認知症連携パスと地域薬局

 地域連携クリティカルパス(地域連携パス)というと、地域医療計画の中で、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4疾患について、都道府県単位や各地域の事情に合わせてさまざまなものが作成され、一部は実際に運用されています。

 この地域計画は、2013年からの地域医療計画の見直し(地域医療計画は5年単位)に向けて、現在議論が進められているのですが、次の地域計画では4疾患に加え精神疾患も盛り込まれる方向で準備が進められています。

 これは、今後も増加する精神疾患患者への医療提供体制を安定的に確保するためには、一般医療と精神科医療との連携強化や地域連携を一層強化する必要があるとされているためで、日本精神科病院協会などから強い要望があります。

 しかし、この地域医療計画に精神疾患が加えられると4疾患と同様に「地域連携クリテイカルパス」の作成が求められ、そのための指針作りが必要となります。

 ここで必要となるのは、うつ病や統合失調に加え、近年、外来や入院患者が増加している認知症の連携パスです。

 現在厚労省で議論が行われている、新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チームのとりまとめでも、「BPSD等が改善した後、退院先での生活が円滑に行えることも重要であるため、入院早期に、症状が改善するまでの診療計画、退院先、退院後の医療的支援等を含めた退院支援・地域生活医療支援計画(認知症版退院支援・地域連携クリティカルパス)が作れるよう、モデルとなる退院支援・地域連携クリティカルパスを開発・普及させるべきである。」とされています。

 新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム(第2R:認知症と精神科医療) とりまとめ概要(案)
 (第22回新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム資料、2011年9月27日開催)
    全体版→リンク   概要版→リンク

 認知症の連携パスについては、都内を中心に試行事業が既に始まっており、上記検討会のヒアリングでも紹介されています。

第16回新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム(2011年5月20日開催)
   資料:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001d04d.html  

 また、上記資料やWEBで検索してまとめると、認知症連携パスとしては次のようなものがありました。

パス名 関連資料 備考・関連サイト
東京都大田区認知症連携パス
(蒲田医師会HP)
【行程表】(医療従事者用).pdf
【行程表】(患者さん用).pdf
【紹介状】かかりつけ医→専門施設.pdf
【紹介状】専門施設→かかりつけ医.pdf
 
世田谷区認知症診断地域連携クリティカルパス
(世田谷区医師会HP)
運用マニュアル
世田谷区もの忘れ診断地域連携(患者様用)
診療情報提供書(紹介用)(ワードファイル)
 
認知症連携パス
(目黒区)
  目黒区啓発リーフレット
認知症連携パス
(東京都武蔵野市)
  東京都事例紹介
川崎北部認知症連携パス
(聖マリアンナ医科大学HP)
診療情報提供書(依頼用)  
土浦厚生病院認知症クリティカルパス 厚労省検討会提出資料  
大津市認知症連携パス
(大津市医師会HP)
解説書 薬剤情報あり
広島県安佐医師会・認知症診断地域連携パス
(広島市立安佐市民病院HP)
認知症診断地域連携パス(A5 サイズ) 小冊子タイプ
薬剤情報あり
もの忘れ相談手帳・受診手帳
(熊本県八代市・やつしろ認知症研究会)
厚労省検討会提出資料 熊本日日新聞医療QQ記事
やっちろ認知症応援マップ 見守ってはいよ
オレンジパスポート
(大分県・由布物忘れネットワーク
オレンジパス紹介書
オレンジパスポート
パスポート記入マニュアル
小冊子タイプ
薬剤情報あり
鹿児島県霧島市・認知連携パス 私のアルバム(認知症連携パス) 鹿児島県認知症疾患医療センター(松下病院)(動画あり)
認知症クリニカルパス「脳の健康手帳」
(沖縄県医師会)
脳の健康手帳
運用マニュアル
RIVASTACH.JP

 なお東京都では、東京都認知症対策推進会議の中に、「認知症ケアパス部会」を設置し、情報共有化のための仕組の検討、具体的な情報共有ツールとしての連携パス作成のための検討も始まっています。

「認知症ケアパス部会」(仮称)の設置について(案)
(第11回東京都認知症対策推進会議・資料1 2011年7月21日開催)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/
ninchishou_navi/torikumi/kaigi/kaigi11/files/23kaigi11_shiryou1.pdf

 上記を見てもわかるように、認知症連携パスは、精神科・神経内科等の専門医とかかりつけ医との情報共有の他、介護スタッフも含め、患者さんの状態を把握し、医療・介護を包括的にスムーズに行うための情報共有のためのツールとなっているのですが、よく見ると、一部に薬剤情報を記したものがあるものの、地域薬局が薬剤師が関わることを記したものがありません。

 今後連携パスが、患者情報共有のためのツールとなる可能性が高いことを考えると、今後作成が行われるであろう、連携パスおよび作成のための指針で地域薬局の関わりや薬剤師の役割を明確化しないと、結局は地域連携の枠からはずれるような気がしてなりません。

 糖尿病などの疾患でも、地域薬局や薬剤師の関わりを記した連携パスはあまりないのが現状です。私たちが目指すべき在宅活動が掛け声倒れにならないように、もっと薬剤師会には現場の薬剤師への啓発も含めてがんばってもらいたいと思います。

資料:
東京の地域ケアを推進する会議報告書
(東京都福祉保健局 2011年3月)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/
shisaku/chiikikeasuisin/kaigi22/chiikikeasuisinhoukokusho/

「医療計画見直しと地域連携~認知症連携パス~」
(武藤正樹氏 2011.08.24 講演スライド)
http://masaki.muto.net/lecture/20110824a.pdf

関連情報:TOPICS
 2010.08.05 「地域医療連携体制の構築と評価に関する研究事業」報告書
 2009.07.15 薬局の役割が明記された糖尿病地域連携パス(石川県)
 2009.03.18 「地域連携パス」における地域薬局の役割


2011年10月06日 00:37 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    記事で紹介した、東京都の「認知症ケアパス部会」の第1回部会の資料がアップされています。

    認知症ケアパス部会(第1回)
    ~認知症の人が安心して暮らせるまち・東京を目指して~(2011年9月13日開催)

    委員のうち、医療関係者は医師と訪問看護師に限られるためか、「情報共有が必要な場面と主な関係者(想定)」(資料2)(→リンク)に薬局や薬剤師は出てきませんね。(仕方ないか・・・)

    元記事と一部重複しますが資料6では、連携ツールに関する既存の取組例(→リンク)が紹介されています。