米FDAは16日、起立性低血圧(orthostatic hypotension)の治療薬と して承認しているミドドリン塩酸塩(本邦名:メトリジン他)について、エビデンス証明のための市販後臨床研究が行われていないとして、承認の取り消しを検討していることを明らかにしています。
FDA Proposes Withdrawal of Low Blood Pressure Drug
(FDA NEWS RELEASE 2010.8.16)
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm222580.htm
米国ではミドドリンは、重篤または生命にかかわる疾病を病気を治療する法律の下、ProAmatineというブランド名で1996年に迅速承認が行われた薬剤ですが、今回承認の取り消しが検討されているのは、承認の条件として付された市販後の臨床試験によるエビデンスの証明がなされなったためです。
FDAは今後、メーカーなどからの意見を聴いたうえで、承認の取り消し(メーカーの承認の取り下げ)を行う見込みです。
2009年のGAOのレポートによれば、米国では迅速承認を認める法律の下で承認されている製品は、1992年から2008年11月までに159品目に達し、うち90品目については市販後の臨床研究によるエビデンスの証明が求められています。しかし、市販後の臨床研究は実施が遅れているケースもあるようです。(GAOレポートはこれを批判)
New Drug Approval: FDA Needs to Enhance Its Oversight of Drugs Approved on the Basis of Surrogate Endpoints
(GAO-09-866 September 23, 2009)
http://www.gao.gov/products/GAO-09-866
迅速承認が行われた製品について、今回のようにFDAが(直接)承認取り消しの勧告を行ったのは初めてで、今後もミドドリンのように市販後の臨床研究でエビデンスが認められなかった場合には、同様のケースが出てくるようです。
日本ではミドドリンはメトリジン錠として1989年5月に薬価収載され、1998年3月に再審査も行われています(現在日本における承認の効能・効果は、本態性低血圧と起立性低血圧)が、今後米国で承認の取り消しが行われた場合、日本での取り扱いはどうなるのでしょうか?
関連情報:TOPICS 2010.07.20 アバスチンの乳がんへの承認取り消しを勧告(FDA諮問委)
参考:
FDA May Pull Hypotension Drug
(Medpage TODAY 2010.8.16)
http://www.medpagetoday.com/ProductAlert/Prescriptions/21699
FDA Oversight of Postmarketing Studies Slammed
(MedPage TODAY 2009.10.28)
http://www.medpagetoday.com/PublicHealthPolicy/HealthPolicy/16670
2010年08月17日 12:19 投稿
ProAmatineを販売しているShire社は17日、9月30日で自主的に販売を中止すると発表しています。FDAにデータは提出するなどの反論はせずに市場からの撤退の道を選んだようです。
Statement re ProAmatine(Shire Press Release 2010.8.17)
http://www.shire.com/shireplc/en/media/shirenews?id=400
ジェネリックメーカーもおそらく追従するでしょう。
ロイターが日本語の記事を配信しています。
英シャイアが低血圧薬を販売中止へ、試験未完了との指摘受け
(2010年8月18日 ロイター日本版)
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-16828020100818
記事では、「9月30日付で市場から回収」となっています。“Withdraw”をどう訳すか、いつも悩むところです。
医薬品安全性情報で、日本語訳と共に、米国における迅速承認の制度の解説が掲載されています。
医薬品安全性情報Vol.8 No.19
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly8/19100916.pdf
なお、承認取り消しの検討はその後、事実上撤回されています。
TOPICS 2010.09.08 ミドドリンの販売は当面継続(米国)