論文・報告あれこれ 2012年9月

 今月のちょっと気になった論文や報告などです。誤りがあったらご指摘下さい。月ごとにまとめて随時追加する予定です。 (J-STAGE に掲載のものは、発行後一定期間過ぎてから解禁となるものがあり、1年以上前に掲載された論文等を紹介する場合があります)

紹介日 論文・報告タイトル
(紹介記事・ブログ、関連論文)
概要・コメント
09.24 Disclosure and adverse effects of complementary and alternative medicine used by hospitalized patients in the North East of England
Pharmacy Practice 2012; 10(3): 125-135.)
(オープンアクセス)
入院患者に対して代替医療の使用・利用状況を調べた北西イングランドの病院での研究。ハーブやサプリメントで使用されていたものとしては、Nutritional oil、ビタミン/サプリメント、グルコサミン、バレリアン、ハーブティーなどが多かった。副作用や潜在的相互作用についての検討も行われている。
09.24 「コレステロールは高い方が長生きする」の落とし穴
(心臓 43(2) P125-126,2011)
去年の報道に対するメディアへの批判
09.24 わが国における抗凝固療法の現状
(心臓 43(2)P237-240, 2011)
ワルファリンの有効性と問題点、ダビガトランやRE-LY  試験についての解説がある
09.24 Efficacy of lafutidine a histamine H2-receptor antagonist, for taxane-induced peripheral neuropathy in patients with gynecological malignancies.
Gynecol Oncol. 2012 Oct;127(1):172-4. Epub 2012 Jun 26.)
国内ではラフチジン(プロテカジン)にパクリタキセル(タキソール)やドタキセル(タキソテール)起因性の末梢神経障害・しびれに有効だとする報告があるが、これは末梢神経疾患がある20人の婦人科系がんの患者に投与したところ14人に中等度以上の改善がみられたという国内の症例報告。ラフチジンの胃保護作用について、カプサイシンの介在した知覚神経の賦活化があることに着目したものらしい。
09.24 Nonsteroidal Antiinflammatory Drug Use and Lower Urinary Tract Symptoms: Results From the Boston Area Community Health Survey
Am J Epidemiol. 2011 May 1; 173(9): 1022–1031.Published online 2011 February 28)
(オープンアクセス)
恥ずかしいことに知らなかったのですが、最近ロキソニンが頻尿・尿失禁で処方されることがあるとのこと。この研究は、ボストン在住の男女約3800人に対して行われた疫学調査で、lower urinary tract symptoms(下部尿路症状)とNSAIDs(処方・OTC)との使用の関連を調べていいます。結果ははっきりとした有意差は出なかったが、OTCの使用との関連についてはさらなる調査が必要だとした。(日本の論文にも引用文献のリンク有)
09.24 Increased proton pump inhibitor and NSAID exposure in irritable bowel syndrome: results from a case-control study
BMC Gastroenterology 2012, Published: 5 September 2012)
(オープンアクセス)
過敏性腸症候群(IBS)と薬剤の使用との関連性を調べた case control study。PPIとNSAIDsの使用者でIBS患者が多かったが、逆流性食道炎や機能性胃腸症(functional dyspepsia;FD)の患者は除外するとPPIとの関連性は認められなかった。また、精神的な症状の合併症を有さないSSRIの使用では関連性が認められた。動物実験では、PPIとNSAIDの組合せが、腸のホメオスタシスに影響を与えることが示唆されているという。
09.24 Medication Use and Associated Risk of Falling in a Geriatric Outpatient Population
Ann Pharmacother September 2012 vol. 46 no. 9 1188-1192)
(今のところオープンアクセス)
薬剤の種類数と転倒のリスクを調べた研究。4種類で1.14倍となった。
09.24 An observational study of psychotropic drug use and initiation in older patients resident in their own home or in care.
Age Ageing. Published Online 2012 Sep 13.)
ケアホームで暮らしている高齢者と地域で生活している高齢者との抗精神薬の処方状況を比べたスコットランドの研究。ケアホームの高齢者の方が処方が多かった。
09.17 The effectiveness and safety of ginger for pregnancy-induced nausea and vomiting
Woman Birth published Online 27 Aug 2012)
(今のところオープンアクセス)
妊娠時の吐き気にショウガが有用かどうかを調べたシステマティック・レビュー。4つのRCTを解析、安全かつ有効な治療であることが示唆された。
09.17 Angiotensin-converting enzyme inhibitor use and pneumonia risk in community-dwelling older adults: results from a population-based case–control study
Pharmacoepidemiol Drug Saf Published Online 5 Sep 2012)
ACE薬の使用(但し95%がリシノプリル)と肺炎リスクとの関連を調べた population-based case–control study。肺炎のリスク減少は認められった。
09.17 Antihypertensive Drug Class Use and Differential Risk of Urinary Incontinence in Community-Dwelling Older Women.
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. Online First 12 Sep 2012)
降圧剤と尿失禁の関連を調べたlongitudinal cohort study。10の薬効群で調べたところ、ドキサゾシンなどのαブロッカーではオッズ比が4.47となった他、ループ利尿薬でオッズ比が8.81となった。
09.17 Recent advances in the pathophysiology and pharmacological treatment of obesity
J Clin Pharm Ther 37(5) p525-535,2012)
(今のところオープンアクセス)
肥満症に関する治療薬についてレビューしたもの。治験中の薬から市場から撤退したものまで、さまざまな薬の紹介があり興味深い。
09.09 Abstracts of the 28th International Conference on Pharmacoepidemiology &  Therapeutic Risk Management, 23-26 August 2012, Barcelona, Spain
Pharmacoepidemiol Drug Saf Online First 27 Aug 2012)
学会の抄録。全部で1040の演題、481ページもある(今のところオープンアクセス。このうちのいくつが論文になるのでしょうか)
09.09 アシュトンマニュアル(日本語版)

