社会薬学会年会の教育講演で、 non-communicable diseases (NCDs) という概念を初めて聞きました。
non-communicable diseases (NCDs)というのは名前の通り、非感染性疾病のことで、心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患および糖尿病のことをいい、WHOによれば、全世界では毎年3500万人がこれら疾病で死亡、これは死亡の60%を占めるまでになっており、その80%が低・中所得国で生じているそうです。
開発途上国の保健政策というと、感染症予防などを想像しがちですが、すでにこういった国々でも先進国同様にいわゆる生活習慣病対策などへ比重が移りつつあるようです。
WHOでは、こういった現状を踏まえて、4つの非感染性疾患(心血管疾患、糖尿病、がん、慢性呼吸器疾患)と4つの共通する危険因子(喫煙、運動不足、不健康な食事、過度の飲酒)の予防と管理のため中期的戦略プランを策定しています。
2008-2013 Action Plan for the Global Strategy for the Prevention and Control of Noncommunicable Diseases
原文:http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241597418_eng.pdf
邦訳:http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241597418_jpn.pdf
EU領域(→WHO Europe Noncommunicable diseases)では、独自のアクションプランとケーススタディを記したレポートを作成しています。
Gaining Health The European Strategy for the Prevention and Control of Noncommunicable Diseases
http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0008/76526/E89306.pdf
Gaining Health Analysis of policy development in European countries for tackling noncommunicable diseases
http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0018/105318/e92828.pdf
この取り組みは、すでに国連や国際的な医療関係の団体団体への取組へと広がっており、今月9月19~20日にニューヨークで国連の国際会議も開催されます。
United Nations high-level meeting on noncommunicable disease prevention and control(WHO Noncommunicable diseases and mental health)
http://www.who.int/nmh/events/un_ncd_summit2011/en/index.html
Unite in the fight against NCDs(啓発ビデオ)
http://www.youtube.com/watch?v=L07wwklyIDs
では、このNCDsに地域薬局や薬剤師はどのようにかかわっていくかというと、少なくとも次のようなことが挙げられます。
- 合理的な医薬品の使用
- ジェネリックク医薬品の使用促進
- 必須医薬品への公平なアクセス(価格の問題・インスリンなど)
- 禁煙支援
健康日本21(→リンク)の取組みと同じように見えなくもありませんが、たばこ対策やアルコール対策では日本は遅れているようにも思われます。
また下記検討会を見ても、日本ではNCDs対策としての関わりについての記載は少ないのが現状です。
慢性疾患対策の更なる充実に向けた検討会(2009)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ahdf.html#shingi93
しかし、欧州ではこういった分野への薬剤師の関与が期待されつつあり、今後地域薬局における Public Health 活動を行う際には、こういった視点での取組みが必要であることを考えさせられます。
Pharmacists contribution to public health in non-communicable diseases (NCD)
(2011.06.29 EuroPharmフォーラムでのスライド)(→Google 翻訳)
http://www.europharmforum.org/file/14941
関連情報:
2011.07.28 公衆衛生分野における薬剤師活動の認知と期待はこれから
2011.07.09 EuroPharm Forum にみる Pharmaceutical Care
参考:
[WHO]国連は非伝染性疾患に取り組む
(食品安全情報Blog 2010.05.17)
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/comment?date=20100517#p1
WHPA NCD Campaign Media Release
Health Professions unite to issue warning on global epidemic of non-communicable disease
(FIP NEWS 2011.03.16)
http://www.fip.org/www/index.php?page=latest_news&news=newsitem&newsitem=111
WHPA STATEMENT ON NON-COMMUNICABLE DISEASES AND SOCIAL DETERMINANTS OF HEALTH
(WHPA 2011.12)
http://www.whpa.org/WHPA_statement_NCD_SDH.pdf
9月11日 12:40 更新
2011年09月11日 01:49 投稿
戦後のWHO草創期においては、発展途上国を中心にした感染症対策が主な任務であったといえます。しかしながら、環境改善などが進むにつれ、途上国においてさえも、いわゆる生活習慣病が大きな課題となっています。
天然痘に続き、ポリオの撲滅宣言がなされようとしたりする一方、都市の高齢者をターゲットする結核対策が引き続き重大であったり、熱帯感染症だった筈のマラリアやデング熱が温帯地域に進出するなどの課題は引き続き残っていますが、タバコ(規制)枠組み条約成立を機会に、WHOのMissionの切替が起こっていると見ることができます。