シグナル(EMA・PRAC 2012.9)

 EMA(欧州医薬品庁)では、EUのファーマコビジランスに関する新たな法令施行に伴い、新たな科学委員会であるファーマコビジランス・リスク評価委員会(Pharmacovigilance Risk Assessment Committee:PRAC)が創設され、医薬品に関する主要な情報の収集が強化されています。

 PRACでは、医薬品承認後の安全性・有効性研究を通じた収集を行い、その検討を行っているのですが、透明性および情報伝達を向上のため、議事予定や議事録の公開が行われるようになっています。

 PRAC: Agendas, minutes and highlights(EMA)(→リンク

 このうち注目したいのは、EudraVigilanceなどのデータをもとに出されるシグナルの検討です。

 シグナル(検出)とは、TOPICS 2012.09.13 でも紹介しましたが、「ある有害事象とある医薬品との因果関係(これまで知られていないか報告が不十分なもの)の可能性について報告された情報」のことで、シグナルはあくまでデータと議論による仮説であり、因果関係がはっきりと証明されたものではないという点には留意する必要がありますが、既に本邦の添付文書に反映されているものもあり、注目する必要があります。

 5日、9月3日-5日に開催されたPRACの議事録が掲載され、シグナルとした理由が示されています。

Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC)
Minutes of meeting 3-5 September 2012(→リンク

 もちろん現時点では因果関係が結論づけられてはいませんが、30日~120日以内にさらなる事例がないか報告を求め、改めて評価を行うようです。

医薬品名
(本邦名)
シグナル
の内容
議論の概要 本邦記載
の有無
アダリムマブ
(ヒュミラ)
 皮膚筋炎 EudraVigilanceから検索される14の事例に基づき検出。 文献でも症例報告(J Rheumatol. 2012 Jan;39(1):192-4.)がある。一部の事例に自己免疫疾患のなどさまざまな要因も考えられるが、さらなる検討が必要
シナカルセト
(レグパラ)
QT延長/心室性不整脈 EudraVigilanceから検索される15の事例に基づき検出。もともとある低カルシウム血症に基づく症状とも考えられるが関連性も除外できない 重大な副作用(5.8%)
クロピドグレル
(プラビックス)
好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia) EudraVigilanceでの7の事例に基づき検出。日本での症例報告(Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2011 Nov;49(11):838-42.)や中止で症状が改善することからさらなる検討が必要  
デュロキセチン
(サインバルタ)
アリピプラゾール(エビリファイ)との相互作用によるセロトニン症候群 EudraVigilanceから得られた6の事例に基づき検出。アリピプラゾールはセロトニン受容体の部分的作動薬であり、デュロキセチンとの薬力学的相互作用のためにセロトニン症候群が発現する可能性を除外することができない アリピプラゾールのCmaxやAUCが増加する報告がある(低下するも併記)
ロキシスロマイシン
(ルリッド他)
聴力障害 イタリア医薬品庁(AIFA) からの14の事例に基づき検出。内耳神経毒性はマクロライド系の薬剤で一般的に報告されることがあるが、非可逆的な障害の懸念がある  
ロキシスロマイシン
(ルリッド他)
スタチンとの併用による横紋筋融解症 イタリア医薬品庁(AIFA) からの14の症例報告に基づき検出。  
 シタグリプチン
(ジャヌビア・グラクティブ)
横紋筋融解症 EudraVigilanceから検索される41の症例報告に基づき検出。 文献による症例報告も含め、スタチンとの併用例で報告されている。多剤が併用されている腎機能が低下している高齢患者に追加された場合などでしばしば見られた 重大な副作用(2012.4改訂)
ソマトロピン
(各社)
痙攣 EudraVigilanceに報告された228の事例に基づき検出。一部の製品には頭蓋内更新の記載がある 重大な副作用
スニチニブ
(スーテント)
胆のう炎
(cholecystitis)
EudraVigilance、EMAで確認された17の事例に基づき検出。  
バレニクリン
(チャンピックス)
痙攣 英イエローカードデータベースの85の症例報告に基づき検出。 その他の副作用に“筋痙攣”の記載
Vemurafenib 膵炎  EudraVigilanceに報告された9の事例に基づき検出。  (本邦未発売)

 一方、10月1日-3日に行われたPRACの議事予定(未定稿)もアップされています

 詳しい紹介は、議事録が出てからにしたいと思いますが、下記についてのシグナルが検討されたそうです。

  • アリピプラゾール(甲状腺機能低下)
  • アリピプラゾール(デュロキセチンとの潜在的な相互作用によるセロトニン症候群)
  • エルロチニブ(膵炎)
  • エルロチニブ(足底発赤知覚不全症候群
    (PPE症候群:palmar-plantar erythrodysaesthesia syndrome))
  • 4価ヒト・パピローマウイルスワクチン“ガーダシル”
    (喘息に有無に関係のない気管支の痙攣)
  • インフルエンザワクチン(extensive limb swelling (ELS))
  • Iplimumab(アナフィラキシー)
  • ミルタザピン(膵炎)
  • Sugammadex(過敏性反応とは無関係な呼吸器症状)
  • テモゾロミド(肝不全)
  • トラゾドン(起立性低血圧と高用量開始時の傾眠)

 一方こういった医薬品の監視となるとものすごい数となります。そこでEMAでは、成分ごとにどの国がEudraVigilanceのデータを中心になってモニターするとかを決めています。

European Medicines Agency publishes active substance list with lead Member State responsible for safety monitoring
(EMA 2012.10.05)(→リンク

 潜在的なシグナルを公表する動きは、米FDAなどの取組も知られていますが、オランダでは Lareb では詳しい検討結果も示された Quarterly reports  として公表後、一覧表にまとめてあり見やすくなっています。(英語です。こちらも今後は紹介する予定)

Potential Signals of Serious Risks/New Safety Information Identified from the Adverse Event Reporting System (AERS)(米FDA)
http://www.fda.gov/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/
Surveillance/AdverseDrugEffects/ucm082196.htm

Signals(Lareb)
http://www.lareb.nl/Informatie-bijwerkingen/Signalen

Quarterly reports(Lareb)
http://www.lareb.nl/Informatie-bijwerkingen/Kwartaalberichten

参考:
新たなファーマコビジランス法の施行(EMA 2012.07.02)
(医薬品安全性情報Vol.10 No.17 2012.08.16)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly10/17120816.pdf#page=8


2012年10月07日 13:06 投稿

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