アブストラクトしか見ていないので推測の部分もありますが、興味ある報告です。(FULLTEXT で是非確認したい)
既にご存じかと思いますが、英国では2004年に世界で唯一スタチンのシンバスタチンがスイッチされ、Zocor Heart-Pro という名前で、OTCとして販売されています。
Zocor Heart-Pro 10mg tablets
http://www.medicines.org.uk/emc/medicine/20015
Patient Information Leaflet (0.394MB)
THE RECLASSIFICATION OF SIMVASTATIN 10MG (ZOCOR HEARTPRO)
OVER THE COUNTER (OTC) Q&A (PGBA)
http://www.chpa-info.org/Web/newsletter/archive/PDFs/QA_statin_3.pdf
この研究はOTCシンバスタチンが発売された5年後に販売に携わっている現場の薬剤師の声を集めた研究です。(おそらく調査はタイトル通りなら2009年頃だと思う)
Pharmacists’ perceived integration into practice of over-the-counter simvastatin five years post reclassification.
(Int J Clin Pharm. Online First 2012 Jun 28)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22740232
http://www.springerlink.com/content/x08047073x846g31/
調査はスコットランドの薬剤師1138人を対象に行われ、563人(49.5%)から回答があったそうです。
その結果、今回のスイッチを支持したのは少数で、また実際に販売したのは5人に1人に留まるなど、積極的に販売されていない(踏み切れない)現状が明らかになったそうです。
その理由としてあげられたのが、「エビデンスが不十分」「生活者のニーズの低さ」「小売価格への消費者の不満」「患者(使用者)の医療記録へのアクセスの困難さ」などを挙げており、当局が考えた低リスク者への冠動脈イベントの予防対策という目的が大きく外れたという感があります。
利用度が低いとの報告は2010年発表の研究でも、予想を大きく下回ったとの報告がされています。
Impact of a policy allowing for over-the-counter statins.
(Qual Prim Care. 2010;18(5):301-6.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21114910
販売開始の当初は、現場では大きな期待が膨らんでいたようなのですが。
Lifestyle or life-saving medicines? A primary healthcare professional and consumer opinion survey on over-the-counter statins.
(Ann Pharmacother. 2008 Mar;42(3):413-20. Epub 2008 Feb 26.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18303145
一方GPの間では、販売後も反対の声が根強かったようです。
General practitioners’ views and experiences of over-the-counter simvastatin in Scotland
(Br J Clin Pharmacol. 2010 September; 70(3): 356–359.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2949907/
シンバスタチンは他薬との相互作用が少なくなく、肝障害や横紋筋融解症などの副作用も考慮すべき薬剤です。
販売のためのプロトコルが決まっているとしても、いざ実際に販売となると、薬剤師的にあれこれ考えて、相当慎重になったのかもしれません。
一方生活者にとっても、医者に行かなくてもすむという反面、決して安くない価格設定も購入意欲を失わせていたのかもしません。(とはいっても、価格を調べたところ28錠入り 約8ポンド=約1000円程度なんだけど。日本の価格水準からいえばとても安い)
そして、現在も必ずしもスタチンで血清脂質を下げるべきかどうかという議論が分かれていることももしかしたら、薬剤師的に積極的な販売を行わなかったという可能性もあります。(本音はここかも。私の思い込みだけど)
日本では、現在エパデールのスイッチの是非が議論になっていますが、こういった結果を見ると日本でもエパデールがスイッチされたとしても、現場からはこれと同じような声が出て、意外と売れないという結果が出てくるのではないかと考えてしまいました。(でもEPAのトクホが売れているみたいだから、ニーズはあるかも。いずれにせよこういう調査をきちんと行うことはよいことだと思う)
関連情報:TOPICS
2007.01.27 スタチンのOTC化で薬剤師に求められるもの(旧サイト・リンク先は切れています)
2009.01.17 処方せん医薬品スイッチに対する英国医師の本音
2011.01.20 心臓病の既往歴がない人にスタチンは必要か(コクランレビュー)
2012年07月01日 01:25 投稿
血清脂質を下げるべきかどうかが販売に慎重になっている要因とすれば、スコットランドの薬剤師さんたちのレベルは高いですね。
現実は、売れなかったからという単純なものと聞いています。 すでに、昨年時点で発売元が市場から撤退しており、後発品は残っているという話だったのですが、ロンドン市内の薬局に尋ねても影も形もありませんでした。
効能自体も心発作リスクの低下という実感しずらいものであった(玄人受けはしたようですが。)し、医療保健でも引き続き給付が行われていたために、積極的な服用希望者はそちらに流れた。(当然、経済的な負担は回避できる。)
このため、厳重な患者問診と服用者登録などをシステム化したBoots(英国薬局チェーン)等も、投資に見合った回収がなしえなかったと聞いています。
そんな訳で、最近の英国の動きでは患者問診システムの簡素化(余計なことは聞かない)に向けて動いている由です。 そもそも、NHSの制約のもと、高血圧の患者では年に1回の係りつけ医師受診とRefill処方せん受領、3月に1度のかかりつけ薬局での医薬品受領(90日分!)とチェックというのが実態の由です。
もう事実上販売していないんですか。
継続使用を希望の人が安い価格で薬局で処方せんなしで入手できるというのならニーズがあったかもしれませんね。
コメントされているように、私もこの分野ではむしろ
・まずスクリーニング(店頭で血清脂質を測定)をして、必要に応じて受診勧告する
・服用中の患者さんには、同様に薬局店頭で数値をチェックして、問題がなければリフィルで患者さんの利便性を図る
というのがむしろニーズにあったものなのかもしれません。
そうなると、日本でのエパデールスイッチの位置づけはどうなってしまうんでしょうね?
(かといって、トクホの野放しもいやだけど)
まいけるさん
情報有難うございます。
ランダム化二重盲検プラシーボ対照化トライアルのメタアナリシスによって、ω3不飽和脂肪酸(DHA、EPA)は、既往ある心血管疾患病歴患者で包括的心血管イベントに関する予防効果は不充分と報告されました(Arch Intern Med. Published online April 9, 2012)。
既往ある患者には効果が証明されていませんが、健常人に対する予防効果は期待できるのではと思っています。