独立記事で紹介しようとも思ったのですが、とりあえずあれこれで。(日本でも実態調査が必要だと思う)
ベンゾジアゼピン系薬剤を長期服用した場合の、副作用や薬物依存の症状や、減薬する場合の手順などを記したもので、日本語版は、実際に体験した方が行っている。ブログなどを見ると、これまでも英語版で依存からの脱出を試みている人も少なくない。yomiDr.の精神医療ルネサンスで詳しく紹介されている。(9月5日の記事によると8月19日の公開から1週間で9703件のダウンロードがあったという)
09.09 Analgesic Use and the Risk of Hearing Loss in Women
Am J Epidemiol. published online 2012 Aug 29.)

以前、男性の医療専門職の疫学調査で、NSAIDsやアセトアミノフェンといった鎮痛薬を常用すると、難聴(Hearing Loss)のリスクが高まるとした報告を紹介しましたが、同じ研究グループが、女性についても同様の調査を行ったもの。米国女性看護師を対象に進行中の大規模疫学調査のデータを解析、難聴になるリスクは、週2回以上鎮痛薬を常用する人は常用しない人と比べ、イブプロフェンとアセトアミノフェンでリスク増が認めれられたものの、アスピリンではリスク増は認められなかった。
09.06 インフルエンザウイルスの薬剤耐性
(日本耳鼻咽喉科学会会報 115(7) P663-670)
日本で使用される抗インフルエンザ剤の種類と特徴,薬剤耐性の機序についての総説。最後に、抗インフルエンザ剤の処方で中耳炎が減少するかなど、抗インフルエンザ薬がの合併症に有用であるかどうか臨床報告を求めているところが印象的。
09.06 わが国のワクチン行政の現状と問題点
(日本耳鼻咽喉科学会会報 115(6) p605-611,2012)
ワクチ行政についての総説。日本における予防接種政策が立ち遅れた原因やこれからの予防接種対策について論じている。
09.06 味覚障害の診断と治療
(日本耳鼻咽喉科学会会報 115(6) p8-13,2012)
味覚障害についての総説。味覚障害患者はこの10年間で1.8倍に増加。特発性、亜鉛欠乏性、薬剤性の3大原因の他に心因性の増加がみられているという。硫酸亜鉛やポラプレジンクによる自覚症状の治癒率は60~70%あるという。
09.06 Antibiotics and Liver Injury — Be Suspicious!
Prescriber Update 2012;33(3):26-27)

