パイロットは生薬を服用できない

  18日の読売新聞に、沖縄のローカル航空会社の副操縦士が運航に不適切な医薬品を服用して乗務したとして、厳重注意を受けたという記事が出ていました。

読売新聞4月18日
 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120418-OYT1T00815.htm

 国交省指針で乗務時の服用を禁じられていた成分の入った薬(腹痛のために乗客用に常備された胃腸薬)を服用したためだそうですが、この禁止成分というのが何と生薬ということだそうです。

 生薬のうちの何がダメなのかと思ってググったとこと、生薬全てが該当するとのこと。

航空機乗組員の使用する医薬品の取扱いに関する指針
(平成17年3月30日制定、平成19年3月5日一部改正)
http://www.aeromedical.or.jp/check/message/documents/pdf560.pdf

A
航空業務中に使用しても安全と考えられる医薬品

乗員の地上における使用経験により、問題のある副作用が起らないことが確認されていれば、使用が許可され得る。

給湿点眼薬又は単純な収斂点眼薬
○白内障治療用点眼薬
疾患の程度が、視機能における航空身体検査基準内である場合に限る
○耳鼻科用医薬品: 血管収縮薬、外耳炎治療用点耳薬(抗生物質を含む)
○禁煙補助用ニコチンガム、ニコチンパッチ
事前の試用により、刺激等が航空業務に影響を与えない範囲であり、専門医の指導により、用法・用量が厳守されていることが確認されていること。
○軽症の皮膚疾患に対する軟膏/クリームの使用(短期間に限る)
B
航空業務中の使用に当たり、指定医又は航空産業医において個別の評価が必要な医薬品

航空機の正常な運航への影響及び身体検査基準への適合性という観点から、指定医又は航空産業医により、対象疾患の程度及び医薬品の副作用等の確認を行ったうえでなければ、航空業務に従事してはならない。

○花粉症治療用点眼・点鼻薬(ステロイド含有の医薬品も含む)
○痔疾患に対する坐薬・局所軟膏/クリーム(市販薬を含む)
○降圧薬
次に掲げる降圧薬を使用する場合、その使用により血圧値が基準値を超えず、かつ、一定用量が維持されてから1ヶ月間を経過した後、使用降圧薬による副作用が認められないことが指定医又は航空産業医によって確認されなければならない。
(1)降圧利尿薬
(2)カルシウム拮抗薬
(3)β-遮断薬
(4)ACE 阻害薬
(5)AⅡ受容体拮抗薬
なお、降圧薬の減量の際は、注意深く経過観察が行え、病態に変化の無いことが確認できる場合に限り、飛行停止期間は特に設けなくともよい(最低2週間に一度血圧測定を行い、基準値を超えないことを確認すること)。
また、α遮断薬に関しては、起立性低血圧の副作用が多いことなどから、引き続き使用禁止の扱いとする(使用する場合は国土交通大臣の判定を受けること)。
○痛風又は無症候性高尿酸血症の治療のための尿酸排泄薬、尿酸生成阻害薬又は酸性尿改善薬
アロプリノール、プロベネシド、ベンズブロマロン
(痛風発作に対するコルヒチン・NSAIDS 使用は、病態から考えて、不適合とする)
○消化性潰瘍治療薬
制酸薬(プロトンポンプ阻害薬、H2 ブロッカーを除く)、防御因子増強薬は、病態が航空業務に影響を与えない範囲であり、かつ、使用医薬品の副作用が認められないことが指定医又は航空産業医によって確認されなければならない。
ただし、抗コリン薬は、眼調節機能障害等の副作用があるため、使用している場合は、国土交通大臣の判定を受けることが必要である。
○内視鏡による潰瘍治癒確認後(S stage)の維持療法・予防的投与としてのH2 ブロッカー
○鎮静作用の無い抗ヒスタミン薬(第二世代の抗ヒスタミン薬に限る)・抗アレルギー薬
○睡眠薬(睡眠導入薬)

酒石酸ゾルピデム、ゾピクロン、トリアゾラムは超短時間作用型であるが、吸収・代謝には個人差が大きいことも知られている。トリアゾラムはアルコールとの併用により中枢神経系に対する副作用を生じる可能性があるので、航空業務には不適合である。ゾルピデム、ゾピクロンについては、常習性及び依存性が無いこと、並びに事前に試用して48時間後には、眠気・集中力の低下が無いことが指定医又は航空産業医によって確認されなければならない。ただし、服用後48時間を経過するまでは航空業務に従事してはならない。また、相談を受けた指定医又は航空産業医は、その旨を文書として診療録等に残すことが望ましい。
一方、メラトニン製剤は、そもそも現在の日本においては入手不可能な薬品であり、副作用も十分に検討されていないため、その使用は許可されない。
上記2つの薬剤以外の睡眠導入薬は許可されない。
○経口避妊薬(低用量ピル)
○甲状腺ホルモン補充療法
○糖吸収阻害薬
○高脂血症治療薬
○予防接種
C
航空業務中の使用に当たり、国土交通大臣による個別の評価が必要な医薬品

