前記事の疑義照会について調べていた際にたまたま見つけた最新の厚生労働科学研究です。国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部のサイト(http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/)に7月20日に掲載されたばかりで、 現時点ではまだ厚生労働科学研究成果データベースには概要版も掲載されていません。
研究の目的は、向精神薬の乱用・依存が疑われる患者(過量服薬とドクターショッピングに注目)についての薬剤師による処方医への疑義照会・情報提供の実態を把握し、積極的な疑義照会・情報提供を妨げている背景を検討したもので、結構重要な問題が明らかになっています。
様々な依存症における医療・福祉の回復プログラムの策定に関する研究
平成23 年度分担研究報告書 向精神薬乱用と依存(2) ―薬剤師調査―
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/drug-top/data/research_MATUSMOTO2011.pdf
研究は、埼玉県薬剤師会入会薬局のうち、調剤業務を行っていた保険薬局に勤務する薬剤師を対象に行われた郵送によるアンケート調査で、過去1年間の過量服薬患者およびドクターショッピング患者との面会経験の有無、当該患者に対する服薬指導や処方医への疑義照会の状況などについて尋ねています。(1414人が回答)
その結果、回答者の25.9%が過去1年間に過量服薬患者との面会経験があったと答えた他、13.9%がドクターショッピング患者との面会経験があったと答えたそうです。
また、過量服薬患者との面会経験率は、「常勤勤務薬剤師」「年代の若い薬剤師」「特定の病院から処方せんを応需している薬局」「勤務薬剤師数が多い薬局」「月あたりの処方せん応需枚数が多い薬局」で有意に高かったそうです。(つまり、面の薬局よりも大型門前薬局で接する機会が多いということ)
一方、「向精神薬の乱用・依存が疑われる患者について、処方医への情報提供・疑義照会を積極的にできない背景要因としてどのようなことが考えられるかを尋ねたところ、
- 処方医は患者の状況を理解していると思う(39.0%)
- 処方医とのトラブルを避けたい(29.1%)
- 患者(あるいは家族)とのトラブルを避けたい(28.3%)
- 向精神薬乱用・依存に関する知識が十分ではない(21.6%)
- 医療機関とのトラブルを避けたい(19.6%)
- 医師への疑義照会に十分な自信がない(19.4%)
- 処方医への疑義照会を患者に断られた(16.3%)
など、ちょっと考えさせられるような本音も明らかになっています。
また、特定の医療機関(特に病院)から処方せんを応需している薬局では、「処方医とのトラブルを避けたいから」、「患者とのトラブルを避けたいから」と考える傾向が有意に高くみられることも明らかになったそうです。
研究者らは、「特定の医療機関(特に病院)から処方せんを応需している薬局は、向精神薬の乱用・依存が疑われる患者との接触機会が多い一方で、処方医や患者とのトラブル回避を重視するあまりに、処方医への積極的な情報提供・疑義照会が妨げられている可能性が示唆される。薬局薬剤師が処方箋応需先との利害関係に左右されることなく、安心して情報提供・疑義照会が行える調剤環境が必要である。」と結論づけていますが、一方で、一部依存患者の希望のままに向精神薬が処方されている実態もあるわけで、「医師や関係機関向けに改めて周知し、薬剤師による疑義照会(情報提供も含めて)に対する理解・協力を求める」だけでは、根本的な解決につながらないと思います。
おそらく他の方により調査が行われていると思いますが、処方する医師が患者の向精神薬の必要性についてきちんと判断して処方されているのかどうか、乱用や依存が疑われる人に対してどのような社会のサポートが行われているか、またこういった方たちにどのように接したらよいかがはっきり示されていない現状では、ゲートキーパー役として薬剤師に期待しても応えられないことが示されたともいえます。
ガイドラインに沿った不眠治療が必ずしも行われていない現状や、受診さえすれば複数の医療機関から向精神薬を処方されてもチェックのしようがないという現状を考えると、向精神薬の不適切な処方があっても、処方医や医療機関との利害関係に左右されて、門前薬局のようなところでは疑義照会や情報提供が行えないというように結論付けてしまうのは少し無理があると思います。(ある面では事実だけど。本記事、どのようなタイトルにするか難しかった)
関連研究:
様々な依存症における医療・福祉の回復プログラム策定関する研究
平成22年度 分担研究報告書 向精神薬乱用と依存
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/drug-top/data/research_MATUSMOTO2010.pdf
その他の分担研究は、下記サイトで様々な依存症または201027128Aをキーワードに検索すると出てきます。
厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do
関連情報:TOPICS
2011.02.26 3月は自殺対策強化月間~薬剤師も取り組みが必要
2010.10.22 自殺対策で薬剤師の活用は必要(参院厚労委)
2010.09.10 薬剤師は適切な医療に結びつけるキーパーソン(自殺対策PT)
2010.05.29 地域薬局は自殺・うつ病対策のゲートキーパーとならないのか
2012年07月29日 23:48 投稿
新たな視点で行われた続報(平成24年度研究)が、国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部のサイト(http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/)に掲載されています。
様々な依存症における医療・福祉の回復プログラムの策定に関する研究
平成24年度分担研究報告書 向精神薬乱用と依存(2) ―薬剤師調査―
http://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/drug-top/data/research_MATUSMOTO2012.pdf
研究は23年度同様、埼玉県薬剤師会入会薬局のうち、調剤業務を行っている保険薬局に勤務する薬剤師を対象に行われています。
「薬剤師による疑義照会の目的や意義が処方医に十分に理解されていない可能性」、「処方医に対する遠慮」などの生々しい実例が報告されています。