抗生剤による肝障害についてまとめたもの。成分別の発生率、肝障害の種類、発症までの日数と、改善までかかる日数などについて記されえている。
09.06 Complementary Corner: Dangerous Liaisons
Prescriber Update 2012;33(3):28)
ワルファリンとハーブ・生薬などの代替療法との相互作用について注意を呼びかけたもの
09.06 う蝕予防のためのフッ化物応用に関する最近の知見
(歯科薬物療法 29(1) p1-8,2010)
水道水へのフッ化物の添加やフッ化物洗口剤の国内外の使用状況とその意義についてまとめています。日本では水道水へのフッ化物添加を行っている自治体は現在ないが、米国基地内(三沢、横田、横須賀、沖縄県)では実施されているという。
09.06 「抗血栓療法患者における抜歯のガイドライン」に関する報告
(歯科薬物療法 29(1) P34-53,2010)
ワルファリンなどの抗凝固療法が適正なINR治療域で維持されていれば、中断あるいは減少した場合と比べても抜歯後の出血リスクは変わらないとして、抗凝固療法は継続して抜歯を行い、適切な局所止血処置を行うことを推奨した。(抗血小板薬についても同様)
09.04 Tiotropium in Asthma Poorly Controlled with Standard Combination Therapy
NEJM Published Online 2012 Sep 3)
(いまのところオープンアクセス)

高用量ICSとLABAの併用治療を受けている患者にチオトピウムソフトミスト吸入(スピリーバレスピマット)を上乗せして効果があるかどうかを調べた第3相臨床試験の中間結果の発表。NBI社プレスリリースでは、治療のオプションとしての期待を滲ませたが、同時に発表された論説では、心疾患の既往歴者が臨床試験の対象から除外されていること、レスピマットというドラッグデリバリーシステムがチオトロピウムの血漿濃度を増加させ、心血管死のリスクを増す可能性があるとした昨年6月に発表されたBMJ誌の論文を根拠に、慎重な使用を滲ましている。
09.04 諸外国の後発医薬品供給体制
(健保連海外医療保障 No.89 2011年3月)
健保連でこういったレポートを定期的に出しているとは知らなかった。独・仏・英・カナダ4か国の現状(使用促進策・参照価格制度なども)について詳しく記されている。
09.04 Ten Common Questions (and Their Answers) About Off-label Drug Use
Mayo Clin Proc Published Online 8 Aug 2012)
(今のところオープンアクセス)
適応外使用(Off-label Drug Use)についての総説。具体例が結構示されている。
09.04 スイッチOTCの市販後調査方法の開発
(医薬品情報学 14(2), p58-61)
現在スイッチOTCのPMS(有効性、安全性を確認するための市販後調査)は主に製品に調査ハガキを同封し、使用者により自主的に投函された調査ハガキを集計するといった方法でお粉われているが、回収率が低く回答者に偏りが生じる可能性がある。研究者らは、副作用の症状などを平易な表現で記載した質問用紙を用いて、ファモチジンの購入者を対象に検討を行った。
09.04 点眼剤の後発医薬品使用促進に関わる薬剤費の比較研究
(医薬品情報学 14(2),p62-68)
1瓶ごとに何滴とれるかということも検討されていることが興味深い。1滴あたりの適量が20%以上増えたり減ったりすることがあるという。
09.04 英国における地域薬剤師の高度業務から学ぶブラウンバッグ運動の新しい方向性
—リスクコミュニケーションへの応用—
(医薬品情報学 14(2), p69-74)

2005年に英国で導入された薬剤師用点検サービス(Medical Usee Review:MUR)を参考に、今後ブラウンバッグ運動(地域薬剤師による服用薬の包括的な併用実態調査)をどのような視点ですすめ、日本での取り組みにどう生かすかをまとめたもの。(日薬でもレポートが出るなど興味深いんだけど、個人的にはまだまだ理解が不十分。日本のサイトも参考にしたい)
09.04

An Old Drug for a New Application: Potential Benefits of Sildenafil in Wound Healing
(J Pharm Pharm Sci, 15 (4): 483-498, 2012)
(オープンアクセス)

シルデナフィルの創傷縫合(wound healing)への影響について行われた臨床研究のレビュー。シルデナフィルによる血管拡張作用、血小板凝集や付着力抑制に著る微小循環の血行動態の強化、脈管形成の刺激、癒着繊維芽細胞のアポトーシスの誘導(?)、炎症反応縮小などのさまざまなメカニズムが創傷縫合に影響を及ぼしているのではないかとした。
09.04

Management of Delirium in Adult Critically ill Patients: An Overview
(J Pharm Pharm Sci, 15 (4): 499-509, 2012)
(オーオウンアクセス)

集中治療室(ICU)におけるせん妄(Delirium)の病態生理や非薬物治療・薬物治療について検討したもの。薬物治療では、ハロペリドール、クロルプロマジンなどの定型抗精神病薬の他、リスペリドールなどの非定型抗精神病薬、Dexmedetomidine(α2受容体作動薬)、クロニジン、リバスチグミン、メラトニンなどが検討されているという。
09.02 Polypharmacy in older adults at home what it is and what to do about it- implications for home healthcare and hospice.
Home Healthc Nurse.2012 Sep;30(8):474-85.)

