長寿のためのコレステロールガイドラインに日医などが反対声明

 今年の9月、各紙が「総コレステロール値は高い方が長生き」などと取上げ話題になった、日本脂質栄養学会がまとめた「長寿のためのコレステロール ガイドライン」に対し、日本医師会・日本医学会・日本動脈硬化学会は20日、合同で記者会見を開き、「科学的な根拠がない」とする日本動脈硬化学会の声明を発表しています。

「日本脂質栄養学会のガイドラインに異議」―原中会長
(日医白クマ通信No.1341 2010年10月21日)
http://www.med.or.jp/shirokuma/no1341.html

 このガイドラインは、書籍として現在販売されていますが、日本脂質栄養学会ウェブサイトに脂質栄養学に掲載された要旨がアップされています。

<話題>長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版(要旨)
日本脂質栄養学会 コレステロール ガイドライン策定委員会
(J. Lipid Nutr.19: 225-232,2010)
http://jsln.umin.jp/guideline/guideline-abstractPDF.pdf
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/guideline/guideline-abstractPDF.pdf

 上記要旨によれば、循環器系学会ガイドラインにはいくつかの解釈に誤りがあり、その内容は大部分の人にとってむしろ危険なものとなっているとして、GLでは次のような点を指摘しています。

  • コレステロール摂取量を増やしても血清コレステロール(TC)値は上がらない
  • コレステロールの基準値を決める上で最も重要なエンドポイントは総死亡率である。40~50 歳以上、あるいはより高齢の一般集団では、TC値の高い群で癌死亡率や総死亡率が低い。これらの集団には、コレステロール低下医療やコレステロール低下をめざした食品を勧めない
  • 女性に対するコレステロール合成阻害薬、スタチン類の使用は不要とされてきたが、男性に対しても医師の合理的な判断による特別なケースを除き、動脈硬化性疾患予防にスタチン類は不適切であり、勧めない
  • 中性脂肪値が150mg/dL 以上でも脂質異常症とはいえない。一般集団では、中性脂肪値の高い群のほうが総死亡率は低いという結果も報告された

 今回の反対声明は、日本脂質栄養学会がまとめたこのGLに対し、日本動脈硬化学会が発表した声明を踏まえて行われ、日医の原中会長が「高コレステロール血症の人に、治療をしない方が長生きすると思われると大変危険だと感じた」と述べた他、日本医学会会長の高久氏は「脳梗塞や心筋梗塞と、LDL-C(値)が高いことが直接関係することは世界的に広く認められている。それに反するようなことを学会として発表するのは残念だし、誤っている」とGLの内容だけではなく、一学会がGLとして発表した今回の事態そのものを批判しています。

「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010年版」に対する声明
(日本動脈硬化学会 2010年10月14日)
http://jas.umin.ac.jp/2010_seimeibun.html

 今後、議論がヒートアップしそうですが、どちらの言い分が正しいか、海外の状況を調べてみたくなりましたね。

関連情報:
「長寿のためのコレステロールガイドライン」(日本脂質栄養学会コレステロールガイドライン策定委員会)に対するご意見募集!
(日本脂質栄養学会 2010年9月7日)
http://jsln.umin.jp/guideline/guideline-comments.html
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/guideline/guideline-comments.html

「長寿のためのコレステロールガイドライン」へのご意見に対する回答
http://jsln.umin.jp/guideline/answer-page1.html

参考:
脂質栄養学会のガイドライン「容認できない」―日医など
(CBニュース 2010年10月20日 動画あり)
http://www.cabrain.net/news/article/nesId/30340.html
科学的根拠なし、『コレステロール高い方が長生き』ガイドラインに反対声明
(m3.com 医療維新 2010年10月20日 要会員登録)
http://www.m3.com/iryoIshin/article/127193/

10月22日、2012年1月13日リンク追加


2010年10月21日 00:54 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    見落としていたのですが、臨床研究適正評価教育機構(http://j-clear.jp/)が9月30日、この論争について中立的な立場で見解を示しています。

    コレステロール論争に対する当機構としての見解
    ―個々の危険因子や性差を考慮した基準づくりが必要―
    http://j-clear.jp/oshirase1.html

    同機構によれば、「脂質異常症の基準を一律にLDLコレステロール値140mg/dL以上とすることは、被験者をラベリングすることで不要な治療を促す要因となりかねないことから好ましくなく、性差を考慮し、,なおかつ治療必要性あるいは管理基準と整合性のある診断基準が必要と考える。」とする一方、日本脂質栄養学会の見解に対しては、「主に一般住民での一部の調査結果を根拠にしており、慢性肝疾患などの消耗性疾患や虚弱体質といった住民の除外補正が十分行われていないために、コレステロール値の低い例が死亡するという統計成績になった可能性がある。」と指摘し、「この結果から、一概にコレステロール値が高い方が長寿であると結論づけることはきわめて危険である。」との見解を示しています。

    ちなみにこの機構の紹介ページを見ると、日本の医療界および製薬企業双方の健全なEBMの発展と実践を願い、臨床医への適正情報の提供と臨床研究に必要な統計解析の教育、指導を目的として設立されているそうです。

  2. アポネット 小嶋

    日本脂質栄養学会は11月9日、理事長名で日本動脈硬化学会の声明への反論を行っています。

    日本動脈硬化学会「長寿のためコレステロール ガイドランガイドラン2010年」に対する声明(2010年10月14日)に答える(日本脂質栄養学会は11月9日)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/guideline/Hanron20101108c.pdf

  3. アポネット 小嶋

    日本脂質栄養学会のコレステロールガイドライン策定委員会は、9月30日に公開された臨床研究適正評価教育機構J-Clearからの「コレステロール論争に対する当機構としての見解」に対する回答と動脈硬化学会への公開質問書を相次いで発表しています。

    「臨床研究適正評価教育機構 コレステロール論争に対する当機構としての見解」
    (日本脂質栄養学会 コレステロールガイドライン策定委員会 2010年12月7日)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/guideline/To-JClear-answer101207c.pdf

    日本動脈硬化学会への公開質問書
    (日本脂質栄養学会 コレステロール指針策定委員会 2010年12月20日)
    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/guideline/101213Kokaisitumon.pdf