamer Budesausschess 医療技術評価機構、連邦共同委員会)
(The German Health Care System and the Federal Joint Committee)
http://www.english.g-ba.de/
で、このサイトをさらにみると、ロイター記事に書いてあることがアップされていました。(ドイツ語です。Googleの翻訳機能などで訳して見て下さい)
G-BA schließt Glinide und Glitazone zur Diabetes-Therapie von der Verordnungsfähigkeit zu Lasten der GKV aus
(GBA 2010.6.18)
http://www.g-ba.de/informationen/aktuell/pressemitteilungen/342/
GBAが今回保険償還の除外を勧告したのは、Glitazone系(チアゾリジン系・TZD)は心不全と骨折リスクがあるためだというもので、米国で心臓血管病リスクが指摘されているAvandia(日本未発売)に加え、同系の薬剤であるアクトスも対象となっています。
アクトスはAvandiaより安全との意見が一般的ですが、GBAではTZDは全て同じとの判断を下しているようです。
一方、グリニド系の除外勧告の理由ですが、処方が始まって9年になるのに、有用性を示すエビデンスがないためだそうです。
で、このGBAがこういった判断を下した根拠は何かというと、医薬品や治療の経済的評価を行う研究所(IQWiG)が行なった科学に基づいた評価と推奨にあるようです。
IQWiGのウェブサイトに行くと、確かにこれら薬剤の評価書があります。(英文のsummaryあり)
IQWiG Project
Glitazones in the treatment of diabetes mellitus type 2
Glinides in the treatment of diabetes mellitus type 2
海外との医療制度の比較では、医薬品の価格や薬代の自己負担額(割合)ばかりが注目されますが、海外では市場導入が許可されたからといって、その医薬品が社会的な医療保険の対象となるわけではなく、医療費の適正化を進めるため、対象とするのがふさわしいかどうかの検討を行う国もあるようです。 (医薬品の消費を制限するとして、製薬企業から新薬開発の意欲を阻害するとの意見もありますが)
一方、日本では販売承認され保険薬薬価基準に収載されれば、公的支出の対象となり、よほどのことがなければ公的支出の対象外となることはありません。(世界の中では特殊?)
ドイツのIQWiGや英国のNICEのように、日本でも患者さんのベネフィットとリスクを考慮した評価を行う仕組みを作ることが、もしかすると医療費の適正化につながるかもしれませんね。
参考:
ドイツ政府が医薬品や治療の経済的評価を行う研究所(IQWiG)を設置
(薬害オンブズパースン会議 注目情報 2005.5.31)
http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=88
どの医薬品費に公的支出をするかを評価する英国NICE、ドイツIQWIGに対する攻撃と擁護
(薬害オンブズパースン会議 注目情報 2007.4.20)
http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=154
アクトスをアバンディアに勝るとして選択する根拠は存在しないー米国心臓病学会が見解
(薬害オンブズパースン会議 注目情報 2010.4.2)
http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=284
2010年06月22日 00:14 投稿
ちょうど産経新聞が英国NICEの取り組みをシリーズ記事として掲載しています。(全5回)
(残念ながらリンク先は記事が削除されています)
【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(1)(産経新聞6月4日)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100604/erp1006040749002-n1.htm
【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(2)(産経新聞6月11日)
http://sankei.jp.msn.com/life/body/100611/bdy1006110804003-n1.htm
【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(3)(産経新聞6月18日)
http://sankei.jp.msn.com/life/body/100618/bdy1006180813002-n1.htm
【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(4)(産経新聞6月25日)
http://sankei.jp.msn.com/life/body/100625/bdy1006250831002-n1.htm
【英国のNICE】医療の費用対効果を考える(5)(産経新聞7月2日)
http://sankei.jp.msn.com/life/body/100702/bdy1007020814003-n1.htm
英国では、NICEに薬や検査の費用対効果を算出させ、公費に見合う効果がなければ税で賄わないとのことです。そして、その判断にあたっては、1人にかかる医療費や薬の値段ではなく、費用に見合う効果の有無が重要視されるそうです。
ですから、特に英国では価格が高い抗がん剤などの場合には、公費で賄うかどうかがしばしば議論の的となるようです。
一方、ドイツでも費用対効果を算出し、効果に見合う分は保険で賄い、超過分は自費(本記事のことですね)、フランスでは、有効性の程度、代替薬の有無、治療の必要度などによって、外来薬剤の自己負担を(1)無料(2)35%(3)65%(4)85%(5)全額に5分類しているそうです。
関連記事が薬害オンブズパースン会議の注目情報に掲載されています。
ドイツが糖尿病治療剤アクトスなどの保険償還中止を決定
(薬害オンブズパースン会議 注目情報 2011.2.4)
http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=318
2010.11.18に官報で告示?され、2011.4.1より発効するようです。
Arzneimittel-Richtlinie/ Anlage III (Glitazone zur Behandlung des Diabetes mellitus Typ 2)
http://www.g-ba.de/informationen/beschluesse/1141/#1141/
G-BA: Verordnungsausschlüsse und Verordnungseinschränkungen
http://www.kbv.de/ais/37833.html
ドイツの糖尿病協会は批判しているようですね。
Glinide und Glitazone zur Diabetes-Therapie werden nicht mehr von den Krankenkassen bezahlt.
http://www.diabetikerbund.de/ddbpresse/pressemitteilungen/100630.htm
2月8日のJAMA誌に、厳しい販売規制となったAvandia(Rosiglitazone)に代えて、アクトスの処方が強まる動きについて、リストとベネフィットを考慮し、TZD剤の代替処方ではなく、メトフォルミンなどの異なるタイプでの治療を考慮すべきとした記事が掲載されています。
Switching From Rosiglitazone
Thinking Outside the Class
(Published online first February 8, 2011 今のところフリーアクセス)
http://jama.ama-assn.org/content/early/2011/02/01/jama.2011.193.full
JAMA誌: アクトスを安易に使うな!
(内科開業医のお勉強日記 2011年2月9日)
http://intmed.exblog.jp/12079921/
筆者は、Avandiaもアクトスも、メトフォルミンの安全性、耐性、コストの面でマッチしないとしています。