Polypharmacy(多剤投与・多剤療法)についての総説。高齢者向けの薬物療法のGLとしては、 Beers Criteria の他に STOPP、START というツールがあるとのこと。また、DTC(消費者直接広告)がPolypharmacy や 薬の乱用を増やしている可能性があるとの報告もあるという。
09.02 Pharmacist-based Donepezil Outpatient Consultation Service to improve medication persistence
Patient Prefer Adherence Online First 28 Aug 2012)

ドネペジル(アリセプト) の服薬の意義を患者や家族に伝えるために薬剤師が行っている名古屋大学医学部附属病院の外来教室(予約制の個別指導)の有効性を調べた研究。1年後の薬物療法の継続率を比べたところ、外来教室に参加していなかった人では49.2%であったのに対し、参加した人では73.1%と高くなった。研究者らは、外来教室を通じて患者とその家族に認知症の臨床像と抗認知症薬の薬理学的知識について理解することで、良いアドヒアランスが得られるとした。(おそらくすでに学会発表があるのでしょうね)
09.02 Patient versus Healthcare Professional Spontaneous Adverse Drug Reaction Reporting: A Systematic Review
Drug Saf. Online First 2012 Aug 29)
副作用報告について、患者が行う場合と医療職が行う場合の違いを調べた3つの研究(英・オランダ・デンマーグ)をレビューしたもの。オランダ・英では上位にスタチンやPPIが占められた他、類似性が認められたが、こういった比較研究は少ないとして、さらなる研究が必要だとした。(フルテキストを読んでみたい)
09.02 Survey in the Emergency Department of Parents’ Understanding of Cough
and Cold Medication Use in Children Younger Than 2 Years.
Pediatr Emerg Care. Online First 2012 Aug 27)
米国では2007年8月に2歳未満へのOTC風邪薬・咳止め薬(CCMs)を使用しないよう勧告(TOPICS 2007.08.16、 2008年10月には4歳未満に引き上げ→TOPICS 2008.10.08)が行われていますが、この調査は第3次医療行う軍の医療機関の救急部門の親たちを対象に、この勧告をどのくらい知っているかを調べたもの。FDAの勧告を知っていたのは31%だった他、CCMsが効果的である63%、安全である57%などの回答が得られた。(日本でも、2歳未満は医師の診察を優先してということはどのくらい知られているだろう?)
09.02 長崎県五島列島での医薬共修による地域医療実習の実践
(医療薬学 37(8),p457-465,2011)
平成20年度に行われた、長崎大学薬学部の旧4年生に行われた離島実習の紹介。
09.02 薬剤師業務の経済性評価
(臨床薬理 41(6),p291-300,2010)
薬剤師の職域を広げるためには、現在行われてるさまざまな業務についてのエビデンスを社会に示すことが求められていますが、この総説では地域薬局でのファーマシューティカル・ケアにおける薬物治療に着目した経済性評価の海外事例(報告・論文)について紹介。
09.02 特集/市販後に分かる薬の安全性と最近の撤退薬
(臨床薬理 40(1),2009)
サリドマイドについてググったところ出てきた特集企画。記憶に新しい、バイコール/セルタ(セリバスタチン)、プロパノールアミン、ノスカール(トリグリタゾン)、アセナリン/リサモール(シサプリド)などについて、市場からの撤退の事由や経緯について記されている。

2012年09月24日 15:20 投稿

コメントが1つあります

  1. シッフズジャパン 鈴木

    特集/市販後に分かる薬の安全性と最近の撤退薬:
    新薬開発にかかるコストは約900億円(2001年)と高額になるとのこと。資本の論理に任せておいては、サリドマイドの時のように副作用の社内文書暴露に50年以上かかるのでは?