ピボキシル基を有する抗菌薬と小児の低カルニチン血症(Update4)

 PMDAメディナビに登録している方はもうご存じだと思いますが、PMDAから発出された安全性情報です。

ピボキシル基を有する抗菌薬投与による
小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について
(PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo.8 2012.4)
https://www.pmda.go.jp/files/000143929.pdf

 上記の通り、メイアクト、フロモックス、トミロン、オラペネムなど、小児科や耳鼻科などで小児にもよく使われるピボキシル基を有する抗菌薬を投与した際に、重篤な低カルニチン血症に伴って低血糖症、痙攣、脳症等を起こし、後遺症に至る症例が報告されているというもので、個人的には見過ごしていたものとして反省させられました。(むしろショック)

 でもこの注意喚起は既に6年半前にすでに行われていて、その際に重大な副作用として既に添付文書に追記されています。

 私の所にたまたま2005年12月にメイアクトの使用上注意改訂の経緯について記されていたものがあったので、WEBに残っていないかと思いググったらトミロンのものが出てきました。(詳しい症例あり、リンクすみません。症例は各インタビューフォームにも記載)

トミロン錠100(「使用上の注意」改訂のお知らせ 2005年12月
http://www.showayakuhinkako.co.jp/medical/contents/med/info/tm_t100_pur_051229.pdf

このときの添付文書の改訂で長期投与による低カルニチン血症の可能性について詳しく記されるようになりましたが、実はこの2005年12月の改訂でメイアクト錠/小児用細粒については、添付文書でその他の注意にあった「血清中のカルニチンを低下させることがあるので、小児には、2週間以内の投与が望ましい」との記載が削除されてしまっています。(問題があれば下記ファイルへのリンクは削除します)

 現在の添付文書でも「疾病の治療上必要な最小限の期間の投与」というだけで、具体的な期間は記されていないので、もしかしたら、この「2週間以内の文言」が消えたことによって、注意の認識が低くなった可能性も考えられます。(こういうときこそ、過去の添付文書を見て比較できないことは本当に問題)

 PUBMEDで検索をかけたころ、下記のような症例も報告されています。(Pediatrics 誌のものは日本の小児の症例)

Carnitine-associated encephalopathy caused by long-term treatment with an antibiotic containing pivalic acid.
Pediatrics.2007 Sep;120(3):e739-41.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17724113
http://pediatrics.aappublications.org/content/120/3/e739.long

Acquired encephalopathy associated with carnitine deficiency after cefditoren pivoxil administration.
Neurol Sci. 2012 Jan 19.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22258360

 Pediatrics 誌の論文では2週間以上の抗生剤の不必要な使用を避けるべきとなっていますね。(カルニチンサプリが有効というのも・・・)

 また、Pediatrics 誌の引用文献をみてみると、ピボキシル基を含む抗生剤が低カルニチン血症を起こす可能性があると指摘されているのはもっと前なのですね。

Alteration of ammonia and carnitine levels in short-term treatment with pivalic acid-containing prodrug.
Tohoku J Exp Med. 1995 Jan;175(1):43-53.)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjem1920/175/1/175_1_43/_article
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7610459
(「CFTM-PIの投与は総症例でhypocarnitinemiaを引き起こした」となっている)

Effect of short-term treatment with pivalic acid containing antibiotics on serum carnitine concentration–a risk irrespective of age.
Biochem Mol Med. 1995 Jun;55(1):77-9.)(リスクに年齢は関係ないとなっている)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7551831

 さらに、“carnitine pivoxil”でPubMedで検索をかけると他にも報告が出てきました。(→リンク

Impact on carnitine homeostasis of short-term treatment with the pivalate prodrug cefditoren pivoxil.
Clin Pharmacol Ther.2003 Apr;73(4):338-47.)(健常者に行った試験)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12709724

Hyperammonemic encephalopathy induced by a combination of valproate and pivmecillinam.
Acta Neurol Scand.2004 Apr;109(4):297-301.)(バルプロ酸とメリシンの併用症例)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15016014

Birth outcome and risk of neonatal hypoglycaemia following in utero exposure to pivmecillinam:
a population-based cohort study with 414 exposed pregnancies.
Scand J Infect Dis.2001;33(6):439-44.)(メリシンの新生児低血糖のリスク指摘はすでにこの頃から)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11450863

Cefetamet pivoxil treatment causes loss of carnitine reserves that can be prevented by exogenous carnitine administration.
J Nutr Biochem. 1999 Nov;10(11):670-3.)(Cefetamet pivoxil についての報告)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15539265

 PMDAの注意喚起も、「長期の漫然とした使用は避けてください」ではなく、「原則として2週間まで」(オラペネムは7日間以内を目安との記載あり)などとすることはできなかったのでしょうか?

 メイアクトなどのIFを見ると、このピボキシル基は、経口吸収性を高めるために導入されたとのこと。しかし、これらの製剤は海外ではあまり発売されていようです。(しかも欧米では成人のみの適応) だから、文献検索をしてもあまり報告が出てこないわけです。

 今回の問題との関連があるかどうかはわかりませんが、欧米ではこれら抗菌剤の小児への使用はそもそもなく、今回の重篤な副作用の発現リスクを考えると、ピボキシル基のついた抗生剤の小児への承認そのものが適切だったのかも考えてしまいます。

薬品名 承認 海外販売状況
(◎は小児の適応あり)
メイアクト
(CDTR-PI)
1994年 ◎韓国。◎タイ、◎トルコ、米国、中国、スペイン、インドネシア、サウジアラビア、ポルトガル、ギリシャ、イタリア 2009.11現在
トミロン
(CFTM-PI)
錠剤1983年
細粒1990年
◎韓国、中国 2012.4IFより
フロモックス
(CFPN-PI)
1997年 ◎韓国 2008.11現在
オラペネム
(TBPM-PI)
細粒2009年 なし 2011.4IFより
メリシン
(PMPC)
1978年 なし 2012.4IFより

 あと心配なのは、「医者で処方してもらった抗生剤を残しておいて、具合が悪くなったときに使おう」というケースです。(今は少なくなりましたが、予備的に抗生剤が処方されるケースがないわけではない。当然自己判断で漫然と使用される懸念はある)

 改めて、抗生剤の適正使用の必要性を考えさせられます。

関連情報:TOPICS 
 2012.04.19 見直しませんか、いわゆる“かぜ薬”

関連記事:
中耳炎に使う抗生物質で子供の低血糖、痙攣など38件
(あなたの健康百科 2012.04.26)
http://kenko100.jp/news/2012/04/26/01

4月26日 12:00更新 14:40更新 16:40更新 2016.6.21リンク修正


2012年04月26日 01:17 投稿

コメントが2つあります

  1.  いつも貴重な情報を迅速に提供いただき感謝しています。さて、添付の資料を見て驚愕したのは、4か月にわたり漫然と投薬されていた事例が複数例示されていることです。
     医師の過失はもとより、当該処方せんに基づいて投薬した薬剤師の責任はどうなるのでしょうか?
     2週間を超えて処方する医師側の(まさか、調剤薬局側の?)要求があって記述の削除がなされたのかもしれません。 だとしても、抗生物質を月余に渡って投与というのはよほどの例ではないでしょうか?
     OTC医薬品では、数日間に限定されているものも少なくないのですが、それでもスイッチに際し難色が出されます。
     ため息を出さなくとも済むようにするには? との思いです。

  2. アポネット 小嶋

    関連ブログです。

    続・ピボキシル基を有する抗菌薬?
    (医療現場からの出発 5月13日)
    http://d.hatena.ne.jp/hiradakedo/20120513/1336878000