薬局における熱中症に関する留意点

 猛暑の今年、私の薬局でも熱中症の患者さんが来局しています。熱中症についての適切な指導が行えるよう、WEB上の資料などを参考に、薬局における留意点を整理してみました。 

 主に下記の資料を参考にしています。

「日常生活における熱中症予防指針」Ver1
(日本生気象学会熱中症予防研究委員会2008.4)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/assoc-jpnbiomet/pdf/nettyushouVer1.pdf

熱中症環境保健マニュアル2009.6改定版(環境省)
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html

職場における熱中症予防対策マニュアル(厚労省2009.6)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/0906-1.html

上記資料で気になったのは、薬の使用で熱中症のリスクが高くなるケースです。

注意すべき薬効群 主な薬剤   理由
  ゾニサミド(エクセグラン・トレリーフ)トピラマート(トピナ)   発汗減少があらわれることがある。本剤投与中は体温の上昇に留意し、このような場合には高温環境下をできるだけ避けること。なお、あらかじめ水分を補給することにより症状が緩和される可能性がある。(添付文書より)
自律神経に影響のある薬 パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、眠剤等 発汗及び体温調節が阻害されるおそれがある
抗精神病薬   体温調節中枢を抑制する可能性がある。
抗コリン作用のある薬   発汗抑制を来す可能性がある。
利尿剤   脱水を来しやすい。また、利尿剤を必要とする病態(心不全・腎不全)は水分や塩分の補給が取りにくいことにも留意が必要。
興奮剤・覚せい剤   代謝を亢進させる。

 また、次のような人から相談を受けたときも留意が必要です。

糖尿病の人 血糖上昇時には、血液が濃縮された状態で身体のバランスを摂るために大量の水分が必要となる。また、のどが渇き水分を多く欲しがり、尿量が多くなることがある。このため、十分な水分補給がないまま、知らないうちに脱水状態になる可能性がある
慢性腎不全の人 水分や塩分の尿中排泄量のコントロールが不適切になることがある。
皮膚疾患の人 広範囲に皮膚疾患があると発汗がうまくいかず体温調節に支障を来すことがある。 
風邪気味の人 鼻がつまって就寝中に口で呼吸するために、外気に接する粘膜面積が増えて不感蒸泄量が増えることがある。また、発熱があると就寝中に汗を余計にかくことで、不感蒸泄量が増えることがある。
前日に飲酒が多い人 アルコールにはその分解に水分を使うことに加え、利尿作用がある。前日に飲酒量が多かったときは翌日の起床時には、普段よりも脱水状態になっていることがある。
(暑いからと言ってビールなどのアルコーの多飲はよくない)
朝食抜きの人 朝食はしっかり摂ることで、水分と共に塩分の摂取が可能。熱中症となる危険性がある作業に従事する場合は、必ず朝食をとることが重要。
寝不足の人 寝不足で脳が疲労したままだと、暑熱にさらされた身体の体温コントロールが難しくなって熱中症にかかりやすくなる可能性がある。
子ども 体温調節が未発達であり、適切な水分・塩分の補給に注意を払う必要がある
高齢者 加齢に伴い、発汗能や体温調節機能が低下する。また、体内の水分の割合や感覚機能が低下してのどの渇きを感じにくくなる。本人がのどの渇きを訴えなくても、定期的に水分摂取してもらうことが必要。
肥満の人 より体温が上昇しやすい傾向にあるため、熱中症を発症しやすい

 熱中症発現時の、具体的な対応法はリンク先をご覧下さい。

関連サイト:
環境省熱中症情報
 http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/index.html
熱中症に関する情報・資料(京都電子化学工業)
 http://www.kyoto-kem.com/ja/heat/index.html
熱中症を予防しよう!(大塚製薬)
 http://www.otsuka.co.jp/health/heatdisorder/
OS-1(大塚施薬)
 http://www.os-1.jp/
熱中症を防ごう(日本体育協会)
 http://www.japan-sports.or.jp/medicine/guidebook1.html


2010年07月31日 14:32 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    PubMedをチェックしていたら、フランスの研究グループが2003年8月に欧州を襲った熱波での事例を解析しています。

    高齢で抗精神病薬の使用者は、熱中症には要注意のようです。

    Psychotropic drugs use and risk of heat-related hospitalisation
    (Eur Psychiatry.2007 Sep;22(6):335-8.Epub 2007 May 21.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17513091

    上記論文は、高熱(hyperthermia)や熱射病(heat stroke)で緊急治療室に運び込まれて死亡した56例(平均年齢83歳)を解析したもので、抗コリン薬の使用者で6.0倍、抗精神病薬4.6倍、抗不安薬で2.4倍とそれぞれリスクが高まったそうです。

    Risk of death related to psychotropic drug use in older people during the European 2003 heatwave:a population-based case-control study
    (Am J Geriatr Psychiatry.2009 Dec;17(12):1059-67.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20104062

    上記論文は、精神神経系薬剤(psychotropic drugs)を使用していて死亡した70-100歳の高齢者のデータ(2003年8月に死亡した9531例と2003年8月以前に死亡した2093例を比較)を解析したもので、精神神経系薬剤で死亡リスクが1.25倍高まったそうです。内訳は、抗うつ薬使用者で1.71倍、抗精神病薬使用者で2.09倍だったのに対し、抗不安薬/睡眠薬の使用者では逆に0.85倍と少なくなったそうです。

    一方、メルクマニュアルには、“DRUGS THAT IMPAIR RESPOSE HEAT”として、βブロッカー、オピオイドなども例示しています。

    THE MERCK MANUAL OF GERIATRICS, Ch. 67, Hyperthermia and Hypothermia, Table 67-1
    http://www.merck.com/mkgr/mmg/tables/67t1.jsp

    こういった薬剤の服用者も留意が必要のようです。

    日本でも熱中症による死亡者と薬剤の使用との関連についてチェックをしたほうがいいかもしれませんね。(論文があるのかな?)

  2. アポネット 小嶋

    熱中症の関連ではこんな話もあります。こういったケースはどうなのでしょう?

    ・心不全で、水分量を制限されている人
    制限なんか守っていられない。水分をこまめにとっている。

    ・公共交通機関に勤めている人
    乗り物によっては冷房が効いているとは限らない。乗務中でも水分補給が必要だと思うのですが、乗客の目があるので、乗務中のちょっとした水分摂取は難しい。

    熱中症の予防の啓発は進んでいますが、病気のある人、熱中症になりやすい環境となりやすい現場で働いている人への産業医の指導や助言はどの程度行われているのでしょうか?

  3. アポネット 小嶋

    関連情報です

    熱中症になりやすい薬?—発汗抑える作用に注意
    (静岡県薬剤師会HP 薬剤師からのメッセージ 2009.7.30)
    http://www.shizuyaku.or.jp/yakuzai/message/090730.html

    監察医から見た熱中症の実態
    (第16回東京都監察医務院公開講座 2008.10.18)
    (東京都福祉保健局 PPTファイル5MB)
    http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/kouza/files/16-kikuchi.ppt

    上記スライドには、熱中症と粉わらしい疾患などが示されているほか、2003年8月の欧州熱波の様子なども紹介されています。

    また、対策として、「食塩水0.2%+果汁ジュース」も有効のようです。