地域薬局のマクドナルド化

 英国サンダーランド大学の薬剤管理科を修了された松原なぎさ氏が、Pharma Tribune 誌で英国における薬局事情を紹介しているコラムに「英国逆さメガネ」というのがあるのですが、最近届いた2011年9月号に掲載された「マクドナルド化(合理化)する薬局」が目に留まりました。非常に示唆に富むものです。
 
内容は、以下のようなものです。(是非全文の一読をおすすめします)

  • 1993年にアメリカの社会学者 George Ritzer が提唱した McDonaldisation(マクドナルド化)という概念は、社会のさまざまな分野にもあてはまるものであり、医療の分野も例外ではない
    (ジョージ・リッツア マクドナルド化する社会。1999年に日本語監訳本が出版されています。今日は久しぶりに図書館に足を運んでしまいました)
  • 2000年にGeoffrey Harding と Kevin Taylor 氏がPJ誌で、(英国の)地域薬局にも、Ritzerが掲げたマクナルド化に備わる4つの合理性(効率性・予測可能性・計算可能性・制御)が当てはまると指摘。
  • 英国では、2010年に大規模なチェーン薬局が占める割合が51%に達し、薬局薬剤師の7割がこれらに勤務しているが、企業化した薬局ではマクドナルド化(業務の効率化・標準化)がすすみ、薬剤師のスキル・自律性・専門的なステイタス、報酬など専門職としてのあり方にも影響を及ぼす懸念が示されている。(日常業務は会社員やスーパーマーケットの店員のようにルーチンワークをこなすことと変わらないとの見方もできる)
  • 一方で、マクドナルド化された企業化した薬局では、患者カウンセリングなどの臨床的サービスが専念でき、薬剤師の臨床的役割の認知度を上げるのに貢献しているという利点もある。(日本なら在宅業務も該当? 一方で英国も日本同様、小規模な個人薬局では日常業務に時間が割かれる)
  • マクドナルド化した薬局では、患者の信頼(松原氏は「忠誠心」と記す)は特定の薬剤師というよりも「企業ブランド」に対するものとなってしまう。

Geoffrey Harding and Kevin Taylor:The McDonaldisation of pharmacy
(Pharmaceutical Journal 2000 : 265 602)
(PJ online で登録したのちログインしないと読めません)
http://www.pharmj.com/Editorial/20001021/comment/bs_mcdonaldisation_602.html
http://www.pharmaceutical-journal.com/the-mcdonaldisation-of-pharmacy/20003314.article

 この4つの合理性というものはどういうものかというと、松原氏のコラム、PJ誌の論説、その他の情報を加えてまとめると、日本では以下のような状況ではないかと考えています。(あくまで持論。もう少し検討したい。)

マクドナルド 薬局の取組み
効率性
(efficiency)
消費者に迅速で効率的に空腹を満たすためのハンバーガー類の提供(規格にあった食材ルートの確保、場所の提供=人が集まりやすいところへの出店) ・テクニシャンの活用(海外)
・箱出し調剤(海外)
・OTC医薬品のセルフ販売
・薬剤師を置かずに登録販売者だけで運営される店舗の存在(日本)
・電子処方せん(海外)
・患者さんを待たせないシステムづくり
・第一類医薬品説明不要カード
・医療用医薬品のスイッチ(医療機関にかからなくてもすむ)
・ドライブスルー薬局
・医療モール(門前薬局もそうかも)
予測可能性
(predictability)
マニュアル化された業務により均一化されたサービスの提供 ・統一化された店舗デザイン、スタッフ教育、手順マニュアル
・電子薬歴の導入
・製品パックの標準化(海外)
計算可能性
(Calculability)
時間や価格的な価値が事前に予測可能(計算できる)(バリューセットなど) ・OTC医薬品の値引き販売、ポイントカードの導入(質や効果、必要性よりもお得感)
・調剤終了お知らせメール
制御
(Control)
必要とされる作業を機械などにより最小化し、スタッフがマニュアル通りの簡単な業務だけで可能とする ・調剤業務の機械化(全自動分包機)
・標準装備の薬情のそのままの利用

 キーワードを駆使していろいろ検索したところ、やはり英国の薬剤師の中でも、Geoffrey Harding 氏らが指摘した 薬局のMcDonaldisation が10年たった今、現実になっているとの声が、WEBのForumで生々しく語られています。

 さらに検索をすすめると、薬局はさらにスターバックス化(Starbuckisation?)しているといったブログ記事も目に留まりました。(どういうものなのだろう)

The ‘Starbuckisation’ of community pharmacy
(Hive beaport 2011.05.10)(→リンク
http://www.hivehealth.com/uk/blog/the-%E2%80%98starbuckisation%E2%80%99-of-community-pharmacy-or-the-creation-of-%E2%80%98healthy-living-centres%E2%80%99/

 マクドナルド化が進む今日ですが、飲食業界ではファストフード業界が席巻する中、個性のあるラーメン店が支持されているのと同様に、薬局の世界でも漢方専門薬局など、マクドナルド化しない薬局も少ながらず存在はしています。

 しかし、IT化が進み地域薬局が企業化する今日、さまざまなことが効率化・顧客満足の名の下にマクドナルド化が進むことは避けられず間違いなく(法律や保険制度が後押ししている面も否めないが)、今後、地域薬剤師のプロフェッションや”Identity”がどのようになっていくのか、私も考えさせられます。

 また、今後日常業務をどこまで標準化し、一方で薬剤師一人一人のスキルをどこまで活用するかも考えさせられます。

 松原氏がコラムの最後に示した、「自立した専門職として本当に好ましい方向へとむかっているかどうか、あらゆる立場の薬剤師が時折振り返って考える必要がありそうです」という結びが心に残ります。オープンの形でのディスカッションの場が必要かもしれませんね。

資料:
Community pharmacy: moving from dispensing to diagnosis and treatment
(BMJ 2010;340:1066-1068)
http://www.bmj.com/content/340/bmj.c2298.full
歯科医療のマクドナルド化と歯科医師
(深川雅彦:深川歯科)
http://www.fukagawa.or.jp/research/mcdonaldization.html


2011年09月19日 23:39 投稿

コメントが2つあります

  1. 本当に。厚労省・日薬の目指すところは、コンビニ化。マクドナルド化ですよね。
    かかりつけ薬局の調査って、どのように抽出したのか。
    全薬局にやって欲しいもんです。

  2. アポネット 小嶋

    日薬の定例記者会見で、調査の内容が示されていますね。

    「薬局のかかりつけ機能に係る実態調査」(厚生労働省委託事業)の実施について(ご協力のお願い)
    (日本薬剤師会定例記者会見 資料4 2011.09.14)
    http://www.nichiyaku.or.jp/press/wp-content/uploads/2011/09/110914_6.pdf

    ハイリスク薬加算と在宅業務の実施状況を調べるのが大きな目的のようで、1000施設に無作為抽出で調査票は送られたそうです。

    ただ、後発医薬品の使用促進の調査のように、自ら行わず委託というのは少しひっかります。(他の調査でも外部委託というのはあるけど)

    来年の調剤報酬改定を控えて必要な調査なのでしょうが、点数はつけたけれども、実態はわからないのでじゃあ外部に委託したとも思ってしまうのですが。

    厚労省と日薬が期待する結果が出るか非常に気がかりです。(特に在宅業務)