妊娠中の鎮痛剤使用と出生男児への影響

 妊娠期であっても、頭痛などの痛み緩和のため鎮痛剤の使用が必要な場合があると思いますが、OTC配合の一般的な成分であっても時期や使用量によっては、出生男児に停留睾丸(cryptorchidism、停留精巣)の発症リスクが高まる可能性があるとの論文がHuman Reproduction 誌のオンライン版に掲載されています。

Intrauterine exposure to mild analgesics is a risk factor for development of male reproductive disorders in human and rat
(Hum. Reprod. (2010) First published online: November 8, 2010)
http://humrep.oxfordjournals.org/content/early/2010/11/08/humrep.deq323.abstract
http://humrep.oxfordjournals.org/content/early/2010/11/08/humrep.deq323.full
(今のところオーオプンアクセスです)

 停留睾丸というのは、出生直前に陰嚢の中に降りてくるはずの睾丸が腹部にとどまったままになっている状態をいい、出生男児の約3%にみられる(メルクマニュアル家庭版より引用)ものです。停留睾丸は症状はないものの、腹腔内で睾丸がねじれる場合があり、成長後の精子の産生に障害が出たり、ヘルニアや睾丸のがんのリスクが高まることも指摘されています。

 研究者らは、近年この停留睾丸の事例が増加傾向にあることに着目し、胎児期に母親がアスピリンやイブプロフェン、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤の使用との関連かないかどうかを、デンマークとフィンランドの妊婦を対象としたprospective birth cohort studyと、仮説を実証するための動物実験を行っています。

 コホート研究ではフィンランドの妊婦では鎮痛剤との使用と停留睾丸の発症増大について有意な差は認められなかったものの、デンマークの妊婦を対象とした解析では、妊娠第13~28週の第二三半期だと、週1~2回程度の使用でも有意に発症の増大につながるとしています。(複数成分の使用だとさらに高まる)

 研究者らは、鎮痛剤がプロスタグランジンの生合成を阻害することにより、テストステロンの産生が抑制され、停留睾丸の発症が高まると指摘し、近年の男性不妊症は一部の環境ホルモンの原因だけではなく、こういった胎児期の母親の鎮痛剤の曝露も原因ではないかとの仮説を立てていますが、さらなる検証は必要のようです。

 やはり、妊娠中の鎮痛剤の使用はできるだけ控え、使う場合には最小限に留める必要があるようです。

参考:
Painkillers ‘risky in pregnancy’
(BBC NEWS 2010.11.8)
http://www.bbc.co.uk/news/health-11711243
Mild Painkillers During Pregnancy Linked To Reproductive Health Problems In Boys
(Medical News TODAY 2010.11.8)
http://www.medicalnewstoday.com/articles/207046.php


2010年11月09日 22:57 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    NHS Choices に解説記事が掲載されています。

    Pills, pregnancy and sons’ fertility
    (NHS Choices 2010.11.9)
    http://www.nhs.uk/news/2010/11November/Pages/pregnancy-painkillers-reproductive-abnormalities.aspx

    [NHS]くすりと妊娠と息子の繁殖力
    (食品安全情報Blog 2010.11.10)
    http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20101110#p8

  2. アポネット 小嶋

    AFP通信が日本語の記事を配信しています。

    妊娠中の鎮痛剤服用、男児の生殖障害リスク上昇か デンマーク研究
    (AFP BBNews 2010.11.12)
    http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2774859/6440431

    原著を見ながら参考にして下さい。