エピペンとAED、どこまで設置が必要か

 去年9月薬価収載で、日本でも社会的な認知が高まっているエピペンですが、米国では、いざという時にいつでもに使用できるよう、あらゆる学校で常備することを法律で義務付ける動きが各州に広がっています。

 すでにヴァージニア州では、1月に7歳の女児が小学校でピーナツを食べた後のアナフィラキシーで命を落としたという不幸な出来事(米国でも本人と家族以外のエピペンの使用は認められていなかったらしい?)を受けて、エピペンを学校に常備することを求める州法が8月から発効、またイリノイ、ジョージア、メリーランド州でも同様の州法を可決していて、その他の州でも school nurse を中心に法制化を求める声が挙がっているそうです。

 下記ニューヨークタイムス誌の写真が物語っていますが、学校ではちょうどAEDのような感覚で設置されているようです。

Tiny Lifesaver for a Growing Worry
(Mylan Invests in EpiPen as Child Allergies Increase)
(New York Times 2012.09.07)
http://www.nytimes.com/2012/09/08/business/mylan-invests-in-epipen-as-child-allergies-increase.html

 AEDとは異なり、エピペンは処方が必要な医薬品であり、法制化しても常備するにはいろいろ問題があるのではないかと考えるのが自然ですが、上記の記事を見ると、今回の法制化を後押しする動きとして、米マイラン社が8月から各学校に無料でエピペンを設置するキャンペーンプログラムも大きいことがわかります。(ニューヨークタイムス誌は全米の州議会にマイラン社が働きかけをしているとしている)

Mylan Specialty Offers Free EpiPen® (epinephrine) Auto-Injectors to Schools Nationwide
(Mylan press Release 2012.08.14)
http://newsroom.mylan.com/press-releases?item=122583

 マイラン社が仮に全米の各学校が1キット100ドルにもなるキットを無料で設置するとなると、とんでもない費用となるわけですが、期限が来れば当然交換が必要になることを考えると、長期的に見て先行投資と考えれば決して高いものではないのでしょう。

 しかし、州法の制定の動きとは別に、特許切れにより後発品の参入が想定されていること、そして、サノフィ社が先月FDAから承認を受けた新しいデバイス“Auvi-Q”の登場も今回のキャンペーンプログラムにつながったと思います。(2016.08.30 追記:“Auvi-Q”はデバイスの問題から、すでに回収されています)

Auvi-Q
https://www.auvi-q.com/

Sanofi Announces FDA Approval for Auvi-Q™, First Voice-guided Epinephrine Auto-injector for Patients with Life-threatening Allergies
http://www.multivu.com/mnr/57459-sanofi-receives-fda-approval-for-auvi-q-epinephrine-auto-injector

Auvi-Q Voice-Guided Epinephrine Injector Cleared in U.S. (video)
(medGadget 2012.08.13)
http://medgadget.com/2012/08/auvi-q-voice-guided-epinephrine-injector-cleared-in-u-s-video.html
(ビデオを見るとまるでAEDです)

 食物アレルギーをもつ子どもの割合は決して少なくなく、事前に食物アレルギーがあるかどうか学校関係者がしっかり把握することが必要とはなりますが、AEDと同様に全ての学校に設置する意義は確かに大きいと思います。(一部に、アナフィラキシーかどうか本当に見分けられるのかという声もある)

 日本では、現行法制度の下では、学校にエピペンを常備することは難しいと思いますが、AEDの設置状況を考えると、米国のような考え方も必要ではないかと考えさせられます。

 エピペンの常備が必要なところとしては学校以外にも、蜂にさされる機会の多い森林関係の業界もありますし、可能となれば、外食チェーンなども必要ではないかという声も出てくるのかもしれません。

 また、沖縄・宮古島では今年、タイビング中にオニヒトデに刺されたことが原因によるアナフィラキシーで女性ダイビングインストラクターが命を落とす出来事があり、地元紙の社説では、「行政を含む関係者は万が一に備え、ダイビング現場などへの積極的な導入も検討すべきだ。」との声も挙がっています。

 万が一を想定するときりがありませんが、常備が必要なところはもっとあるのかもしれません。

オニヒトデ事故 海の危険生物もっと知ろう
(琉球新報 社説 2012.04.29)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-190593-storytopic-11.html