使用開始とともに航空業務を停止させ、航空業務に復帰する前に、国土交通大臣の判定を受ける必要がある。
なお、ここに掲げている医薬品はあくまでも例示であり、この他にもC項に該当する医薬品は多数存在する。副作用が不明な医薬品又は副作用が懸念される医薬品を使用している場合若しくは使用を予定している場合、その他航空機の正常な運航ができないおそれがあると認められる又はそのおそれがあるかどうか不明な場合は、指定医は航空身体検査証明書を発行してはならず、国土交通大臣の判定を受ける必要がある。

○抗不整脈薬
○硝酸薬を含む狭心症治療薬
○胆石症治療薬
催胆薬 : ウルソデオキシコール酸、ケノキシデオキシコール酸、アネトールトリチオン
○炎症性大腸疾患治療薬
○甲状腺疾患治療薬(ホルモン補充療法を除く)
○糖尿病治療薬
○骨・カルシウム代謝薬
活性型ビタミンD3 製剤、カルシトニン製剤、ビホスホネート製剤、イブリフラボン製剤、ビタミンK2 製剤、カルシウム製剤等
○抗血小板薬
アスピリン、チクロピジン、シロスタゾール、EPA、ベラプロストナトリウム、サルポグレラート
○抗凝固薬(ワーファリン)
○抗真菌薬(内服)
グリセオフルビン又はテルビナフィン
○インターフェロン、ラミブジン、リバビリン
○抗悪性腫瘍薬・免疫抑制薬
○緑内障用点眼薬
○抗生物質(経口及び局所投与)
○非ステロイド系消炎鎮痛薬
D
航空業務には不適切/不適合な医薬品

右記医薬品は航空業務には適さないものであるため、航空業務にはその使用は許可されない。

○麻薬、覚醒薬、幻覚薬
○抗けいれん薬
○インスリン
○アンフェタミン
○向精神薬
○抗うつ薬
○抗不安薬
○鎮静薬
○ステロイド製剤(少量の維持投与の場合は国土交通大臣の判定申請可能)
○中枢性降圧薬(少量の維持投与の場合は国土交通大臣の判定申請可能)
○筋肉増強薬
○生薬
○治験薬
○アミオダロン
○胆石症治療薬
排胆薬 : 塩酸パパベリン、フロプロピオン、ヒメクロモン、トレピプトン
○メラトニン

 生薬は全てダメというのは、何がどのように作用するかわからないからでしょうが、パイロットは漢方薬は飲んじゃだめということになりそうです。(生薬成分入りのドリンク剤もダメでしょうね)

 一方で、精神神経系の副作用の懸念が示されているバレニクリン(チャンピックス)やロイコトリエン受容体拮抗薬についての検討がないのはどうなのでしょうか?

 昨年7月に発生した航空事故をめぐってはこんな通達も。(乗組員はオノンを服用していた)

航空大学校所属JA4215(ビーチクラフト式A36型)の航空事故に関する運輸安全委員会の航空安全情報を受けた航空局の対応について
(国土交通省報道発表 2011.12.27)
http://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000046.html

 「本指針は、航空機乗組員(乗員)が使用する医薬品に関して、航空法で定める正常な運航への影響及び身体検査基準への適合性という観点から、航空業務には不適合なもの、使用に当たり個別の評価が必要なもの等に区分整理し、説明するものである」とされていますが、最後の改正が5年前であり、リストを見てて、見直さなくていいのかなあと感じました

資料:
我が国における航空身体検査証明制度
(財団法人 航空医学研究センター)
http://www.aeromedical.or.jp/check/seido/japan.htm
 航空身体検査項目等
 http://www.aeromedical.or.jp/manual/manual_1.htm

関連情報:TOPICS
 2012.04.13 意識消失のリスクがある薬で交通事故を起こしたら責任は誰?
 2010.04.05 パイロットと薬の使用(米国)
 2010.03.24 ロイコトリエン受容体拮抗薬に精神神経系症状の注意が追記


2012年04月18日 22:06 投稿

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