新世代ピル「ドロスピレノン」と静脈血栓塞栓症リスク

  この分野については、ちょっと弱いので紹介しきれない部分がありますが、第4世代のプロゲステロンとして日本でも昨年発売されたドロスピレノン配合の新世代ピル(Yasmin、Yaz)について、従来のプロゲステロンと比べ、静脈血栓塞栓症(VTE:venous thromboembolic)リスクが高いとする論文がBMJ 誌のオンライン版に掲載され話題になっています。

Risk of venous thromboembolism in users of oral contraceptives containing drospirenone or levonorgestrel: nested case-control study based on UK General Practice Research Database
BMJ Published 21 April 2011)
http://www.bmj.com/content/342/bmj.d2139.full

Risk of non-fatal venous thromboembolism in women using oral contraceptives containing drospirenone compared with women using oral contraceptives containing levonorgestrel: case-control study using United States claims data
BMJ Published 21 April 2011)
http://www.bmj.com/content/342/bmj.d2151.full

 上記一つ目の研究は、英国でVTEリスクのない15~44歳を対象に行われた Nested case-control study で、レボノルゲストレルが配合された経口避妊薬の使用者とドレスピレノンが配合された経口避妊薬の使用者でVTEの発症リスクを比較したもので、ドロスピレノン群で3倍(BMI調整で3.3倍)高いという結果が得られています。

 また、二つ目の研究は、米国で行われた15~44歳を対象に行われた  Nested case-control and cohort study で、英国の研究と同様にドロスピレノン群でVTEリスクが2.3倍という結果が得られています。

 日本でのドロスピレノン製剤は、月経困難症を効能効果とした、ドロスピレノン3mg、エチニルエストラジオール0.02mgが配合されたヤーズ配合錠(→PMDA添付文書にリンク) がありますが、海外では経口避妊薬やニキビにも使用されています。(→FDA‘Yaz’ラベル

 また、ドロスピレノン3mg、エチニルエストラジオール0.03mgが配合された(プラセボ7錠)経口避妊薬の‘Yasmin’(→FDAラベル)も海外では広く使われているようです。(個人輸入のサイトもあるんですね)

 米国では、ドロスピレノン配合剤のVTEリスクに関しては、昨年FDAが安全性情報を提供しています。

Yaz (drospirenone 3 mg/ethinyl estradiol 0.02 mg) tablets
(FDA Safety Infomarion 2010.4.15 Update)
http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/ucm211762.htm

 今回のドロスピレノンが従来のプロゲステロンに比べてVTEリスクが高いとする研究結果を受け、バイエル社は安全性の評価に変更はないとするコメントを出していますが、FDAの有害事象データベースによれば、関連性の疑いがある死亡例がYasminで150例、Yazで40例あり、米国では7000の訴訟があるという報道もあります。

 日本のヤーズ配合錠の添付文書(→PMDA添付文書にリンク)を見ると、禁忌欄でかなりの使用制限が示されていますが、ブログなどを見るとむくみや吐き気などの副作用が従来のものより少なく、期待する向きもあり、VTEリスクについては従来以上に留意する必要があるかもしれません。

資料:ヤーズ配合錠 →審査報告書申請資料概要(PMDA・承認審査情報にリンク)

関連ブログ:
新しく発売される超低用量ピル「ヤーズ」
(ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ ブログ 2010.10.16)
http://www.vivalita.com/03/post_86.html

関連情報:TOPICS
 2010.05.15 海外公的機関 医薬品安全性情報Vol.8 No.10

参考:
Clot Risk May Be Higher With Newer Birth Control Pills
(WebMD 2011.04.19)
http://www.webmd.com/sex/birth-control/news/
20110421/clot-risk-may-be-higher-with-newer-birth-control-pills

Yaz and Yasmin Deaths May Exceed 190 in United States Alone: Report
(AboutLawsuits.com. 2011.04.19)
http://www.aboutlawsuits.com/yaz-yasmin-deaths-in-united-states-17556/


2011年04月26日 14:22 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    BMJの論文を踏まえて英国医薬品庁(MHRA)が関連情報を発出しています。(第2世代よりVTEリスクが高いとの見解)

    Current key information on the combined oral contraceptive, Yasmin – May 2011
    (MHRA Safety warnings and messages for medicines 2011.05.27)

    一方で、米国医療薬剤師会のAm J Health Syst Pharm 誌では大半の利用できるデータを調べたところドロスピレノンを含む経口避妊薬は他の経口避妊薬と比較してVTEのリスクが増加するとした結論は支持しないとした論文を掲載しています。(BMJの論文は含まれてはいないと思いますが)

    Risk of venous thromboembolism with drospirenone-containing oral contraceptives.
    (Am J Health Syst Pharm. 2011 Jun 1;68(11):1003-10.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21593228

    また、2010年Ann Pharmacother 誌に掲載の論文でもVTEの増加は見られなかったとしています。

    Risk of venous thromboembolism with drospirenone in combined oral contraceptive products.
    (Ann Pharmacother. 2010 May;44(5):898-903. Epub 2010 Apr 6.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20371756

    どちらの意見を採用したらよいのでしょうか?

  2. アポネット 小嶋

    紹介が遅れましたが、米FDAでは9月26日に更新情報を発出しています。

    FDA Drug Safety Communication: Safety review update on the possible increased risk of blood clots with birth control pills containing drospirenone
    (FDA Drug Safety and Availability 2011.09.26)
    http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm273021.htm

    Questions and Answers – Safety review update on the possible increased risk of blood clots with birth control pills containing drospirenone
    (FDA Postmarket Drug Safety Information for Patients and Providers 2011.09.26)

    この問題を受け、FDAでは12月に安全性に関する諮問委員会の開催を決めています。

    December 8, 2011: Joint Meeting of the Reproductive Health Drugs Advisory Committee and the Drug Safety and Risk Management Advisory Committee Meeting Announcement

    一方、豪州TGAでは、Medicines Safety Updateで、処方にあたっては、起こりうるリスクを考慮することや、医療専門職は患者に静脈血栓塞栓症の徴候と症状について指導することを求めています。

    Oral contraceptives containing drospirenone (Yaz and Yasmin) and venous thromboembolism
    (Medicines Safety Update Vol2,No5,October 2011)
    http://www.tga.gov.au/hp/msu-2011-05.htm#oral

  3. アポネット 小嶋

    上記FDAの更新情報の日本語訳概要が海外公的機関 医薬品安全性情報に掲載されています。

    海外公的機関 医薬品安全性情報Vol.9 No.20
    http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly9/21111013.pdf