東日本大震災とくすり(日本社会薬学会シンポ)

 日本社会薬学会の第30年会に参加してきました。台風接近や業務にすぐに役立つシンポジウムが今回はなかったことから、参加者は想像していたほど多くはありませんでしたが、個人的には勉強になることが多かったので、何回かに分けて紹介したいと思います。

 メインの「東日本大震災とくすり」では、現場の薬剤師の取組の紹介やメーカーや卸などの対応などが紹介されていますが、ほとんどが一部報道やあちこちで紹介されているものがほとんどで、むしろWEBやざっしなどに掲載されているボランティアの方々がまとめていただいている報告書の方がより詳しいので、具体的な取り組みの内容についてはここでは紹介しませんので、そちらに譲りたいと思います。

日本社会薬学会が「東日本大震災とくすり」をテーマにシンポ
(日経DI 2011.09.09 要会員登録)(9.13追記)
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/trend/201109/521471.html

 以下はあくまで個人的な学習メモですが、当日のシンポ、ポスター発表、ネット上で示されている各支援チームの報告書なども含め、個人的に書き留めておきたい点(今後、事例などを整理して報告書などとしてまとめてもらいたい点)としては次のようなものがあります。

  • 薬系大学の実務教員の多くの先生方が率先的に現地に入ってさまざまな支援を行ったこと
  • 同様に(実務実習の)学生さんがこれら先生方や薬剤師による支援活動のサポートを行ったこと
  • 被災地の医療機関などへの医薬品の供給に、卸が使命を果たすべく最大限の努力をされていたこと
  • 製薬協では会員各社(主に新薬メーカー)から44トンの医薬品(23億円相当)の寄付があったが、うち12トンは使われなかったこと
  • OTC医薬品は、生活支援物資の扱いであったために、一部集積に混乱を来たしたケースがあったこと
  • OTC医薬品の配布等は概ね薬剤師による関与があったが、一部では単においてあるだけなど、薬剤師による十分な関与が行われていないケースもあったこと
  • 災害拠点病院は、3~4日程度の必要な医薬品の備蓄を図る必要があること
  • 一方で、避難生活が長引く場合での医薬品のニーズは異なること
  • 現地では多くの薬剤師の支援があったが、それでも薬剤師の支援が届いていないケースもあったこと

 一方、当日のシンポジウムを聞いたあとでもまだわからない疑問として残っている点としては、次のようなものがあります。

  • 各自治体が備蓄していた災害時用医薬品はどのように活用されていたか、またこれらのリストが適切であったか
  • 薬剤師会や行政が関与していない、民間団体が支援物資とした集めたOTC医薬品はどのように管理・活用されたのか
  • おくすり手帳の有用性は再認識されたが、避難所や救護所における患者情報の引継ぎや継続性はどのように行われていたか
  • 原子力災害時に予防投与として用いられる安定ヨウ素剤はどのように備蓄され、今回の災害で住民に対してどのように使用されたか

 現地に行っていないくせに評論家気取りでと言われてしまいそうですが、今後はこういった点を念頭において、関連資料の収集や把握をしたいと考えています。

 なお、シンポジウムの最後のシンポジストとしてWHO/WPRO Senior Officer の方がWHOの緊急時における医薬品のマネジメントの考え方を話されました。(通訳なしというのはさすがに面食らいましたが)

 内容は、WHOがまとめたガイドラインの紹介と、2004年12月にインドネシアで起きた大津波後の国際的支援における医薬品の在り方についての説明ではなかったかと思います。(スライドでなんとなくイメージ)

 インドネシアの大津波時には世界各国からさまざまな医薬品の支援があったそうですが、ラベルが不十分なものや期限が短いものなど、必ずしも現場のニーズにあわないものも少なくなく、使われなかった薬も相当数あったそうです。(当然これらの廃棄にも多額の費用がかかる)

 L’association Pharmaciens sans Frontières (PSF、フランスに本部がある国境なき医師団と同様の活動を行う薬剤師組織)(http://www.psf.ch/)が、こういった現状をドキュメンタリー(→ビデオリンク)と、レポート(→リンク)としてまとめています。

 今回の大震災では、一部供給が困難となった医薬品もありましたが、流通機能が短期間で確保されたこともあり、大規模な現場での医薬品不足にはならなかったと思いますが、今後さらに大規模な災害が起きたときや首都圏など人口集中地域で起きたときは一体どうなるでしょう?

 必要な医薬品の確保の方法や、代替が可能な基本的な医薬品の備蓄と活用方法については、薬剤師中心となって今後検討が求められることでしょう。

資料:
The interagency emergency health kit 2006(WHO)
http://www.who.int/making_pregnancy_safer/documents/wb1052006in/en/
http://whqlibdoc.who.int/hq/2006/WHO_PSM_PAR_2006.4_eng.pdf

Guidelines for medicine donations(WHO revised in 1999, updated 2010)
http://www.who.int/selection_medicines/emergencies/guidelines_medicine_donations/en/
http://www.who.int/medical_devices/publications/en/Donation_Guidelines.pdf

第18回社会保障審議会医療部会資料(厚労省 2011.06.08)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ets7.html
  (特に、資料1 p10-12p13-17

関連情報:TOPICS
 2011.04.07 災害時におけるOTC医薬品の役割
 2011.03.26 高齢者災害時医療ガイドライン(試作版)(日本老年医学会)
 2011.03.29 震災・原子力災害関連資料(Update) 


2011年09月06日 01:51 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    シンポジウムの動画がアップされています。

    動画・スライド
    特別シンポジウム「東日本大震災とくすり」
    (日本社会薬学会第30年会)
    http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~utdpm/JSSP30/JSSP30video2.html

    視聴できる動画の形式はYoutubeもしくはProducerです。