被災地の薬剤師会がなどの掲示板での書き込み、また同級の友人から支援で被災地に入った話を直接聞くと、被災地の現状の厳しさをひしひしと感じます。「薬剤師の役割は何か」と現場に行かずして、机上で伝えることがはたしてよいものかと思い、やはり本サイトの情報の更新を躊躇しがちです。
そこで、先日地元の避難所に足を運び、薬や健康についてお困りがないか、また常備されているOTC医薬品(一般用医薬品)の状況を確認しました。
被災地の避難所と異なり、環境は整っている他、既に保健師による健康チェックが行われたり、小児科医の健康相談が行われており、もっと早くいけばよかったと後悔しましたが、それでも5人の方から相談を受けました。
持病の薬がなくなり、避難所近くの医療機関にかかって処方を受けている人もいましたが、やはりまだギリギリまで薬を持たせていた方もいて、医療機関の紹介を行ったりしました。
また、常備されているOTC医薬品の状況ですが、おそらく行政からの若干の薬が追加はされていましたが、便秘薬や整腸剤、胃腸薬がなかったり、期限切れしているものもありました。また、薬を並べて「ご自由にお持ち下さい」と並べられているところもありました。
一方で避難されている人の中には、痔や便秘を訴える方もいて、結局ドラッグストアなどで購入するようアドバイスするしかありませんでした。
被災地での薬剤師活動も必要ですが、日常業務のためにどうしても被災地にいけない方は地元の避難所にOTC医薬品がきちんとそろっているか、くすりがらみの困りごとがないかどうかをせめて確認す必要があるかもしれません。
では、被災地ではOTC医薬品はどのようなものが配布されているかというと、岩手県薬剤師会などの情報を整理すると、支援物資として提供をうけた下記OTC医薬品をセットにして避難所等に配布しているようです。
総合感冒剤 | ベンザブロックS |
解熱鎮痛剤 | セデスファースト |
鎮咳剤 | アネトン咳止め顆粒 |
総合胃腸薬 | 新タナベ胃腸薬顆粒 |
整腸剤 | 新ラクトーンA |
便秘薬 | ウィズワン |
下痢止め | セイロガン糖衣A |
ビタミン剤 | アリナミンA |
抗アレルギー点眼薬 | バイシンアルメディモイスト |
抗菌点眼薬 | 眼涼 |
うがい薬 | コサジンガーグル |
きずぐすり | キシロA |
外皮用薬 | プレバリンαクリーム |
温感シップ | サロンシップ直貼り |
冷感シップ | 貼るアクテージ |
支援物資として提供された各OTC医薬品メーカーの好意に感謝しますが、気になる点もあります。それは、日本のOTC医薬品の特徴である配合剤が少なくないからです。
たとえば、総合感冒剤は便利かもしれませんが、ジヒドロコデイン塩酸塩により、便秘が悪化する可能性もあります。一方で配合成分が少なくあれば、医療用医薬品の代用としても使用が可能になるかもしれません。アセトアミノフェン単味のタイレノールやイブプロフェン単味製剤も本来であれば活用されるといいと思います。
また、薬剤師による積極的な情報提供が必要な薬も含まれています。アネトン咳止め顆粒はテオフィリンが配合されている第一類医薬品であり、相互作用などは問題がないのかと思います。また、抗ヒスタミン剤によって排尿困難になることも留意する必要があるかもしれません。
各自治体や薬剤師会のウェブサイトを見ると、備蓄が必要なOTC医薬品のリストが示されていますが、ブランドの有名品が主です。
今後、現場でのニーズも踏まえて、単味成分・配合成分が少ないもの、便秘薬などは大腸刺激性のものだけではなく、酸化マグネシウム製剤の追加、痔疾用薬(被災地では売り切れになっているところもあるとのこと)などの追加など、リストの見直しが必要かもしれません。また、チュアブルや液体の分包品など水なしで飲めるタイプなどの剤型にも留意する必要があります。
資料:
薬局・薬剤師の災害対策マニュアル
(日本薬剤師会)
http://www.nichiyaku.or.jp/contents/topics/pdf/saigai_manual_syusei.pdf
高齢者災害時医療ガイドライン」(試作版)
(日本老年医学会)
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/member/kaikai/koku_saigai-guideline.html
大規模災害時の医薬品等供給システム検討会報告書-阪神・淡路大震災の体験を踏まえて-
(厚労省 1996.1 PDF資料は兵庫県HP)
http://web.pref.hyogo.lg.jp/contents/000037693.pdf
米国では、2005年8月のハリケーンカトリーナで救援活動を行った薬剤師が医学雑誌に被災地での薬剤師の活動の在り方やOTC医薬品の活用についてを記した論文を発表しています。
The nontraditional role of pharmacists after hurricane Katrina: process description and lessons learned.
(Public Health Rep. 2009 Mar–Apr; 124(2): 217–223.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2646478/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2646478/pdf/phr124000217.pdf
避難所で有用とされるOTC医薬品として、アセトアミノフェンとイブプロフェン、デキストロメトルファン、ジフェンヒドラミンなどの単味製品をあげた他、クロトリマゾールなどの抗真菌外用薬やコンタクトレンズ関連製品や耳栓?なども必要だとしています。
また、軽度の病気についてはOTC医薬品を活用し、必要に応じて(トリアージを行い)医師に受診勧奨をする役割を担うことも求めています。
過去の震災関連のレポートや今回の現地リポートでも、軽度症状についてOTC医薬品を活用した薬剤師によるアドバイスが必要との記述が見られます。
現場にいった友人も、避難所で夜、咳で周りの人に迷惑がかからないよう、トローチを求める人がいたという話しを聞くと、調剤支援だけではなく、OTC医薬品の供給といった視点での活動も求められているのでしょう。
被災地が落ち着いたら、こういった視点での検討も必要のように思われます。
参考:大船渡ボランティアの活動状況(弘前市薬剤師会)
http://isoki.net/k2hirosakiyaku/saigaimov.html
Pharmacist readiness roles for emergency preparednes
(Am J Health Syst Pharm April 1, 2011 68:620-623;)
2011年04月07日 01:11 投稿