薬学雑誌で、離島における一般用医薬品の入手状況調査を行った(TOPICS 2011.05.01)長崎県の薬剤師グループが、今度は二次離島(本土への直接的な移動手段がなく、薬局・薬店・薬剤師が存在しない、大型離島の周辺に点在する離島)の住民に直接面談し、インターネット(INET)の使用状況や医薬品の購入・使用・保管状況、一般用医薬品情報の入手状況などの調査を行っています。
調査結果は、佐藤製薬が中心となって行っている公益財団法人 一般用医薬品セルフメディケーション振興財団のウェブサイト(http://www.otc-spf.jp/)で、平成23年度の調査研究報告書として掲載されています。
平成23年度 研究成果報告書(2012.06.20)
http://www.otc-spf.jp/symposium/h23_report.html
離島における一般用医薬品使用実態・ニーズ調査と医薬品供給・管理・適正使用推進への提案
http://www.otc-spf.jp/symposium/pdf/h23b_08.pdf
この調査は過疎化等による高齢化、交通の手段が乏しい過疎地・僻地などにおいて、改正薬事法のもと、安全な一般用医薬品の適正使用を実現するために、どのような一般用医薬品の供給方法・管理体制・情報提供・適正使用の最適な方法があるかを提案することを目的に、五島市内の全二次離島へ直接赴き、同意が得られた16 歳以上の住民 225 人に対して行われていますが、調査結果については、回答者の60.4%がIT弱者の70代以上であることを考慮する必要があります。
調査結果から以下のようなことがわかったそうです。
- INET を介した一般用医薬品購入経験は、INET 使用者の 10.5% 、回答者全体の 0.8% にとどまった
- 一般用医薬品は使用しないので入手しないとした人が47.2%と最も多く、次いで配置薬の利用が27.0%で、店舗での購入は13.9%に留まった
- 回答者の 84.1% が、「一般用医薬品の船送り便がなくなっても困らない」と回答し、一般用医薬品の船送り便が今後も継続されるとしても利用したいと思わないという人は 76.2%に達した
- 薬剤師等専門家による、定期的な医薬品の配達販売があるとしたら、38.5%が「利用したい」と回答した
考察によれば、二次離島では、行政の配慮によって多くの島では医療機関が配備され定期的に診療が行われていることもあり、一般用医薬品を購入してまで利用したいというニーズはあまり高くない一方、医療機関のない島で居住者は配置薬に大きく依存することが明らかになったそうです。
また、一般用医薬品の使用に際して薬剤師が関与する機会がほとんどない(薬局・薬店そのものがない、配置薬を利用する)ことから、「薬剤師」になじみがない人や「薬剤師」という職種を知らない人が数多くいることが明らかになり、調査では「薬剤師」という職種の説明から入ることも必要になったそうです。(これは驚き)
この報告書を読んで感じたことは、IT社会となったとしても商品の入手と必要な情報の入手など、一般用医薬品の適正使用(セルフメディケーションの推進)にあたって社会的弱者が存在する地域があるということです。
こういった地域の生活者(特に高齢者)に対してこそ、必要な一般用医薬品の供給と適正使用を行うためのサポートは必要であり、地域で必要な存在としての薬局や薬剤師の存在意義や役割とは何かを改めて考えさせられました。
尚、今回の調査結果は7月8日に行われる、第15回日本医薬品情報学会学術大会で口頭発表される予定です。
関連情報:TOPICS
2011.05.01 離島における一般用医薬品の入手状況調査から考える
2011.11.14 過疎地における医薬品供給は誰が担うか?
2012年06月29日 17:21 投稿
薬学雑誌で論文化されています。
離島での対面調査から見えてきた一般用医薬品使用に関する実態と課題
(薬学雑誌 Vol. 133 (2013) No. 8 p. 913-922 )
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/8/133_12-00268/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/8/133_12-00268/_pdf