以前、授乳婦がコデインを服用した場合、ごく稀ではあるが、コデイン服用後代謝の過程(迅速代謝)でできたモルヒネが乳汁に移行し、これを飲んだ乳幼児が呼吸抑制などの有害事象を起こす可能性があるという報告があるとして、添付文書が変更されたことを紹介しました(TOPICS 2009.12.02)が、米FDAでは、乳幼児がコデイン配合剤を常用量使用(海外ではコデインは鎮痛目的で使用)した場合でも死亡例を含む事例が報告されたとして注意を呼びかけています。
FDA warns of risk of death from codeine use in some children following surgeries
(FDA NEWS Release 2012.08.15)
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm315601.htm
FDA Drug Safety Communication: Codeine use in certain children after tonsillectomy and/or adenoidectomy may lead to rare, but life-threatening adverse events or death
(FDA Drug Safety and Availability 2012.08.15)
http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm313631.htm
医薬品安全性情報 Vol.10 No.18(2012/08/30)で日本語概要があります。
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly10/18120830.pdf#page=2
Is Post-Surgery Codeine a Risk for Kids?
(Consumer Updates 2012.08.15)
http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm315497.htm
内容的には以前にも紹介した、「コデインをモルヒネに代謝するCYP2D6のうち、遺伝子の特定の型ではコデインが超迅速に代謝(ultrarapid metabolisum)されるため、モルヒネが体内で多くできてしまい、モルヒネ中毒になる(TOPCIS 2007.08.18)」と同じものですが、今回、小児が常用量を使用したケースでも同様の報告例があったことから、必要最少限の期間と用量で用いるなど、医療専門職に子どもにコデインを使用するリスクについて知っておくべきだとして注意を呼びかけています。
日本ではコデインは咳止めとして使用するケースが多いのですが、大部分は調剤による場合であり、OTC医薬品として配合されているのはアネトンなどごくわずかです。
また、日本で咳止め成分として使われているのは、多くがジヒドロコデイン(代謝産物として出てくるのはジヒドロモルフィン)で今回の注意喚起をどの程度留意すべきかは難しいところです。
しかし、論文にあたると、代謝産物として出てくるジヒドロモルフィンなどが中毒死に関わるとの研究もあり、やはり同様の留意が必要かもしれません。
The Role of Dihydrocodeine (DHC) Metabolites in Dihydrocodeine-Related Deaths
(J Anal Toxicol (2010) 34 (8): 476-490.)
http://jat.oxfordjournals.org/content/34/8/476.abstract
http://jat.oxfordjournals.org/content/34/8/476.full.pdf
そうなると問題となるのは、日本におけるコデイン類配合のOTC医薬品のうち、小児の用法がある総合感冒薬や咳止め薬の取扱いです。
FDAの注意喚起にもありますが、アジア人では迅速代謝を起こす遺伝子の型を持つ人は1%程度にすぎませんが、子どもの場合、万が一モルヒネ類による中毒が発現されても、傾眠傾向や呼吸抑制などの症状が見分けにくにい場合が考えられます。
また、以前にも紹介しましたが海外では、多くの国で有用性がないとして、コデイン類や咳止め成分や抗ヒスタミン類を含む小児用OTCかぜ薬・咳止め薬は販売が行われていません。しかし日本では、添付文書で「2歳末満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。」と変更になっただけで、使用が可能となっているものも少なくありません。(TOPICS 2009.11.11)
小児科領域の処方せんでは、コデイン類が配合されたものが処方されることはほとんど見かけられませんし、小さなお子さんを持つ親御さんが咳や風邪にOTC薬で対応することも少ないかと思いますが、コデイン類が配合されたOTC医薬品を販売される(特に小児の用法があるもの)場合もあることに留意し、情報提供のあり方の再検討も必要かと思います。
現在、コデイン類は指定第2類となってはいますが、小児の用法があるコデイン類を配合したOTCかぜ薬や咳止め薬については、情報提供の観点から第1類にすることの検討も必要ではないでしょうか。
関連記事:
咽頭扁桃切除後のコデイン使用で小児の死亡例,米FDAが安全性情報
(MT Pro 2012.08.16 要会員登録)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1208/1208051.html
関連ブログ:
FDA安全性情報:小児コデイン使用による急死症例
(内科開業医のお勉強日記 2012.08.16)
http://kaigyoi.blogspot.jp/2012/08/fda.html
関連情報:TOPICS
2007.08.18 コデイン服用後の有害事象は遺伝子の型によって左右される
2009.12.02 コデイン類服用中は授乳を避けるべし
2009.10.30 妊婦と乳幼児のためのガイドブック(英国)
2009.11.11 小児用OTC風邪薬、添付文書の変更に踏み込まず
2009.10.23 OTC子ども用風邪薬、薬剤師の管理下での販売が必要(豪州)
2009.10.08 6歳未満に風邪薬・咳止め薬は与えられるべきではない(NZ)
2009.05.12 OTC小児用風邪薬・咳止め薬のさらなる注意喚起は見送りへ
2008.07.05 2歳未満はOTC風邪薬は使用せず受診を
2009.03.01 英国当局も6歳未満にはOTC風邪薬・咳止めを使用しないよう勧告
2008.12.19 カナダ当局、6歳未満にはOTC風邪薬・咳止めを使用しないよう勧告
2008.10.08 小児用OTC風邪薬は4歳未満に与えてはいけない(米国)
8月16日 17:00リンク追加、8月31日リンク追加
2012年08月16日 13:52 投稿
今回の米国の事例は、術後の鎮痛目的でコデイン製剤を投与していること、また扁桃腺(又はアドノイド)切除術後の事例であることにも留意がいると思われます。
無論、それ以外の例についてもみているとしていますので、無視すべきとは言いません。
さらに、我が国の小児用製剤では、小嶋さま記載の様にジヒドロコデイン配合であり、かつ欧米に比し、5分の1程度の量となっていることにも留意が必要と思います。
なお、欧米での鎮咳剤にコデイン配合品が無くなったのは、青少年における乱用が契機であり、更に
コデイン無しの鎮咳剤(デキストロメトルファン製剤)でも、乱用が問題になっているという事情もあります。