厚労省は26日、6年制に伴う薬剤師国家試験の出題基準(案)をまとめ、この案についてのパブリックコメントを8月25日まで開始すると発表しました。
薬剤師国家試験出題基準(案)に関する意見募集について
(公示日、意見・情報受付開始日 2010年07月26日 意見・情報受付締切日 2010年08月25日)
今回の試験出題基準は、医道審議会薬剤師分科会及び同分科会の下に設置された薬剤師国家試験制度改善検討部会の議論を経て、2009年12月にまとめられた「新薬剤師国家試験について」に基づきまとめられたもので、6年制教育の基礎となった「薬学教育モデル・コアカリキュラム」及び「実務実習モデル・コアカリキュラム」の内容を基本とし、医学・薬学の進歩と現状を踏まえて策定したものだそうです。
出題領域は、薬剤師法施行規則(2010年1月一部改正)の規定により、「物理・化学・生物」、「衛生」、「薬理」、「薬剤」、「病態・薬物治療」、「法規・制度・倫理」、「実務」の7領域に整理され、各領域毎に出題項目が別表としてまとめれられています。
注目はやはり私たちが学んだ頃には、まだ重視されていなかった、「法規・制度・倫理」「実務」の領域の項目で、「法規・制度・倫理」における「薬学と社会」の項目、「実務」における「薬剤師業務の基礎・チーム医療」「薬局業務・地域における業務」などが注目されます
- 薬害~サリドマイド、スモン、血液製剤、ソリブジンなどの原因と社会的背景、薬害を防止するための手段
- 薬局業務運営ガイドライン(今、機能しているのかなあ?)
- チーム医療~医療チームの構成、構成員、連携と責任体制、診療科横断的に行われるチーム医療(ICT、NST、褥瘡対策チーム、緩和ケアチームなど)における薬剤師の役割、診療科ごとに行われるチーム医療(内科、外科、小児科、泌尿器科、耳鼻科など)における薬剤師の役割、地域におけるチーム医療、チーム医療での薬剤師の責任範囲、医療従事者との連携の重要性
- 地域医療~休日、夜間診療と薬剤師の役割、緊急災害時における薬局・薬剤師の役割、学校薬剤師の職務とその役割、
医薬品の適正使用の啓発活動における薬剤師の役割、麻薬・覚せい剤等薬物乱用防止運動、ドーピング防止における薬剤師の役割、一般用医薬品・医療機器・健康食品、日用品に係る薬剤師の役割、日用品に含まれる化学物質、誤飲、誤食による中毒・食中毒に対するアドバイス、生活環境における消毒の概念、話題性のある薬物・健康問題
6年制の学生さんはこれだけのことを学ぶ必要があるということになりますが、裏を返せば、これだけの業務を現場で進めていくということに他なりません。
関連サイト:
薬剤師分科会薬剤師国家試験出題基準改定部会(厚労省関係審議会議事録等)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/idou.html#yaku-kokka2
(少し上のほうにスクロールすると関連部会の資料・議事録も出てきます)
第3回 薬剤師国家試験出題基準改定部会資料(2010年7月20日開催)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000fjlt.html
2010年07月26日 09:28 投稿
8月25日でパブコメは終了していますが、基準案に対し、日薬は意見を提出しています。
薬剤師国家試験出題基準(案)に関する意見募集への本会提出意見について
(日本薬剤師会定例記者会見8月26日)
http://www.nichiyaku.or.jp/contents/kaiken/pdf/100826_1.pdf
要望書は、「法規・制度・倫理」における「薬学と社会」の項目に「一般用医薬品の供給」を加えて欲しいというものですが、基準案をよく見ると、「一般用医薬品の供給」に関する事項は「実務」における「薬局業務」の「薬局対面業務 カウンターで学ぶ」で具体的に含まれいるので、「薬学と社会」の項目に含むことにこだわらなくてもよいような気もします。
しかし、最終的な案になる前の見え消しがわかる基準案(下記資料後半部)を見ると、「地域住民のセルフメディケーションのために薬剤師が果たす役割」「主な一般用医薬品(OTC薬)、使用目的」「漢方薬、生活改善薬、サプリメント、保健機能食品」といった項が、「法規・制度・倫理」から「地域薬局の役割」という総論を残して、最終案でそっくり実務の方に移動しているんですね。
資料2 薬剤師国家試験出題基準(案)(PDF:710KB)
(第3回薬剤師国家試験出題基準改定部会 2010年7月20日開催)
日薬が、この出題基準案について意見を提出した理由について、大学教員も兼ねている地域薬局の人の話から解釈すると、どうも次のような理由があるようです。
●実務の項目にあると、実務的な内容が全て現場まかせになってしまう。
(現実は、これらについて現場で十分教えられるとは限らない)
●実務の項目にあると、大学の授業として一般用医薬品について詳しく教えることが求められなくなるので、授業や教員の充実に力を入れなくなる可能性がある
(つまり、大学における一般用医薬品教育の軽視)
私も、一般用医薬品の必要な部分を、なぜ実務に移行してしまったのかというのは疑問に感じます。
日本OTC医薬品協会も、今回の出題基準改正に対し、OTC医薬品及びセルフメディケーションに関し、実務での取り上げは当然としつつ、学内での教育をおろそかにする事が無いよう、従前通り「法規・制度・倫理」においても取り上げるよう、求める意見を提出しています。
これまでも、多くの薬科大学では一般用医薬品や、セルフメディケーションについて、教育の中で位置づけが無く、薬局の現場で薬剤師が一般の店員(門前の小僧として経験のある)より劣る存在と化している原因の一つとなっていました。
今回の改正案では、これがさらに加速される恐れがあります。