採用されている施設は既にご存じと思いますが、27日、ファイザー株式会社は、リリカカプセルが新たな効能・効果を取得したと発表しています。
「 リリカカプセル」新たな効能・効果を取得
(ファイザー株式会社プレスリリース10月27日)
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2010/2010_10_27.html
上記の通り正確に言うと、今回は効能効果の追加ではなく、効能効果が「帯状疱疹」から「末梢性神経障害性疼痛」への変更になっています。これは末梢性神経障害疼痛に帯状疱疹が含まれるためです。
この神経障害性疼痛というのは、神経の損傷あるいは、それに機能異常によって起こる痛みとされており、神経系の一次障害あるいは機能障害による末梢神経および中枢神経の異常な興奮、およびその興奮により惹起される脊髄後角の過敏化が重要な役割を果たしていると考えられているそうです。
で、このうちの「末梢神経性疼痛」にはどんなものがあるかというと、
- 帯状疱疹後神経痛
- 有痛性糖尿性神経障害(糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ)
- 三叉神経痛
- 坐骨神経痛
- 手根管症候群
- 頸椎症性神経根症
- 複合性局所疼痛症候群
- 化学療法による神経障害
- HIV感覚神経障害
- 腫瘍の浸潤による二次性神経障害
- 幻肢痛、乳房切除後疼痛
(メーカー資料、 「審査報告書」及び「審議結果報告書」を参考)
など、多岐にわたっており、糖尿病の患者さんはもちろんのこと、がんの患者さんも対象となる可能性があり、処方対象が今までの40倍になったとの書き込みもありました。
すぐにとはならないでしょうが、おそらく今後処方を目にすることも多くなると思います。そこで改めて復習を兼ねて、9月15日に行われた第110回アポネットR研究会で学んだメモを示したい思います。
- 眠気、めまい、視覚異常、体重増などの症状を訴える場合がある(国内第3相試験で、因果関係を伴わない有害事象として浮動性めまいが31.1%、傾眠が28.6%、末梢性浮腫12.5%、体重増加11.7%)
- 眠気やめまい、集中力の低下は比較的強い場合(特に投与初期に多い)があり、服用後の車の運転や危険作業は避ける必要がある(注意ではなく禁止にして欲しいとのこと)
- よって投与開始は75mgカプセルを夕または寝る前から開始することが望ましく、添付文書上では「1日150mgを分2(朝夕または朝寝る前)投与」となっているが、開始後しばらくは夕(寝る前)のみでの処方も行われる可能性がある
- 添付文書上では、「1週間以上かけて1日用量を300mgまで増量する」となっているが、効果が十分であれば、増量する必要はない(逆に、眠気などの副作用により投与開始後75㎎/日に減量される場合もある)
- リリカは経口バイオアベイラビリティが高く(83.9~93.7%)、血漿蛋白にはほとんど結合しないため、薬物相互作用の可能性は低いが、オキシコドン・ロラゼパム・エタノールなどとの薬力学的相互作用(認知機能の低下)の可能性はある
- また、体内ではほとんど代謝されず、未変化体のまま腎臓から排出されることから、腎機能障害がある患者には用法・用量の調整が必要である
- 体重増の原因は不明。国内外の臨床試験によれば4~12週の時点での変化が大きいが、投与継続により体重が大きく増加する可能性は高くない
- 海外の試験結果によれば、体重増はBMIや性別、年齢との関連はなく、血圧及び血糖値などの臨床検査値への影響はないとしている
- 浮腫は末梢性の浮腫が多いが、国内の長期投与試験(1年間)では因果関係を否定できない末梢性浮腫の発現率は16.7%だった
- こういった体重増、浮腫の可能性が示唆されることから、重度のうっ血性心不全患者やチアゾリジン系薬剤(アクトス)を使用している患者さんへの使用は注意が必要
- 視覚異常は、複視、霧視の可能性が示唆されていて、症状は軽度であるが、国内長期投与試験では因果関係を否定できない眼関連の有害事象の発現率は15.1%だった
- 用法・用量では具体的な服用時点は明示されていないが、食後服用より食前服用のCmax値が高い(AUCには影響しない)という結果が得られていて、食事による吸収遅延が示されている
- 国内外の臨床試験では食後投与時と比較して空腹時投与時で浮動性のめまいの発現率が高い(閣内試験では空腹時投与で30.0%、食後投与で5.3%)という結果もあり、食後服用を指導した方がいいかもしれない
- 添付文書では、「本剤を投与する場合には、少なくとも1週間以上かけて減量すること」になっているが、これは急激な投与中止により、不眠・悪心・頭痛・下痢・不安・多汗などの離脱・反跳現象の可能性が示唆されているためである
- 海外では抗てんかん薬としても使われていることから自殺関連行為のリスクとの検討も行われたが、臨床試験では特に問題はなかった
- 同社では同効薬でカバベン(カバベンチン、適応外)が発売されているが、この領域での開発(適応症の追加)は今後行う予定はなく、リリカの臨床使用に重点を置く見通し
資料:
- 添付文書・インタビューフォーム(PMDA)
- 「審査報告書」及び「審議結果報告書」(7.16MB PMDA)
- 申請資料概要(PMDA)
- 「審査報告書」及び「審議結果報告書」(2.34MB PMDA)(適応症変更分)
- 申請資料概要(PMDA)(適応症変更後)
神経障害性疼痛(メルクマニュアル18版 日本語版)
http://merckmanual.jp/mmpej/sec16/ch209/ch209c.html
関連ブログ:
リリカの開始時と中止時の気になる記述について
(旭川の薬剤師道場(ブログ) 2010年6月28日)
http://chuopharm.dtiblog.com/blog-entry-485.html
11月20日 更新 2月1日リンク再設定
2010年11月01日 14:11 投稿
適応症変更分の「審査報告書」及び「審議結果報告書」がPMDAのウェブサイトに掲載されたので、リンクを張りました。
インタビューフォームも更新されていますが、臨床試験は「糖尿病性末梢神経障害」が主で、これ以外の末梢性神経障害にどういうものが含まれているかきちんとは記されていませんでしたね。
末梢性神経障害性疼痛の概念については、近く日本ペインクリニック学会から発行される「神経障害性疼痛に対する薬物治療ガイドライン」を踏まえて、今後、医療従事者・一般向けの疾病の概念・診断基準・治療方法等の情報が作成・提供されるようです。
ファイザー社より市販直後調査の中間報告がDMで届きました。
期間は2010.6.22~12.21で、この間に1631例2447件の副作用が収集されたそうです。
元記事にも示しましたが、浮動性めまいが766件(うち重篤なもの17件)、傾眠が315件(うち重篤なもの5件)と、日常生活に影響が及ぶものが多く報告されているとのことです。
同社では、「浮動性めまいが多く収集されており、本剤投与に際しては、浮動性めまいの発現に留意いただくと共に高齢の患者様には、めまいによる転倒に注意するよう服薬指導をお願いいたします」としています。
また、重篤な副作用としてはこれ以外に、心不全12件、意識消失8件、意識変容状態6件などが報告されているとのことです。
なお、市販直後調査は通常6か月間ですが、リリカは10月27日に末梢性神経障害性疼痛への効能・効果の変更が承認されたことに伴い、市販直後調査は4月26日まで延長されるそうです。