ワーファリンに代わる抗凝血薬として期待されている、承認されたばかりの直接トロンビン阻害剤のプラザキサカプセル(一般名:ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩→添付文書・インタビューフォーム)について、12日、安全性速報(ブルーレター)が発出されています。
血液凝固阻止剤「プラザキサカプセル」服用患者での重篤な出血に関する注意喚起について
(厚労省 医薬食品局安全対策課 2011.08.12)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001m1w3.html
プラザキサⓇカプセル75mg
プラザキサⓇカプセル110mg による重篤な出血について(安全性速報)
(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 2011.08.12)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001m1w3-att/2r9852000001m2fu.pdf
プラザキサカプセル75mg、110mg 適正使用のお願い
(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 2011.06)
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_2_1.pdf
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社によれば、2011年3月14日から2011年8月11日までの間に、重篤な出血性の副作用が81例報告され、うち専門家の評価により、本剤との因果関係が否定できないとされる死亡例が5例(70歳代1名、80歳以上4名。性別は、男性1名、女性4名)報告されているとのことです。
これを受け、厚労省では、患者の安全確保のため、
- 本剤の投与前及び投与中に腎機能検査を行うこと。
- 出血や貧血等の徴候を十分観察し、出血が見られた場合には適切な処置を行うこと。
- 患者に対し、出血等の徴候が現れた場合に直ちに医師に連絡するよう指導すること。
についての情報提供を行うよう指示したとのことです。(警告欄も新設に)
使用上の注意改訂情報(PMDA 2011.08.12)
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20110812.html
プラザキサカプセルは、血液凝固能のモニタリングやそれに伴う用量調節が不要で、ビタミンKを含有する食物の制限がない(納豆も食べられる)ことから、将来的にはワーファリンにとって代わるのではないかと期待されていますが、高齢者、腎機能障害を有する患者、P-糖蛋白阻害剤併用患者、消化管出血の既往を有する患者及び上部消化管の潰瘍の既往のある患者などへの慎重投与の徹底が行われていなかった可能性もありますね。
期待される薬剤であるだけに、関係学会が異例の適正使用も踏まえたステートメントを同日発出しています。
「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」
(日本循環器学会2011.08.12)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/statement.pdf
私はまだこの薬を実際に患者さんに調剤したことがないので、改めて承認審査書(→PMDA 申請資料概要は→リンク)を見て安全性情報を確認したところ、82-83ページに気になる記載がありました。
116026試験において、ワルファリン群より本薬群でで多くの胃腸障害や消化管出血が認められた・・(中略) 現時点では、消化管出血の既往のある患者においては本薬110mgを1日2回投与の減量のみならず、ワルファリンを選択することも念頭に入れておくべきである。出血の既往がなくても上部消化管の潰瘍の既往のある患者においては、本薬を選択するかワルファリンを選択するか慎重に検討する必要がある。胃炎症状のある患者では消化管出血のリスクが高い・・・
とPMDAが判断したと記載されており、PPIやH2ブロッカーの服用中の高齢者(結構いますよね)にはプラザキサカプセルは現時点では不向きのような薬剤とも読み取れます。
こういった高齢者に、プラザキサカプセルが初めて処方されたとき、医師がどこまでそのリスクを患者とその家族に説明しているのか、そして薬剤師はどこまでそのリスクを判断(医師への情報提供も含む)し、患者とその家族にどう説明するのか、くすりのリスクコミュニケーションとしてどのように対応したらよいかの事例となるかもしれません。
関連情報:TOPICS 2011.07.20 緊急安全性情報等の提供に関する指針が通知
関連ブログ:
待ち遠しい新薬:ダビガトラン(プラザキサ)
(日々の考えをまとめたい 2011.08.13 更新)
http://ploop.blog12.fc2.com/blog-entry-208.html
プラザキサによる副作用死亡事例を考える
(六号通り診療所所長のブログ 2011.06.22)
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2011-06-22
プラザキサ副作用
(薬剤師岡チンのこだわり 2011.07.07)
http://oka-chinn-yakuzaishi.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-6f36.html
プラザキサ という薬
(ムラがあるブログ 2011.07.15)
http://ganbaru-ph.at.webry.info/201107/article_2.html
8月15日リンク追加
2011年08月13日 00:27 投稿
日本循環器学会のステートメントに対するブログ記事です。
プラザキサ使用に関する日本循環器学会の緊急ステートメント
(リハ医独白 2011.08.13)
http://d.hatena.ne.jp/zundamoon07/20110813/1313237021
抗凝固薬を正しく怖がり、正しく使う:プラザキサの副作用に関する考察
(土橋内科医院 院長ブログ -心房細動な日々- 2011.08.14)
http://dobashin.exblog.jp/13278908/
まだ、ソースを探している段階ですが、ニュージーランドでも出血の副作用の事例が報告され、記事になっています。
Pharmac attacked for rushing drug
(stuff.co.nz 2011.09.11)
http://www.stuff.co.nz/national/health/5602413/Pharmac-attacked-for-rushing-drug
上記記事によれば、発売から2か月の間にワーファリンからの切り替え患者から50例の報告があり、うち高齢者2名が死亡したそうです。
ニュージーランドでは56000人のワーファリン使用患者のうち、数千人が切り替えを行っているとのことで、ニュージランド当局では今後も情報の収集に努めるようです。
ニュージーランド当局のMEDSAFEが国内報道を受けて、Q&Aを公表しています。
Pradaxa (dabigatran etexilate)Questions and Answers
(MEDSAFE Media Releases 2011.09.15)
http://www.medsafe.govt.nz/hot/media/2011/DabigatranQandA.asp
MEDSAFEでは9月15日までに、Pradaxa服用患者4例の死亡例があったとする一方、調査の結果、関連性はなかったとしています。
医薬品安全性情報Vol.9 No.21で、Prescriber Update 掲載の出血リスクに関する記事、薬物相互作用:P-糖蛋白質の役割についての記事、上記のQ&Aが取り上げられています。
医薬品安全性情報Vol.9 No.21
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly9/21111013.pdf
Dabigatran – is there a bleeding problem?
(Prescriber Update 2011;32(3):19-20)
http://www.medsafe.govt.nz/profs/puarticles/dabigatransept2011.htm
Medicines interactions: the role of P-glycoprotein
(Prescriber Update 2011;32(3):21-22)
http://www.medsafe.govt.nz/profs/PUArticles/P-glycoproteinSept2011.htm
(論文あれこれ2011年9月で一応紹介)