 先月、ファイザー社がエピペンの販売ライセンス取得したと発表していますが、もしかするとファイザーの国内のブランド力を通じて、今後、米国のような展開を日本でも行うのではないかということが頭をよぎりました。

マイラン・スペシャリティー社とファイザー社、
日本におけるエピペン®注射液0.3 mgおよび0.15 mgの販売についてライセンス契約を発表
-本契約によって、重篤なアレルギー反応に対する重要な治療オプションを日本で拡充-
(マイラン製薬株式会社、ファイザー株式会社 2012.08.08)
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2012/2012_08_08.html

関連情報:TOPICS
2011.09.07 エピペン注射液が薬価収載へ
2012.08.20 食物アレルギーフォーラム IN あしかが

参考:
Life saver:A call to make EpiPens mandatory at Ohio schools
(toledoBlade.com 2012.08.22)
http://www.toledoblade.com/Medical/2012/08/22/Life-saver-A-call-to-make-EpiPens-mandatory-at-Ohio-schools.html


2012年09月12日 14:04 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    後半で、学校での緊急対応のありかたとして、エピペンについてふれられています。(リンクありがとうございます)

    続報 日本脳炎ワクチン接種後の死亡のニュース
    (感染症診療の原則 2012.10.20)
    http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/9bbcabc7cf70729beb4680dd802a3572

    下記のようなものがあるのですね。

    学校の管理下における食物アレルギーへの対応 調査研究報告書(2011.3)
    (学校安全WEB 学校災害事故防止に関する調査研究)
    http://naash.go.jp/anzen/anzen_school/bousi_kenkyu/iinkai/nibukai/tabid/1419/Default.aspx

    エピペンの使用についてのQ&Aがある、下記の項目は確かに参考になります。

    第2章
    学校の管理下における食物アレルギーによる児童生徒の健康障害を効果的に防止するための方策
    http://naash.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/kenko/siryou/kankou/pdf/2bukai_allergie_4.pdf

  2. アポネット 小嶋

    都内でのアナフィラキシーショックによると思われる小学生児童死亡の影響か、この記事へのアクセスがかなり多いようで、驚いています。

    ツイッターをみると米国以外でも学校に配備しているという国もあるようですね。

    ツイッターで紹介されていた関連記事です。

    「アレルギー疾患の対応と学校生活管理指導表」
    (学校保健ウェブサイト・特集「養護教諭のお仕事」)
    http://www.gakkohoken.jp/modules/special/index.php?content_id=109

    他の記事と重複しますが関連資料と記事です。

     学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン(2008.3)【PDF:17.5MB】
    (学校保健 電子図書館)
    http://www.gakkohoken.jp/book/bo0001.html
    http://www.gakkohoken.jp/book/pdf/0100.pdf

    ぜん息予防のための
    よくわかる食物アレルギーの基礎知識2012年改訂版【PDF12.3MB】
    (大気環境・ぜん息などの情報館 独立行政法人 環境再生保全機構)
    http://www.erca.go.jp/yobou/archives/3716
    http://www.erca.go.jp/yobou/images/uploads/kanjazensoku/ap039.pdf

    保育所におけるアレルギー対応ガイドライン
    (厚生労働省 2011.3)
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku03.pdf

    保育所におけるアレルギー対応ガイドラインQ&A(2012.3 Update)
    (保育所におけるアレルギー対応ガイドライン作成検討会)
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku04.pdf

    関連情報:TOPICS
      2012.12.21 食物アレルギー ひやりはっと事例集2012
      2010.12.06 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン
      2010.10.02 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(動画)
      2012.08.20 食物アレルギーフォーラム IN あしかが

  3. アポネット 小嶋

    5月13日のNHKニュースウォッチ9で取り上げています。

    給食でのアレルギー事故から どう守る
    (NHKニュースウオッチ9 ピックアップ 2013.05.13放送)
    http://cgi2.nhk.or.jp/nw9/pickup/index.cgi?date=130513_1

    米国では13人に1人が食物アレルギー。

    学校での食堂では指紋でアレルギー食材を選んでいないかを教師がチェック。

    エピペンを学校に常備する規則や法律はすでに全米の19州で実施されている。